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 県内にお住まいの詩人・作家・評論家の定道明(さだ・みちあき)さんが送って下さった、小説集「風を入れる」を読みおえる。
 本の到着は、今月2日の記事、
「届いた2冊」で報せた。
 2017年2月1日、編集工房ノア・刊。
 定さんは、高校教師時代より、旺んな創作活動を続け、詩集「薄目」「糸切歯」「朝倉螢」他、小説集「立ち日」「鴨の話」「杉堂通信」他、中野重治・論「中野重治私記」「中野重治伝説」「中野重治近景」他を、上梓した。
 この本は、定さんが中心となる文学同人誌「青磁」に初出の、5編の短編小説集である。
 主人公は、三人称が多いながら心境小説に近く、定年後の余裕も鬱屈もある生活が描かれる。
 「黒壁夜色」は、車で夫婦が従兄の葬儀のため滋賀県長浜を訪い、前日に妻は娘と孫に逢い(「佐伯」は娘と義絶している)、佐伯は古物商を尋ねるが閉店しており、焼鳥屋で飲む羽目となる。
 「羽昨まで」は、羽昨を訪う話だが、ストーリーは50年以上前の60年安保の敗北とその後をいかに潜ったか、犠牲者の話も交えつつ語り、能登上布の制作展を観る現在に戻る。
 「風を入れる」は、「加納」が田舎にある先祖代々の家に、風を入れるために戻り、出会う人や過去を自在に語る。
 「和食堂柘植(つげ)」は、「私」が軽井沢の和食堂「柘植」のソムリエ・熊澤君と知り合い、何度めかの訪問と談話を果たす話である。小さな中古物件を欲しがって、タクシー運転手にまで窘められるサイドストーリーもある。
 「柿谷の場合」は、「柿谷」が定年後にキャンピングカーを買って旅に出たいとする話を初めと終わりに置き、同級生たちと焼鳥屋で飲む例会など、生活の陰翳が描かれる。
 大きな破綻のない生活を送って定年後を迎え、老いに入る男性の、心境が描かれている。