風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

読書

 沖積舎「梅崎春生全集」第3巻(1984年・刊)より、3回目の紹介をする。
 同(2)は、昨年12月30日の記事にアップした。
 短編小説3編を読むのに、なぜこんなに月日が掛かるかというと、この本を応接間に置いて、音楽を聞いたりする短い間しか、読まないからである。
概要
 今回は、「拾う」、「山名の場合」、「Sの背中」の3短編を読んだ。
 「山名の場合」、「Sの背中」は、です・ます調で書かれ、やや長く、中編小説と呼んでも良いくらいである。
感想

「拾う」
 1951年・初出で、千円札10枚を拾った穴山三郎(30歳、独身)が、会社を休み1日で遣い果たそうとする。食堂でボルシチを食べ、映画館で知り合った女性と鰻屋で飲み食いし、飲み屋で飲むが、女性の誘いに乗らず、、逃げ出してしまう。そして残った多くの紙幣を、拾った凹みに戻してしまう。
「山名の場合」
 夜学教師の山名申吉が、同僚の五味司郎太をライバル心から、憎み始め、様々な策を弄するがうまく行かない。しかし憎悪が山名の生き甲斐となる。
「Sの背中」
 蟹江四郎は、飲み屋の久美子を好きになって、結婚するが、1年半で久美子が亡くなってしまう。彼女の日記に、Sの背中の痣が好きだとあり、かつて彼女に好意を寄せていた猿沢佐介の事かと勘ぐり、蟹江は猿沢の背中を見ようと画策するが、うまく行かない。


 豊かでもない人々の、生き甲斐のない生活が、あるいは強い拘りを持つ事で情熱を燃やす様を描く。戦後6、7年が経ち、虚脱のような毎日で、生き甲斐を求める生活が描かれるようだ。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


 

吹雪きの水族館a
 今月22日の記事で到着を報せた本、米川千嘉子・歌集「吹雪の水族館」を読み了える。
 現代短歌文庫の「続 米川千嘉子歌集」の第4歌集・「一葉の井戸」(2001年・刊)より、第8歌集まで、14年を一足飛びに越えての読書である。第7歌集「あやはべる」も買ってあるので、逆年順に彼女の歌集を読むことになるかも知れない。
概要
 2015年11月1日、角川文化振興財団・発行、KADOKAWA・発売。
 第8回・小野市詩歌文学賞を受賞した。
 題名は2012年、馬場あき子らと共に、黒川能を鑑賞した際、鶴岡市立加茂水族館を訪れて、有名なたくさんの水母を観た経験の1連から採られた。
感想

 前歌集「あやはべる」で迢空賞を受賞して、肩の力が抜けたかの感がある。
 一人息子は、家を出て学び、厳しい就活を経て就職した。夫は壮年で、仕事・短歌に重い役割を果たしている。
 被災した、東北沖大地震の事も、原発災害を含め、繰り返し詠まれている。
 「ゆるキャラ」を土地の神とも、ただの着ぐるみとも、詠んでいる。
引用
 以下に7首を引く。
撫子のひびき更新さるる夏うるはしと言へなでしこジャパン
面接は六次面接まであると聞くとき出づるマトリョーシカは
熱のある人間ほどの気温にてへんな暑さをふらふら帰る
つくづくと衰ふる土地の神にして紅葉の渓に踊るゆるキャラ
疲れふかきゆゑに眠れずやうやくに眠りし夫の奥の海光
滅びそめし国の小旗を頬に描(か)く若者はもう滅べと言はず
父・夫(おつと)・息子それぞれ理由(わけ)ありてところ天食むわが辺にをらず



北斎漫画
 先の3月12日の記事、dポイントで2冊を買う、で紹介した内、「北斎漫画[肉筆未刊行版]」を見了える。
概要
 2017年9月30日、初版。河出書房新社・刊。
 価格:3,900円+税。単色版画・178枚。セーラ・E・トンプソンの解題、図版解説、53ページまで。
 通常はボストン美術館・蔵の「ボストン画帖」と呼ばれ、「北斎漫画」の続編として企画されたが出版されず、版下絵・3帖が残ったらしい。貴重な出版である。
感想

 図版の番号と、解説の番号の、並べ方がよく判らなかったが、しまい近くになって判った。図版は右側(裏表紙側)から、一、二と始まり、対応する横書き解説は、左側(表紙側)より順に進むのである。解説が横書きで、この体裁になったのだろう。
 「富嶽三十六景」の元のアイデアとなったらしい図がある。様々な職業の図があり、当時の仕事ぶりがわかりそうだ。神仏・鬼神は、デフォルメされて、素描とはいえ、信仰篤くはなかったようである。
 人々の表情・体格も今とは違って、実際多少は違っても、デフォルメされていると思う。
 魚類、草花類の図も多く、精細に描かれて、実際的と思われる。
 北斎の「富嶽三十六景」を頂点とする、多くの浮世絵も、こうしたデッサン力を溜めての画業だろう。


