谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第3巻より、1回めの紹介をする。
 先行する「同 2」を読む(7)は、今月7日の記事にアップした。




ポオ全集第3巻
 「ポオ全集」第3巻の函の表である。1969年第1刷、1978年第5刷。

 第1編は、「ハンス・プファアルの無比の冒険」である。オランダで困窮したハンス・プファアルが気球を造り、工夫を凝らして月世界に至るという話である。長文の手紙が月の住人によって届けられ、真相がわかる。
 気球程のもので、月に至れない事は、現代の科学で明らかである。月到着の願いは古くからあり、色々な物語を生んだとしても、これは上手な部類ではないだろう。

 第2編は、「メエルストルムの渦」である。「大渦に呑まれて」「大渦の底へ」の訳題でも有名な短編である。大渦に巻き込まれた小漁船で、主人公が、大きいものや丸い物が早く沈む事を発見し、樽に身を縛って飛び込む事で、死を免れる。しかし樽に身を縛っては、海水も飲むだろうし、現実的なストーリーに思えない。前作と共に、当時の科学の知識が先行し、今の読者の感興が大きくない。