風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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2019年10月

 先の9月29日の記事、入手した5冊(4)で紹介した内、渡辺茂子・歌集「湖と青花」を読み了える。
 読み了えた単行本歌集として、9月21日の記事、大野英子・歌集「甘藍の扉」を読むに次ぐ。
 共に贈呈を受けた本である。

a・湖と青花
 渡辺茂子さんは短歌結社「覇王樹社」の同人である。
 「湖と青花」は、2019年9月14日、不識書院・刊。覇王樹叢書第219編。
 先の1997年、第1歌集「未完の譜」(日本歌人クラブ近畿ブロック賞・受賞)があり、2019年にエッセイ集「落とし文」がある。

 「湖と青花」は、1ページ3首、1首が2行にわたっている。
 比喩の歌、それも暗喩の歌が多い。ロマンがあり、歴史にも視線が行く。(僕は日々の生活の歌で、精一杯である)。
 気丈であるだけに、内に鬼が棲むとも詠む。しかし穏やかな夫君と仲良く、立派に息子さんも育ち、元気なお孫さんを恵まれ、ペットの犬を可愛がっている。
 家の新築、姑の死、自身の大手術なども歌材と成す。琵琶湖に近く住み、たびたび訪れて歌に想いを放っている。


 以下に7首を引く。
かなしみを研(と)がむと湖に来たる日よ淡き水色のスカーフ巻きて
鬼瓦の眼より漏れくる日の光われに屹立の歌あらしめよ
駆けゆきてまた戻りくる犬の仔よ虹たつ原のメルヘンとなる
「ばあば見たか」声をはづませ幼児は象に驚く獅子に驚く
幼顔はるかとなして髭面にボージョレー・ヌーヴォーぬつと提げくる
過ぎし道振り返るまじ夫とゐる居間あたたかくコーヒー香る
時々は夫の書斎に寛げる犬とわたしと夏の木漏れ日




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 青幻舎の文庫版「北斎漫画」(全3巻)より、第2巻「森羅万象」の第3章「波浪流水」を見了える。
 同・第2章「山川草木」は、先の9月27日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡り得る。

 「波浪流水」の章は、43ページに渉る。大作「富嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」のように、北斎は形をたちまち変える「水」の表現に関心があったようだ。

 「渦巻水」「浅瀬」の見開き2ページ・上下段分け描きより始まり、「寄浪」「引浪」、「石川」「深川」も同じ趣向である。
 「阿波の鳴門」、各地の名のある岬、大小の船を浮かべる海、古式泳法、諏訪湖氷渡、各地の滝、「信濃 小野の滝」は見開き2ページで本を立てにして見る図に小さな旅人を添えた。
 最後は「伐木渓を下す」の図で、多くの大木の川流しを描いて勇ましい。
 北斎が見たことのない景色を含め、水と浪への執着を表した章である。

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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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 沖積舎「梅崎春生全集」第3巻(1984年・刊)より、6回め、しまいの紹介をする。
 同(5)は、先の7月19日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡れる。

 今回は、「十一郎会事件」、「紫陽花」、「侵入者」(「写真班」、「植木屋」、2編より成る)、「ある少女」の4編を読んだ。
「十一郎会事件」
 画家の早良十一郎が個展を開き、林十一郎を名乗る男(架空の「十一郎会」会員)に絵を騙して借り出されるれるものの、個展の最終日に絵に高級ウィスキーを添えて返される、ミステリーめいた1話である。

