風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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読書

 先日、僕宛てに大きな薄い封書が届いた。発送元は福井県詩人懇話会である。中身を見ると、「福井県詩人懇話会会報」No.105である。
県詩人懇話会会報No.105

 初ページ、渡辺・懇話会代表の顔写真も文章も、公人のものとして、前回と違い隠さない。
 内容は、4月25日の総会、「詩との出会い」2編、2020年度の県内詩界回顧、新役員紹介、他記録など、8ページの薄いものである。総会の僕はカメラマン役の予定だったが、入院のごたごた(結局、入院しなかった)があり、辞退した。
 No.104は、今年4月2日の記事にアップした。


 創刊号~No.100は、3分冊で合本製本してもらい、本棚にある。No.101以降も保存してあり、区切りの良いところで、また製本してもらう予定である。
 なおこの度、福井県詩人懇話会のホームページが立ち上げられた。発展の1助となることを願う。以下にリンクを貼るので、ご覧ください。




01 (5)
写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。


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 吉田篤弘の月舟町三部作より、完結編の「レインコートを着た犬」を読み了える。
レインコートを着た犬 (中公文庫)
吉田 篤弘
中央公論新社
2018-05-22


 第1作の「つむじ風食堂の夜」は、今月22日の記事にアップした。

 リンクより、初めに読んだ第2作「それからはスープのことばかり考えて暮らした」の感想へ、遡れる。
 「レインコートを着た犬」は、映画館主の青年・直さんに飼われる犬(人語、人情を解する)ジャンゴの目から視た、直さん、映画館でパン屋を営む初美さん、コンビニに勤めるタモツさん、古本屋のデ・ニーロ親方、その妻で屋台の飲み屋をしているサキさん、つむじ風食堂のサエコさん、果物屋の青年兄弟たちの物語である。漱石の「吾輩は猫である」のようだ。
 サキさんが屋台を止められない理由を、「ただ、わたしのこの屋台はね、云ってみれば、世の中のどんづまりにある最後の楽園みたいなものだから」と述べて、家庭にも居場所のないサラリーマンを思わせる。ジャンゴは、「世間知らずという言葉が示す「世間」というものは、、そうした純真なものをひねりつぶすのが得意である」と思う。また「愚かしいことは時に可愛い。可愛いことは、おおむね愚かしい」とも。
 うらぶれた住人たちだが、直さんがギターの名手である(今は封印している)ことが明かされ、降雨を研究している先生は問題解決の糸口を掴み、住人それぞれが新しい出発をするのかと、僕は思った。「リベンジ」という言葉(復讐ではなく、再挑戦という意味で)が好きである。しかし物語では、それぞれが営みをほとんど変えない。映画館の「いつまでも終わらない最後の上映」が話題になり、皆の集合写真を撮る場面で仕舞いとなる。記念写真を撮るようでは、散会の前のようで危うい。
 敗北の美学、敗者の美学、というものを僕は認めたくない。人気作家の作品であることも気に障る。



01 (4)
写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。
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 吉田篤弘・月舟町三部作より、第1作「つむじ風食堂の夜」を読み了える。
 入手は今月15日の記事、入手した5冊を紹介する(7)で報せた。


 リンクより、連作第2作の「それからはスープのことばかり考えて暮らした」の感想へ、遡れる。

つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
吉田 篤弘
筑摩書房
2005-11-01



 月舟町の食堂(店主はフランスで修行した事があるが、今は安食堂を営んでいる)、つむじ風食堂(元は名無しだが、客が自然にそう呼ぶようになった)の常連客、先生と呼ばれる私(降雨の研究を目指すが、今は売文に追われている)、帽子屋の桜田さん、果物屋の青年、古本屋の親方、売れない女優・奈々津たちの物語である。侘しい街の住人ながら、サラリーマンは一人も現れない。
 善良な人々だが、悪意ある人々に追いやられたような、生活を送っている。私は昔、戯曲を書いた事があるから、女優・奈々津に台本を書くよう頼まれ、「ね?わたしを助けてやってください。女優・奈々津を女にしてください」とまで言わせながら、煮えきらない程である。
 ノスタルジックな、ファンタジーめいた小説である。村上春樹もファンタジックな小説を描くけれども、彼には社会性があり、悪への反撃を含む。読み了えて、ああ良い小説だったなあ、で済んでしまっては、読み捨てられる可能性が大である。



01 (2)
 写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。
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 思潮社の現代詩文庫181「続続・辻征夫詩集」より、辻征夫論である作品論・詩人論と、辻征夫・自筆の年譜(補遺・八木幹夫)を読む。


 没後のシリーズ最後の作品論・詩人論として、清岡卓行(詩人)「詩的自画像の楽しさ」、高橋源一郎(作家)「萌えいづる言葉に対峙して」、岡井隆(歌人)「巧まざる技巧の冴え」、藤井貞和(詩人)「自由な定型と定型の自由」を載せている。僕が名を知る文人であり、生前のように揶揄することもない。
 現代詩と定型の問題について、僕はアマチュア文学として短歌(現在は口語・新かな)と、ソネットの詩(俳句、短歌に次ぐ第3の大衆定型詩として)を書いており、矛盾は感じていない。僕にソネットを止めるよう勧める先輩詩人がいるけれども、ソネットを詩のライフワークとする、と公言した者に余計なお世話である。
 自筆年譜は、詩に個人的背景を背負った作品があり、作品の感受のために重要である。

