風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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読書

 福井県俳句作家協会・刊の「年刊句集 福井県 第59集」より、5回めの紹介をする。
 同(4)は、先の7月26日の記事にアップした。



 今回は奥越地区(勝山市・大野市)の、111ページ~127ページの17ページ、33名の330句を読んだことになる。
 奥越地区は清水に恵まれ、酒造業が盛んである。旦那衆が俳句に興じることもあっただろう(これは僕のイメージである)。今は庶民に広がり、大衆詩の一つとして、幾つもの俳句会が隆盛である。
 他と変わらず高齢化が進み、独居老人の嘆きもある。高齢者の励みの場として、句座が必要だろう。また継承のために、若い人、壮年の人の参加を、集める努力がなされているだろう。

 以下に5句を引く。
語らねば言葉やせゆく春霞(K・恵美子)
どんど火へ投げたい胸のわだかまり(M・定子)
年新た老いの手習い筆を持つ(M・美穂子)
鉢植えのみかん花つけ小虫呼ぶ(I・章子)
ひたすらに生きて今日あり寒椿(K・絹代)

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 イラストACより、鉢植えの1枚。



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 新潮社の「川端康成文学賞 全作品 Ⅰ」(1990年・刊)より、1981年・受賞の竹西寛子「兵隊宿」を読み了える。
 先行する野口冨士男「なぎの葉考」は、先の7月28日の記事にアップした。

 リンクより、関連旧記事へ遡れる。

 「兵隊宿」は、港に近い町の、部屋数の多い民家に、出港する前の兵隊が次々と泊まる話である。息子のひさし少年の目で描こうとするが、作家が直接描く場面もある。
 将校や兵隊たちに同情的である。戦争を美化するのかと、敗戦後すぐには、許されなかったストーリーだろう。1981年となり、反戦の風潮も緩んできたのだろうか。少年の目、母親が兵隊の行く末に胸を痛める思い、小母さんの庶民感情の言葉、によってようやく成り立っている。
 僕も71歳の死に近づく(人生100年とすると、30年あるが)歳になって、この小説を許せる気がする。
 多くの読者は、竹西寛子の名前を知らないだろう。1985年・受賞の田久保英夫となると、マニアックな読者しか知らないだろう。僕は野口冨士男の名前を知らなかった。世の移り行きと共に、読書の嗜好も変わり、古く忘れられる作家があり、新しく注目を集める作家が生まれる。



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 イラストACより、鉢植えの1枚。


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 筑摩書房「現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」より、8番めの短編小説「擬宝珠庵(ぎぼしあん)」を読み了える。
 先行する「嬬恋ひ」の感想は、先の7月2日の記事にアップした。

 リンクより、関連過去記事へ遡り得る。

 「擬宝珠庵」は、戦争末期、作家が郷里の四国へ疎開する場合を考え、裏山へ建てることを空想した、掘立小屋の名前である。賞愛する庭の擬宝珠を分け植え、読書執筆の生活を持とうとする。鍬を取っての農業は、40歳過ぎの自分には無理だと書いている。僕にさえ甘い空想である。「私といふ男が、人の世の温かさをこそ知れ、まだ無情と冷酷と憎悪に痛めつけられて死ぬ思ひをした試しがないので、…」と、作家も気づいている。
 空想に頼ることが、悪いことだけではない。それにより、生き延びる日々が、ある人々にはあるだろう。
 短編の私小説ばかり書いたことも、あながち否めない。俳歌の人々も、日々の悶々や喜びを作品にして、生きる支えとする。俳歌人にはプロが少ない(アマチュアの多さに比して)が、上林曉が作家の生を全うしたことは立派である。性格的にどうかという面もるが、文学創作が「世に生れ合せた生き甲斐であり、自分の人生そのものである」とする面から、やむを得ないところもあるのだろう。



ギボシ
 写真ACより、擬宝珠の写真1枚。

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 今月15日の記事、入手した5冊を紹介する(7)で、ダウンロードを報せた、植原剛「焼き鳥」を読み了える。

