風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

読書

 青磁社「永田和宏作品集 Ⅰ」(2017年5月・刊)より、仕舞いの第11歌集「日和」を読み了える。
 
第10歌集「後の日々」は、今月2日の記事にアップした。
概要
 原著は、2009年、砂子屋書房・刊。2003年~2007年の597首と、あとがきを収める。
 歌の数がやや多いのは、還暦以降は旧かなの歌に移行し、新かなの歌をすべて収めたせいである。
 この歌集のあと、「作品集 Ⅰ」には、細かい年譜と、初句索引を収める。
 この作品集のあと、歌集「夏・二〇一〇」(2012年・刊)がある。
感想
 付箋を貼りながら読んでゆくのだが、20余枚となり、このブログの例の7首前後には多すぎる。研究の仕事の思い深い歌・痛快な歌、孫との歌、顔の見えない母の夢の歌など、削らざるを得なかった。
 乳癌手術後の妻・河野裕子に関わる歌だけを残した。相聞歌を取り上げたい訳ではないが、彼の場合、歌人家族という特殊な関係の1員である事が、強い特徴であり、歌人家族の歌は大きな流れだった。
 還暦以降、河野裕子・死去(2010年)後も、研究に、短歌に、出版に、忙しく動いている。

引用
 以下に8首を引用する。
あそこにも、ああ、あそこにもとゆびさして山の桜の残れるを言う
さびしくて先に寝ねしか対応のまずさを娘はわれに指摘す
不意に泣き、顔裏返すように泣く ひとりの前にたじたじとわれは
段戸襤褸菊(だんどぼろぎく)はじめてきみが教えたる雨山(あめやま)に続く坂の中ほど
はかなくて傾ぎてわれに寄り添える人には重すぎてこの花の鬱
待ち続け待ちくたびれて病みたりと悲しきことばはまっすぐに来る
不機嫌がすぐ表情にあらわれるそこが青いと妻は批判す
河野裕子がインターネットにのめりこむ不思議な世とはなりにけるかな
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写真ACの「童話キャラクター」の、「浦島太郎」よりイラスト1枚。



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 前川幸雄・詩集「弐楽半のうた」を読み了える。9月29日の記事「贈られた2冊」で紹介した、前川さんよりの2冊のうちの1冊である。
概要
 2017年9月、土曜美術社出版販売・刊。165ページ。
 前川幸雄(まえがわ・ゆきお、1937年~)さんは、国学院大学博士課程卒業後、工専講師時代に中国・西安外国語学院・他に留学し、上越教育大学・福井大学・仁愛大学で教授として、国語・中国語・漢文学を教えた。現在はカルチャーセンターの講師を務めている。 
 彼は、詩作(これまでに6冊の詩集)の他、現代中国詩の邦訳の先達として熱心で、これまでに5冊の翻訳詩集を出版している。他に翻訳小説集、漢詩を中心とした研究書がある。
感想
 5枚の日本画をめぐる4編の詩は、絵の鑑賞を越えて、思想を汲み取ろうとしている。
 「友情風景」9編では、友人、生徒、中国の詩人との友情を描く。
 また「先師追憶」5編では先達の師との出会いを描く。
 学問の、中国詩人の、知友の多い人である。
 橘曙覧になりかわった、「橘曙覧さんからの言伝て」なども面白い。
 詩と研究と教育に生涯を捧げて、傘寿を迎えようとする、幸福な学徒である。



歌誌
 今月1日の記事、「贈られた2冊と届いた1冊」で報せた3冊の内、3冊目の歌誌を紹介する。
 結社歌誌「覇王樹」2017年10月号である。
同・9月号の紹介は、先の9月2日の記事にアップした。
概要
 2017年10月1日・刊、38ページ、歌はほぼ2段組み、散文は3段組みである。
 代表・発行人は佐田毅氏、編集人は佐田公子氏である。
感想
 出詠歌はもちろん、楽しい学びであり、題詠・付句(募集)も嬉しい。
 「私の選んだ10首」(3名に拠る)、各クラスの先々月号よりの抄出批評(5ページ)は、学びになる。
 「受贈歌集紹介」はほぼ3ページに渉り、支部歌会報告も丁寧である。
引用
 以下に2首を引用する。
 「東聲集」のK・あき子さんの「早朝に」6首より。
幼児が待合室であきる頃からくり時計は熊を踊らす
 手動みたいに、飽きる頃の間隔で、時計の熊が踊るのだろう。上手に平仮名を遣っている。
 「大翼集」のM・真知子さんの「幻想」6首より。

