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 8月22日の記事「届いた2冊」で紹介した内、残る綜合歌誌「歌壇」2017年9月号を、作品中心にほぼ読み了える。同・8月号の拙い感想は、7月22日の記事にアップした。
巻頭作品20首
 尾崎左永子(以下、敬称・略)「音」20首が、盛年時代を回顧して、感慨深い。1首を引く。
高架路を走り抜けゆく快感はすでに過去わが盛年も過去
 久々湊盈子「夏こそおみな」20首。
 「勘違いされいるらしく折々にとどく句集に言葉をもらう」ともあり、次の1首はその成果だろうか。
雑巾がけは難儀なれどもフィンつけて泳ぐを喜ぶ身勝手な膝
特集・時代を読み、詠む
 松村正直の総論「常識・過去・重層性・多義性」は、過去とレトリックに拘って、現況に曖昧な気がする。
 「作品五首とコメント」12氏は、スローガン的な作品は頂けない。
 風間博夫「紋左」では、「焼き鳥の竹串し抜いて皆でつつくことなどあらじ苦(にが)しビールは」と共に、次の1首がドキュメントとして優れる。
言論の自由失せゆかん午前七時四十六分過ぎのにつぽん
 斎藤佐知子「言霊の」の、コメントで「言葉が辱められている」と述べる。中西信行「隘路の間」5首末で次のように詠む。
バベルの塔の故事の前夜か言の葉の汚れ乱るる未来あやふし
 今年5月2日の記事
「詩誌「生魚」No.86」で書いたように、政治家は半意図的に、言葉の世界を空虚化しようとしている。更には、言葉に悪意を付着させている。
インタビュー「橋本喜典さんに聞く」③
 今回の末の章の題が「この国の明日が心配でしょうがない」であり、戦後の思いやりの良識が失われそうである事を憂える。
作品12首
 内山晶太「蟬声」では、次の1首が、勤め人(あるいは学生)の農業に慰められる心境を描く。
夜の畑にしげる野菜をなぐさめとしてわたくしの帰路つづきおり
 藤野早苗「迦具土神」は、6月の情動と共に、「共謀罪」成立への怒りをも詠む。1首。
六月の夜陰に紛れ生れにけり迦具土神(かぐつちのかみ)のごとき一法
作品7首
 牧雄彦「草萩」の、次の1首のような異様な光景は、僕も喫茶店で見掛けた。
向きあひで飯を食ふべる若き女男スマホ操り物は言はざり
 評論・他も有意義な編が多いが、ここでは取り上げない。