 これでその時に挙げた、5冊すべてを読み了えたことになる。

焼き鳥 (小説)
植原 剛
2021-03-24

 400字詰め原稿用紙20枚の短編小説である。
 植原剛はインディーズ作家らしい。Amazonでは、この作を含め、4冊の小説がKindle出版され、カスタマーレビューも付いている。
 ストーリーは、飲み屋に入った「俺」が料理「とりつくね」(実は「憑りつく根」)の美味に憑りつかれる。
 「俺」の紹介が挟まれる。56歳、独身。小説家を目指したがものにならず、定職に就かず、周囲を避けて生きて来た。実家に資産があり、食うに困らなかった。
 「とりつくね」の製法は、酔っ払いの腰から生える影のようなものから、根っこを調理するのである。酔っ払いは、テーブルの端を流れる酒に酔いつぶれ、「影の水耕栽培」と店主は笑う。
 店主の郷里は「ねのこく」と教えられるが、「根の国」(広辞苑で、死者のゆく黄泉の国とされる)らしい。「俺」はそれより飲み屋に通い続け、「とりつくね」の素を何度も提供している。
 アルコールにより破滅しかけた男の心情を、ホラーファンタジーでよく描いた。
 作家の実力は認めるけれども、ジャンル?が僕と合わないので、Kindle Unlimited版ながら、続けて他の本を読む気は起こらない。お好みの方は、読んで応援してほしい。




02 (6)
 写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。

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 小坂泰之のマンガ「放課後ていぼう日誌 2」を読み了える。
 Kindle Unlimited版のダウンロードは、今月15日の記事、入手した5冊を紹介する(7)で報せた。




 第1巻を読んだ覚えがあるが、雑誌か単行本かKindle本か、覚えていない。部活ものであり、スポーツものでもあり(スポ根とは違うが)、主人公の女生徒(部員は女性ばかりである)の成長を描くRPG的なところがある。
 女生徒部員、釣り、楽しみもの的なところが、新しい着眼である。餌を針につけられない、釣った魚の針を外せない、という鶴木が、だんだん釣りに慣れて、新しい魚類を釣れるところが、メインストーリーである。大野先輩(長身、眼鏡、シャイ)、顧問の小谷教師(ビール・バカで金欠)など、際立ったキャラクターの登場人物もいる。
 各コマにセリフが多い。釣り関係の解説も示さなくてはならないし、女子高生のおしゃべりだとも取れるだろうが、やや読みにくい。
 Kindle Unlimited版で、全7章も読ませてくれるのは、ありがたい。しかし僕は釣りに今は関心がない(仕事現役の頃、釣りやゴルフも習いたかったが、他に楽しみがあり、財政と時間が許さなかった)ので、有料の第3巻以降を読もうとまでは思わない。



02 (5)
 写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。
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 「川端康成文学賞 全作品 Ⅰ」(1999年、新潮社・刊)より、第7回1980年・受賞の野口富士男「なぎの葉考」を読み了える。
 第6回1979年受賞の開高健「玉、砕ける」は、今年5月14日の記事にアップした。



 野口冨士男(のぐち・ふじお、1911年~1993年)は、原稿用紙1,500枚の「徳田秋声伝」で、毎日芸術賞・受賞。他、受賞多数。日本芸術院賞を受け、日本芸術院会員となる。
 「なぎの葉考」は、1936年秋の紀州旅行を思い出しながら、紀州・新宮出身の間淵(どうも新進作家だった中上健次らしい)と、再訪する物語である。25歳だった作家が、優れたからだと優しい心を持った娼婦と出会い、2度めの延長をしようとすると、娼婦はそうして身を滅ぼしていったた客が6人もいたと、諌め留める。記憶の美化なのか、若者へのひけらしなのか、フィクションが多いと思われる。
 文学者の盛衰も大きいと、思わせる作家である。





02 (4)
 写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。
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 福井県俳句作家協会・編の「年刊句集 福井県 第59集」より、4回めの紹介をする。表紙に「令和二年版」の文字があるが、令和2年に吟じられた句より自選したアンソロジーという意味で、令和3年(2021年)3月20日・刊行である。
 同(3)は、先の6月29日の記事にアップした。



 今回は、坂井地区(坂井市、あわら市)の、101ページ~109ページ、9ページ18名180句を読んだ。坂井市は福井市に続いて発展しているようであり、あわら市は芦原温泉旅館街を中心として最近の観光変化に追い付いていないようである。周辺部には田園地帯が広がる。福井地区(福井市、吉田郡)と比べて、ずいぶん差があるようだ。女性の出吟も少ない。坂井地区出身の文学者は多く、文学の土壌はあると思うのだけれども。
 「国破れて山河在り」と言うけれども、自然でさえ変化して山河の変わる世に、人情はあまり変わらない、と思う。家族の足音を聞き分ける心は、太古から変わらない、というような。
 雪国、昔からの風習、人生訓、逆説的な孫誉め、などそれで良いと思われる。表現の新と真を目指しているならば。来年の第60集記念号の刊行を期待する。
 以下に5句を引く。
目かくしをつけられそつと雛納め(O・幸江)
雪起こしついにくるかと身構へる(K・敏子)
決断は急ぐべからず穴惑い(S・潤子)
恵方向き黙々食す子の真顔(M・甚四郎)
秋の日や孫から無理を諭される(N・進)





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写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。
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