風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、第2歌集「鑿岩夫」を読み了える。
 第1歌集・
「どん底の叫び」は、今月19日の記事にアップした。
概要
 1930年、紅玉堂・刊。「どん底の叫び」と同じく、発禁となる。無産者歌人叢書。
 藤沢清造・序、西川百子・序、自跋を付す。
 この2歌集の間に、二松学舎専門学校・中退、本家・岡部家への婿入り(?)婚がある。なお幼くして母を亡くし、1929年に父を亡くしている。
 このような状況や、プロレタリア運動の自分への疑問から、等で「プロレタリア歌人同盟」を脱退した。
感想
 「解説」で「ただ勢いのおもむくままの叫びというものであるかもしれない。」と書かれるけれども、非定型ながら、レトリック的には、充分に練られた作品である。
 自跋で、「感動性、効果性について今後も深く考究して行くであらう。」と述べている。
 当時の労働者の思いを表現していたか、どうかは、僕は知らない。
 2歌集とも発禁とはいえ、大いに煽って撤退したあとの反動は、大きいものだったろう。
 それを凌いだのも、短歌の力であったか。

引用
 以下に5首を引く。なお(′)のついた語には、アンダーラインを引いた。
カンテラに命を懸けた一銭二銭の涙金、あつたかい仲間から寄せ集めた金が一円、汗でべとべとよごれた一円紙幣(さつ)でセメント樽の棺が出来た
おら、いい年齢(とし)して争議や、やめだ」「ええ!なにいふぞい」なあ製煉夫の辰公や、お前にや亜硫酸瓦斯でただれた声ふり絞って「足手まとひだがおらもまぜてくれ」おお!あの六十のお爺(やつ)さんのことが忘れたつてかい
ぶつつづけに続く業雨(ごふさめ)だ、トンネル長屋はむくれかへり床下まで泥水だ仕事はねい立つてもゐてもおられん嬶あはきんきん声でどなりちらすんだ
がちがち冷飯かつこんだ女工達(おれたち)は金網にへばりついて深呼吸だ、換気扇も廻つとらん工場の中は埃でもうもうだい
拘束(しよつぴ)かれる仲間を、ただれた赤い眼で、じつとにらむ父つあん、父つあんは ぶるぶる、み、み、身もだえするばつかつだ
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写真ACの「童話キャラクター」より、「桃太郎」のイラスト1枚。




 

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 綜合歌誌「歌壇」2017年11月号を、作品中心に読み了える。
 
この本の到着は、細かい経緯と共に、今月18日の記事にアップした。
特集 旅の途次を詠む
 特集の新しいテーマを見つけたようだ。時事、季節を離れて、新しい歌の読みも出る。
 総論を含む3編の評論、「私の旅の途次の歌」(3首と小文)8名では、バイクでの風まかせの歌から、インドでの旅まで、様々なセットがあり、旅をあまりしない僕を喜ばせる。
 巻頭歌はそれぞれ感慨があるのだけれど、ここでは端折る。
インタビュー 尾崎左永子さんに聞く
 尾崎左永子(以下、敬称・略)に、富田睦子がインタビューする。尾崎左永子は、17年間、歌を止めていたという。僕は意識する事はなかったが、復帰のきっかけに岡井隆と馬場あき子がいたというのは、歌壇らしい。
 放送作家としての活躍、染織の探訪など、興味深いエピソードも語られる。僕は彼女の「栄花物語」だったかの、現代語訳に惹かれた思い出がある。
短歌甲子園レポート

 高校生の短歌甲子園対戦が、啄木の岩手、牧水の宮崎県で、2つ開かれた。対戦も年を重ねて、平静に対するようだ。歌壇の隆盛に繋げてほしい。
引用
 一ノ関忠人の「この十年」12首より、1首を引く。
辛うじて病ひくつろぐ時到るこのよろこびの言ひがたきもの
 写実でもなく、ロマン派でもない。生活の思いである。このような歌が在って良い。




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 詩集を読もうと思って、「白秋全集」の「詩集編 1」を取出して来たのだけれど、その贅沢な編集ぶりと、感覚偏重にお手上げだった。
 それで以前より気になっていた、「吉本隆明全詩集」を取り出してきた。
 2003年、思潮社・刊。1,811ページ。価格2万5千円を、中古本1万5千円で入手。
 2重箱であり、写真は内箱の表である。
 なお僕は、勁草書房「吉本隆明全著作集」全15巻を読んでいたらしく(寄贈して今は手許にない)、この全詩集の多くの詩は、理解は別にして既に読んでいる。
概要
 吉本隆明の詩を、政治論や文学論、まして多くの論争から離れ、詩とのみ対して、本の順番ではなく、詩作の順番から取り付いたなら、取っ掛かりようもあるかと、初期詩編より読み始めた。大冊だけれど、「雨垂れ石をも穿つ」の気持ちで進みたい。
感想

 初期詩編「Ⅰ」は、1941年~1944年の7編である。
 宮沢賢治の影響を感じられる「朝貌」や、「序詩」の「大イナル祖国ノ闘ヒノ中ニ/自ラヲ捧ゲテ征カネバナラヌ」の戦争少年ぶりが、眼につく。
 初期詩編「Ⅱ」は「呼子と口笛」と題され、1943年・作の14編を集める。
 「呼子」は妹に宛てた書簡体で、生活詩派風な所がある。
 「フランス語回顧」では、当時の敗国・フランスを思い遣って、抵抗の思いがあるか。
 「ワタシノ歌」では、漢字・カタカナ混じりの文体で、壮士の歌だ。また一方、「花」では、木蓮の花をうたって、危うく戦争翼賛へ手放しで傾かない心情を描いている。


 

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