石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、歌集編のしまい、「初期歌篇」421首と、栞の遺詠9首を読み了える。先の6月16日の記事、同「鼓動以後」を読む(4)に次ぐ。
 全歌集にあとは、「歌集別総目次」、「年譜稿」、「あとがき」、「編纂覚書」、「初二句索引」を収める。
概要
 「初期歌篇」には、第1歌集「蟬」以前に発表された、「新万葉集」掲載2首と、「多摩」掲載419首を収める。18歳~25歳の作を、発表年月号順に配列する。
 没後に全歌集の発行される歌人は、幸せである。
感想
 若さと共に、感受性ある、抒情的な歌群である。
 若さと、「多摩」の歌の傾向だけではない、豊かでもなく東京工業大学電気工学科に学ぶ負い目と、上京1人暮らしの淋しさがあったのだろう。
 従軍を経て、歌風は変わり、骨太だが苦渋の多い歌となる。この変化を読んでも、感受性を擦り減らした戦争が悪と知る。
 これでこの「葛原繁全歌集」と別れる。
引用

 以下に7首を引く。
水のごと心冴えつつ月夜来て板塀にひづむわが影は見き
下心(した)堪へむ想ひ苦しもみ冬づくポプラの梢空にきほへり
ストーブの燃えつぐ聞きて山の夜はそれのみに親し刻(とき)移りつつ(道後山登山行)
淋しさを弟は告げねど病室の壁にはなやぐ夕日を言ひぬ
燃え果てし命のきはみ知りしより学生われらことあげをせず(昭和17年)
先生と呼び申すさへ懼れつつ恃みまつりし師はすでに亡し(北原白秋・逝去)
学生生活の最後の夏に許されし十日の暇短く過ぎぬ
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。