角川書店「生方たつゑ全歌集」(1979年初版、1987年再版)より、第5歌集「雪の音譜」を読みおえる。
 第4歌集
「浅紅」は、先の1月23日の記事にアップした。
 「雪の音譜」は、1953年、第二書房・刊。1950年~1952年春までの、作品を収める。
 題の命名は、「国民文学」の松村英一。
 夫の渡米、夫の公務員としての東京の公邸と群馬県の自宅との往復生活、歌に詠まれた娘の一時的離反など、苦悩の多い時期だった。
 ただしここまででは、政治的前衛ではなく、芸術的前衛という程もなく、冷静に身を処して詠い続けている。

 以下に7首を引く。



墜ち得ざる心がいまも炎ゆるゆゑ過去(すぎゆき)もまたけふも苦しむ
とげとげと痩せたる猫が爪をとぐ猜疑のきざす日のゆふまぐれ
潮のいろに空かがやけばあたためて𨗉(はる)かに恋ふるもの胸にあり
曇りさへあかるき雪の日が二日こころをさなく寄りつつぞゐる
夢多く破れてもなほほのぼのと導かれゆく明日の日があり
いかなるを心満つるとなすべきや仆れ木と湖(うみ)とこゑなき時に
苦しみに似たる思ひを告ぐべきや光すべりゆく草やまの中
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「写真AC」より、チョコレートの1枚。多くの男性の意を表して。