青磁社「永田和宏作品集 Ⅰ」(2017年5月・刊)より、第3歌集「無限軌道」を読み了える。
 第2歌集
「黄金分割」は、先の7月30日の記事にアップした。
 原著は、1981年、雁書館・刊。
 冒頭の「饗庭抄」は、生地の「饗庭(あいば)村」より採って、母恋の連作30首である。母の結核発病のため、2歳より近所に預けられ、4歳の時に母が亡くなり、彼には母の面影が無いという。想像の面影を顕たせるなど、哀切な連作である。
 また妻・河野裕子との葛藤、研究あるいは短歌のライバルとの競争、なども詠まれる。
 この間、1978年に31歳で理学博士となり、翌年に京都大学講師に採用された。短歌では、評論、討論会の企画・参加でも活躍した。
 以下に7首を引く。
立ちしまま浮子(うき)流れゆく流されて思えばわれに無き少年期
抱かれし記憶持たざるくやしさの、桃は核まで嚙み砕きたり
ささくれて世界は暮るる 母死にし齡に近く子を抱きて立つ
ずたずたにわれらさびしく眠る夜を遠く鳴きおりはぐれふくろう
敵として立たん覚悟のさしぐみて汗の鳩尾、壮年の坂
アノヤロウ、タダオクモノカ迸る蛇口の水に髪打たせいる
中枢を発して行き場失える怒り燃えおり 逆光の耳
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。