角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、歌集「春祷」を読み了える。
 前歌集
「鎮花祭」は、先の4月10日の記事にアップした。
 「春祷」は、1968年、新星書房・刊。
 後書「をはりに」で、「『定本生方たつゑ歌集』を出版したあと、急に私は短歌を発表しなくなった。…数多い作品は今までの歌集とはおもむきをかへて、書おろし短歌とよばれてよいものが含まれてゐる。…私は『休息のないひとり』のあゆみの重たさをしみじみと知った。」と書いた。
 前歌集「鎮花祭」に続いて、戦後前衛短歌から後退しているように見えながら、次の歌集「虹ひとたび」では能を題材に新しい作品を創っているので、期待を繋いで良い。
 この「春祷」には、氷見、化野、鳥取砂丘、谷川岳等の、旅行詠も多い。
 以下に7首を引く。
人をりて屋根に唄ひつつタール塗るすがすがとして飢ゑゐるまひる
ねむる禽の膨らみやさしあたたかく吾も膨らみて寝ねたし夜は
金銭のちからに人のうごきゆく世と嘆ききて買ふセロファン紙
梟がまひる見えざる目をあきて膨れし顔のやさしくうごく
かなしみにすり替へらるる血塊のやうに沈まむ陽に向くときに
奪はれてゆきたし北の潮荒れてさわさわと鳴る渚にをれば
日本海の雪に沿ひきて眠らむをあこがれとせり咎むるなかれ

 なお題名の「祷」の字は、正字より新字に替えてある。
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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。