逝き方のリクエストなど出来るならドライアイスのごとく消えたし
 「ぴんぴんころり」願望の、発展形だろうか。定型を守っている。
 だれしも思う事は同じだろうが、比喩的にでも、昇華して逝きたい。


詩集

 今月1日の記事
「贈られた2冊と届いた1冊」で到着を報せた3冊の内、初めの1冊、黒田不二夫・詩集「キャベツの図柄」を読み了える。
概要
 黒田さんは、福井県に在住、長く教職にある。教員、同・経験者が同人の詩誌、「果実」に参加している。
 第4詩集。2017年9月20日、能登印刷出版部・刊。
 帯、カバー、85ページ。4章(Ⅰ~Ⅳ)に分け29編と、あとがきを収める。
感想
 第Ⅰ章の冒頭「ネコ派 イヌ派」では、「自分の詩はネコ派でありたい」と述べる。
 「キャベツの図柄」では、全5連の第4連で、次のように書く。
たかが野菜と言うなかれ
ぴっちりと葉を巻いて育つキャベツ
このようにぴっちりとした
生き方ができるか
 キャベツの断面に、人生を想う、優れた作品である。
 第Ⅱ章に入って、「箱をつぶす」で、つぶした箱を様々に述べるが、箱とは現役教員のプライドだろうか。
 第1章、第Ⅱ章では、物に寄せて人生を描いているようだ。

 第Ⅲ章は、想像力を用いて世情への批判のようだ。「銀色の鳥」では、小都市の路上に降り立った銀色の鳥、「日野川沿いの田んぼに」では、田んぼに浮かぶ軍艦を、出現させている。
 第Ⅳ章では、家族との関わりを描いて、老いに入る境地を描く。
 「母の箱」より、1部を引用する。
箱に貯めていたものは
母であった証
母であろうとした証
母でありたいために捨てざるをえなかったもの
今 介護施設にいる継母
 「あとがき」で「人生最後の詩集になるかも知れないという思いは強い。」などと言わないで、これからも長く活躍してほしい詩人である。


 

詩誌
 今月1日の記事「贈られた2冊と届いた1冊」で、到着を報せた3冊の内、2番目の同人詩誌「角(つの)」第44号を紹介する。
追悼特集
 前記の記事で書いたように、今号は、先の6月10日に亡くなった、同人・岡崎純さんの追悼特集である。
 詩集「寂光」にて日本詩人クラブ賞、他、日本現代詩人会・先達詩人顕彰、1985年より「福井県詩人懇話会」初代会長を25年に渉って務めるなど、詩と活動は、敬愛をもって遇された。
 「詩抄」として5編、日本現代詩人会会長と、同誌の発行人K・久璋さんの弔辞を載せる。同人をおもに、15名16編の追悼文を載せる。岡崎純さんの「全詩集」の発行の近い事が救いである。
詩編・他
 それに続いて、8名8編の詩を発表する。
 N・としこさんの「今日一日(ひとひ)の」は、芝生の草ぬきの唄である。多くの闘いと苦難を越えて、詩境は明るい。最終第5連より、1部を紹介する。

よみましょか
うたいましょうか
それとも
ちょっとおどりましょうか
草たちの 青っぽい誘いにのって

 同誌の発行人で、弔辞も述べた、K・久璋さんが、研究2編のみで、詩を寄せていない。岡崎さんの逝去の衝撃か、続けて詩集を刊行した疲れか、僕にはわからない。


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