 福井県俳句作家協会「年刊句集 福井県 第57集」より、3回目の紹介をする。
 同・(2)は、今月16日の記事にアップした。リンク記事より、関連過去記事へ遡れる。
概要
 「作品集」の「会員順」は、大きく8地区に分けられる。地区内の市町ごとに、おもに所属する会の内より、氏名のあいうえお順に作品が並ぶ。
 つまり長短はあっても、ほぼ同じ会の会員の作品が並び、作風がまとまっている感がある。
感想
 今回は、66ページ~106ページ(福井地区のしまい)まで、41ページ、81名の810句を読んだ事になる。前回で、半分ずつと書いたが、計算違いがあったようだ。
 短い詩型で、新しさを打ち出すのは難しい。生活実感の中で、これは、という句材を見つけて書き留めるのだろう。
 ぎすぎすした、不安な時代に、豊かな情感は救いである。以下の引用には、情感があって新しい句を選んだ。
引用

 以下に5句を引く。
頼りなき孫の歩みに蝶一羽(K・洋治)
七草や犬の餌に足す一しやもじ(U・恭子)
ふる里が口に広がるまくわうり(T・富美子)
石垣の揃はぬところ野菊かな(U・君枝)
草笛を吹くあの頃に戻れねど(M・桃翠)
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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 今月17日の記事、届いた2冊(6)で報せた内、綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2019年5月号を、短歌作品中心に読み了える。リンクより、関連過去記事へ遡れる。
特集 塚本邦雄が切り開いた十首
 僕は俵万智以降に短歌を始めたせいか、塚本邦雄の短歌をあまり好きではない。手元にはアンソロジー「塚本邦雄歌集」(思潮社、「現代詩文庫 短歌俳句篇」2007年・刊、1,200余首)があるのみ。別のアンソロジーを読み了えて、処分したように記憶する。
 技法の開発は、後世に影響を残したけれど、戦中派ゆえかの憎悪感が嫌だ。
蘇る短歌 坂井修一 第十四回 市民
 「私自身は、結社は<虚>の空間として存在すれば良いと思っている。」と書き、結社員の心構えを長く述べ、僕は同感する。
引用

 大井学「マスク」12首より。
声をかけて欲しいときにはマスクする部下ありてまた誘う焼肉
 サラリーマン上司の人情機微である。
 御供平佶「江尻の風」12首より。
昨日より考へながら出でて来ぬ駅名があり人の名もまた
 その場で花の名や人名が出て来ないのは、よくある題材だが、「昨日より」「駅名」が新しい。自虐のユーモアだろうか。

 リンク記事に書いた内、5MBを越える写真を2MB台までリサイズする方法を覚えた。また本阿弥書店へ送金して、「歌壇」6月号~11月号を予約した。


 石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、第6歌集「鼓動」を読み了える。
 先の3月17日の記事、同「又々玄」を読む(後)に次ぐ。
概要
 原著は、1989年、短歌新聞社・刊。1980年~1983年の278首、著者・あとがきを収める。
 短歌新聞社の「現代短歌全集」の1冊となった。
 この間に、「玄」3部作による読売文学賞・受賞、仕事上での一線を引く、弟の死、肺病による8ヶ月の初入院、等があった。
感想
 写生、社会詠、生活詠に、純化しなかった。家長として家族(故郷の母、弟を含む)を助け、歌誌「コスモス」の活動に手腕を発揮したようだが、歌人として今一つ純粋でないように思えた。
 しかし戦争体験を経て、生活と社会に対する態度の一致、を求め続けたように思える。
 生前の最後の歌集であり、以後没年(1993年)までの歌は、この全歌集に「鼓動以後」として収められた。
引用

 以下に7首を引く。
足もとの砂をす走る波の先伸びきはまりて横ざまに退(ひ)
休みなく手と足を振りわが膝にゐて柔らかし孫といふもの
まのあたり変転を写し裁かるる江青の顔端正不屈(変転)
患者としこの夏逝くか病棟の側壁に来て鳴く油蟬
帰り来し我が家の真上汝(な)は亡きに虹かも立てる面影のごと(弟逝く)
行く風の息のまにまに吹雪く花あるものは高く吹かれつつ舞ふ
うから率て出湯にひと日遊びつつ病癒えたる喜び分つ
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。



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 加藤元の短編小説集「四百三十円の神様」を読み了える。
 到着は4月17日の記事、届いた2冊(6)で報せた。
 集英社文庫、2019年2月25日・刊。定価:640円+税。
 僕はメルカリの400ポイントで購入した。
概要
 加藤元(かとう・げん)は、1973年生まれの女性作家。
 「四百三十円の神様」には、「四百三十円の神様」、「あの川のほとりで」、「いれずみお断り」、「ヒロイン」、「九月一日」、「鍵は開いた」の、6編を収める。
感想

 「四百三十円の神様」。元・プロ野球の名ショートだったが落ちぶれた男。同棲する女の財布を攫った男。働かずにいて離婚した父親。故障があり見込みがあまりないが学生野球に戻ろうとする話者・岩田。
 「いれずみお断り」。元・テキヤだが、妻子には逃げられていて、侘しい老人の死。
 「ヒロイン」。映画のスターだった女優の裏表。憧れる女性の、同棲相手は、2年前から働いていない。母親はだらしない。
 「鍵は開いた」。掌編連作。妻子ある男との不倫を解消する娘。合鍵を妻に捨てさせられる男。母は怒り父親から「失敗作だ」と言われる少年。泥棒の前科3犯だったが更生した中年女性。

 ダメな男女を描いてばかりだ。読んでいると、読者のダメぶりを炙り出すようで、自分も忸怩たる思いをする。
 しかし人のダメぶりは、人に誰にでも、部分的に、時期的にあるもので、特殊な場合ではないように思える。羽目を外さないよう、時に良い事もして、生活して行こうと思う。



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