短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、歌集「雪天」(後)を紹介する。
 
同・(前)は、今月21日の記事にアップした。
概要
 1,070首の大冊なので、前後、2回に分けて紹介する。
 今回(後)は、668ページの「晩秋」の章より、しまい700ページまでである。
 失語症に陥った直後に刊行されたが、このあと生前の作品は載っていない。初期・未刊歌集「氷見」と、6冊の合同歌集よりの抄出が残るのみである。自宅療養の約4年間、歌を詠むまでに回復しなかったのではないか。
感想
 しまいの歌集となる事を予感したように、1年半くらいの間に、1,070首が溢れるように詠まれた。
 景に心遊ばせて詠んだ歌もある。営々と詠み継いで、技芸の名人が、今、心遊ばせるかのようだ。
 同じ事物を詠んでも、類型歌はなく、様々な面から詠んでいる。
 また福井県坂井郡(現・坂井市)春江町についの住処を定めながら、郷土・能登への郷愁は尽きなかったようであり、所々に現れる。
引用

 以下に7首を引く。
ゆくりなく吾は来りて水にある雲の白きにこころは遊ぶ
(な)るまでに十三年の柚といふ植ゑて待つともつひに見ざらむ
をやみなきこの雪の夜の雷にして響り震ひつつさびしきものを
雪の日のゆふべを待ちて鮭の氷頭(ひづ)煮つつ食はむと思ふたのしも
南瓜を食ひ柚湯を浴みて雪ぐにの古き仕来(しきたり)に今日を順ふ
月明かきこの夜(よは)にして雪の上(へ)を流らふ雪の音のかすけさ
雪の上に泉の上におのづから落ちて鮮らし椿の紅は

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写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。