 僕が辻征夫の作品と出会ったのは、昨年8月18日の記事の通り、振興商品券で現代詩文庫「辻征夫詩集」を含む3冊をまとめ買いしたからである。

 現代詩文庫は他にもあったが、僕にわからないようだった。辻征夫の名前は、その時まで知らなかった。数々の賞を受賞し、ある世代の詩人の仲間には、評価されたようだ。没後、人口に膾炙する詩人としては、残らないようだ。
 でも僕は、3冊の現代詩文庫を処分しないだろう。3冊で全詩と散文の1部を収めている。僕は没後の全集に弱いのだ。



友誼紅
 南越前町・花はす公園より、「友誼紅」の1枚。





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 青木祐子の小説「コーチ!」を読み了える。副題は「はげまし屋・立花ことりのクライアントファイル」である。到着は今月7日の記事、届いた3冊を紹介する(14)にアップした。

 これでその3冊を読み了えた事になる。
 リンクより、彼女の「これは経費で落ちません!」シリーズの感想へ遡れる。



 「コーチ!」は、講談社文庫、2021年3月・刊。
 彼女もブログ「まわり道の回想」で、「迷いながら書いた」とある通り、すっきりした小説でなかった。
 依頼者は、派遣社員から転職を考える24歳女性、小説家志望の33歳独身女性、ネットビジネスでの成功を狙う36歳男性、などがオンラインはげまし屋の、ことりのクライアントになる。それぞれ成功へ前向きになる所で、1話がおわる。決して成功の場面に至らなく、サクセスストーリーともファンタジーとも呼べない。
 生きて行くには、営業のはげまし屋など無用だと考える。各人の処世術(粘り、忍耐、慎重さ、メモの習慣、嫌な人には面従腹背、耐えられない日は休む)を覚え、幸運(僕の場合は、短歌との出会い、近親者の援助)を掴み、一人一人が苦境から脱出して行くしかない。悪党もいるが、必ず挫折失敗した。人の助けなしに、成功は続かないからである。僕はヒラの現場職員として、63歳まで働いたが、自分と家族のために、そうするよりなかった。リタイア後は、悠々とではないが、自適の生活を送っている。
 虚構の小説と納得しているから、青木祐子にも腰を据えた、きりの良い小説を書いてほしい。



ネール蓮
 「花はす公園」より、「ネール蓮」の1枚。

 



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 短歌結社「コスモス」内の若手歌人による季刊同人歌誌、「COCOON」Issue20をほぼ読み了える。
 到着は、今月7日の記事、届いた3冊を紹介する(14)にアップした。

 リンクより、旧号の感想へ遡れる。

COCOON Issue20
 感想として、皆が大人しくなったなあ、という印象がある。オリンピック以後という、嵐の前の静けさなのか。同人が大人になったのか。1965年以降生まれの仲間を同人としており、代表のO・達知さんは57歳になる。
 異端の(これは褒め言葉である)S・ちひろさんは、「約十年続いた過食嘔吐だがこの半年はぱたりと止まる」と、心理的にも身体的にも、安定したようだ。
 この大人しさが、短歌による自己救済であれば良いのだが。

 特集「この頃気になる歌/ずっと気になっていた歌」では、29名が2首ずつを上げ、気になる理由を短く(1人1ページ)述べている。若い歌人が関心を向ける短歌がわかる。その他、散文を含め、バラエティある構成である。
 121ページ、上質紙という、僕の所属する「覇王樹」よりも、ページ数多く、贅沢な造りである。月刊結社誌以外に、発表の場を持つのは好いことだ。人間関係に疲れるので、僕はある誘いに乗らず、ブログ「新サスケと短歌と詩」で(読者は少ないが)短歌の公開を続けている。

 「COCOON」では、若い歌人の入会もあり、隆盛なようである。古希過ぎのおじさんは、発展を見守ってゆきたい。





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 昨日の記事、入手した5冊を紹介する(7)のうち、さっそく家庭サスペンスvol.29この女が許せない(Kindle Unlimited版)を、タブレットで読み了える。

 保育園の経営者が代わって、パワハラの一家となり、それと闘う保育士・保護者に敗れ去って行く、上野すばる「ブラック保育園」、ぶりっ子の腹黒娘に好いてくれる男性を奪われる、春名宏美「可愛さとあざとさ」ほか、あざとい人々が敗れていく物語が続き、姉妹が図って人を破滅させる川端みどり「復讐代行いたします」、伊東倫智「お姉ちゃんズルい」などの物語が続く。勧善懲悪の物語にも、悪徳の栄えにも、ストレスは解消されないようだ。
 連載物の折井いずみ「我が家の掟」第20話「父の再婚」はユーモラスである。掉尾の川菜亜子「まっすぐに・・・」は、離婚して子連れ、失職した娘さんが、孫と思い込む認知症気味のお婆ちゃんを利用しようかとするけれども、踏み止まるという倫理的に爽やかなストーリーである。
 これら主婦マンガ誌が続いているのは、一定の読者が付いているのだろう。



4 (3)
写真ACより、「雨の日」のイラスト1枚。




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