三浦哲郎・短編小説集「愁月記」(1993年、新潮文庫。7編)より、6編目の「海峡」を読み了える。
 今月14日の記事、
同「居酒屋にて」に次ぐ。リンクより、前の短編へ遡り得る。

 この短編も、読んだ事がある筈だが、記憶にない。2年続けての佐井(青森県)訪問の話である。
 1度目は、遭難船の船員の資料を手に入れに行った墓地で、偶然、無縁仏の供養碑を見つける。今は小屋ようになっている。
 作家と公民館長の会話に、「海峡から流れてきた無縁仏たちが引き取り手を待っているわけですか」。「そうです。はっきり言えば、全員が連絡船から身投げした人たちでしょうな」とある。
 作家の次姉が、1937年、青函連絡船より投身自殺をしているのである。海峡の漂流物が、佐井の浜に流れ着きやすい事、他の浜にも供養碑がある事を確かめる。
 翌年、次姉の50回忌を修した作家は、佐井の浜と、他に供養碑のある事がわかった、尻屋岬を回り、恐山を訪ねる。尻屋岬の供養碑は、土台だけが残り、他へ移されたが、その先はわからない。
 大祭の恐山に回り、簡略にイタコの口寄せをしてもらう。イタコの言葉はわからないが、口調から少なくとも次姉が不機嫌ではないらしいと、作家は喜ぶようだ。
 海のものばかりの肴で、宿に精進落としをする所で、1編は終わる。

 不遇だった1家の語り部として、語り続けねばいられなかったのだろう。
 神なき信仰、という心はあっただろう。神仏の存在を信じたなら、むしろ1家の運命を詰問したかも知れない。
0-07
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。