「紫陽花」
 野田三郎・青年に学資を支給していた、貴島一策・トミコ夫婦が、突然、毒物自殺してしまって、もう一人の娘さんと共に、支給を打ち切られる話である。理由は不明なままである。
「侵入者」
 「写真班」では、住宅金融公庫の写真班を名乗る男2人に踏み込まれ、勝手に屋内の写真を撮られる。電気屋も、強引に玄関ブザーを取り付けて行く。
 「植木屋」でも植木屋が、強引に庭木を植え付けて行き、あるいは中より抜き去って行く。
 経済が復興に向かう戦後10年、人心はまだ安定しない部分があり、小業者も取り残されそうで、強引になっている。
「ある少女」
 敗戦の年の秋、「私」が16、7歳の娘に外食券食堂で、芋1切れを恵もうとして、拒まれる。しばらくして、その少女はヤミ屋の売人になり、外食券や煙草を売るようになる。5年ほど後、その娘さんが裕福そうな奥様になり、3歳ほどの男児を連れていた、という後日談が付く。梅崎春生は、戦地や敗戦直後を描いて、迫力がある。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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 先の9月18日の記事、入手した4冊(4)で紹介した内、小坂井大輔・歌集「平和園に帰ろうよ」Kindle Unlimited版を読み了える。
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズとして、9月15日の記事、寺井奈緒美・歌集「アーのようなカー」同を読むに次ぐ。

4・小坂井大輔 平和園に帰ろうよ
 「平和園」とは、名古屋駅西口にある、中華料理屋であり、小坂井大輔の実家で職場である。ここに多くの歌人が訪れ、歌人の聖地と呼ばれる。記名帳には、多くの歌人の名前が記され、憧れの地となっているという。
 笹公人のツイート写真では、小坂井大輔は体格の良い、スポーツマン風である。歌集には、試合・部室の語の入る歌もあった。フィクションも混じるだろうが、ヘタレの歌を詠み、生き辛そうである。
 歌集を進むに連れて、レトリックが上手になって、空転しているような歌はつまらない。
 短歌と人気と収入で、歌集出版に至ったことはめでたい。


 以下に7首を引く。
値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す
株券が紙きれになる阿阿阿阿と居間で小さな父がのた打つ
無くなった。家も、出かけたまま母も、祭りで買ったお面なんかも
雨の音をアプリで買って聴いている晴れの日こんな午後に死にたい
母親が手押し車を欲しがる日なぜか生あくびが止まらない
苦しいと狂おしいってよく似てるあめあめふれふれもっともっとだ
おれもテフロン加工してくれ困難で焦げつく身体だから頼むよ


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 プロ・マンガ家、「あんこと麦と」のブロガー、インスタグラマー等としてご活躍の、あかつきりゅうさん(暁龍さん)より頂いた、カレンダーの2019年10月分2種を紹介します。
 同・9月分は、先の9月1日の記事にアップしました。

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 昨年末に抽選に応募して、3セット枠より当選した卓上型カレンダーの、10月分です。
 9月30日には、差し替え忘れて、「あんこと麦と」のブログを観てしまい、先にイラスト内容を知りました。
 古城を背景に、ハロウィンに怯える麦くんと、宥めるあんこ・魔女です。
 ふだんは多機能プリンタの上に置いています。

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 ブログ「あんこと麦と」の9月30日の記事、「10月のカレンダー」より、僕のスマホにダウンロードしたカレンダーです。

 写真は共に拙いですが、上記リンクの記事より、誰でも驚くほど鮮明なカレンダーをダウンロードできますので、是非お試しください。
 なおこの紹介の掲載は、前以って作者のご諒解を得てあります。




 


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 角川書店「増補 現代俳句大系」第15巻(1981年・刊)より、6番目の句集、和知喜八「同齢」を読み了える。
 先の9月9日の記事、鈴木六林男・句集「桜島」を読む、に次ぐ。

 原著は、1976年、響焔発行所・刊。406句、著者・あとがきを収める。
 和知喜八(わち・きはち、1913年~2004年)は、1940年、加藤楸邨「寒雷」に参加。戦後、日本鋼管の社員としての職場俳句、1958年に職場俳句誌「響焔」の創刊、等と活躍した。イデオロギーに拠らず、自由に吟じた運動とされる。

 他人の表情を窺う作品が多い。製鉄所現場を捉えようとしたからだろうか。
 また体言止めの句も多い。治まりは良いが、多用すると安易になる。
 新かな遣いを通した点は新しい。

 以下に5句を引く。

千地蔵くりくりとこの暑い日に
青胡桃明王が負う火炎上
かんじきで歩き続けて口結ぶ
暗黒に五月まひるの鮫干場
重荷負うごとき花びら薔薇匂う
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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