青土社「吉野弘全詩集 増補新版」(2015年2刷)より、第4詩集「感傷旅行」を読みおえる。
 
第3詩集「10ワットの太陽」は、今月19日付けの記事に感想をアップした。
 原著は、1971年、葡萄社・刊(著者・45歳)。1972年、読売文学賞・受賞。
 詩集は、2部9章に分け、55編の詩を収める。
 「営業」では、スポンサーとの宴席で「果然/貴公子・若社長が言った。/<あと二つや三つ、倒産してもらわないと/これまでの苦労の甲斐がない>…重い眠りへ グラリと傾き乍ら/私は自嘲して呟いた/実業に処を得ざるの徒、疲れて眠る、と。」と仕事(コピライター)の非実業ぶりを嘆いた。
 「妻に」では、嵯峨信之の詩「広大な国―その他―」に反論しようとするが、「人間」を自然、人類、個人として、と分けて考えれば、嵯峨の言が当たっているように思える。
 「熟れる一日」では、「空にいらっしゃる方(かた)が/大きなスプーンで/ひと掻きずつ/夕焼けを/掬って 召しあがるのか」と、有神論へ傾く。「石仏」では同じく「ふりかえると/人はいなくて/温顔の石仏三体/ふっと/口をつぐんでしまわれた。…」と書く。
 「飛翔」では「ふりはじめのとき、雪は/落下を一瞬、飛行と思い違えた。/―むりもない、二つは似ている/しかし、すぐに同意したのだ、落下に/…」と詩人の自覚的な心象のようだ。
 詩集の末に、後記「挨拶ふうなあとがき」と略年譜を付す。
梅6
Pixabayより、白梅の1枚。