風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。


読書

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 今月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」の内、初めに紹介した綜合歌誌「歌壇」2018年12月号を、ほぼ読み了える。
 本阿弥書店、12月1日付け・刊。169ページ。
 この1冊は、歌集の1冊、歌論集の1冊より、量が多く、読みでがあると感じる。
巻頭20首
 いずれも内向的な詠みぶりと思われる。秋葉四郎「昼の闇」は、白内障手術を受けた妻と、身辺を詠む。
 久々湊盈子「いなごまろ」は、「反骨」を自称するけれど、世間の常識への反抗らしい。「戦禍」「戦争」「君側の奸」を詠むけれども、現政権トップへの批判ではない。
 大下一真「日常 旅 日常 旅」が、題名に似ず、旅にての外界との繋がりを感じさせる。渡英子「母音が七つ」では、二人の孫と海外詠と読書よりの知識をうたう。
特集 妊娠・出産をめぐる歌
 この特集の設定も、内向的だろうか。
 僕の一人子の誕生は、40年近く前なので、立ち会っていず、歌も始めていなかった。
 共感したのは、棚木恒寿「ガラガラポン」だった。夫は幸せな家庭を思い描いているのに、妻は産院で夜は不安に(四人部屋の皆が)泣いていた、という男女の受け止め方の大きな差である。
特別作品30首 田中拓也「とうけい」
 編集者も作者も、その意図のわからない作品群だけれども、右傾化の先走りか、と疑う。
引用

 森岡千賀子「けふの雲」12首より。
床上に横座りしてテレビ観る裸足を猫が齧つたりして
 平穏な生活のようで、外界の危機を思わせる。
 関場瞳「秋の日」7首より。
切株の猿の腰掛け蟇に似て急がずゆけと秋の日の中
 誰もが急ぐ世の中への、諌めの言葉だろう。



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 今月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」で紹介した内、結社歌誌「百日紅」2018年10月号を読む。
 月例作品のみを読み、題詠・作品評は読まなかった。
概要
 文章では読んでいないが、聞く所に由ると、おもに県内の歌人を会員とする、結社歌誌である。
 月刊。10月号は21ページ。1首の上下端を俳句のように、すべて揃えている表記は特異である。
 「作品(一)」、「作品(二)」に分かれているが、全員が5首掲載である。選歌があるのか、5首出詠・掲載なのか、判らない。
 窪田空穂(「槻の木」、「まひる野」など主宰)の系統を継承し、故・辻森秀英(県の歌人)が創刊、現在の代表はI・善郎さんである。創刊より70余年。
感想
 全員が5首掲載、特選なし、と掲載に競争がないせいか、のびのびと会員は詠んでいる。
 口語調の歌もあるが、旧かな表記の故か、跳びはねた作品は少ないようだ。
 地方歌誌にとどまらず、会員は全国歌誌に飛躍してほしい。
 綜合歌誌、歌集などを読み、学びも忘れずに。
 月刊を70年続けた情熱に打たれる。
引用

 I・善郎さんの「勝山大仏」5首より。
子ら連れて来しは何十年前か勝山大仏の山門くぐる
 大胆な句跨りがあって、現代短歌の学びが知られる。
 A・敏子さんの「大雨」5首より。
浅草のみやげにもらひし風鈴は友亡き今も軒に鳴りをり
 友への追悼の思いが鮮やかである。


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 石田衣良(いしだ・いら)の短編小説集「スローグッドバイ」を読み了える。
 彼の小説を読んだのは、今年6月30日の記事にアップした、
「東京DOLL」以来である。
概要
 集英社文庫、2005年6月・3刷。
 彼の初めての短編集で、初めての恋愛作品集と、「あとがき」にある。
 「東京DOLL」が2007年刊だから、長編恋愛小説と捉えると(その間にも作品はあるだろうけれど)、2年の間の筆力の成長は凄まじい。
感想
 脛の傷、心の闇、隠したい過去を抱きながら生き抜く男女を描く10編。性を交す作品が多いけれども、そうでない作品もある。
 サクセス・ストーリーへの執着が見られ、シナリオ・ライターとして成功してゆく「曜子」とそれを見守る「史郎」の「夢のキャッチャー」、イラストレーターとして「山口高作」を発掘するPR誌の「サツキ」の「線のよろこび」などがある。
 憶測を交す男女が、結末でどんでん返し的に和解するストーリーを含めて、最後の表題作「スローグッドバイ」を除けば、ハッピーエンドの物語である。
 「スローグッドバイ」では、2年間の同棲をしていたフミヒロとワカコが別れる事になり、さよならデートをした後、ワカコの見抜いた通り、フミヒロの「心のなかにたくさんの物語があふれていたからだ」と作家的才能の発現を描く。これまでの9編をフミヒロの作品であるかのように、この作品集を2重にフィクション化している。


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 今月20日の記事、「届いた1冊、頂いた7冊」で報せた内、同人詩誌「果実」79号を読み了える。
 
同・78号の感想は、今年4月10日の記事にアップした。
概要
 2018年11月、果実の会・刊。B5判、43ページ。詩は1段組み、散文は2段組み。
 7名・17編の詩、5名・5編の随筆を収める。
 県内の教員、教員経験者を、主に同人とする。
感想
 巻頭のK・不二夫さんの「救急車と女」では、第2連の始めに「わたしと仕事 どちらが大事なの/突如 女が叫ぶ」と書き、約束を破られた、二の次にされた女性の心情に、後になって思い遣っている。
 O・雅彦さん(都内在住。W・本爾さんの詩に心打たれて参加)の「かわりゆくものに」はカリグラム(視覚的な詩の技法。この語が広辞苑になくて、僕がどれだけ苦労したか)で、行頭を高低させて変化させている。編末3行は「今日の空に/わたしの心は/救われた」と希望的である。
 F・則行さんは「机 Ⅰ」で百年愛されてきた小机を、「机 Ⅱ」で専用の椅子机がなく、腹這ってものを書いて来た事を書く。危うい時代には、家庭内と自分に視線を向けるのが賢明な方法かも知れない。
 W・本爾さんの「二月のうた」は、歳月を経て純化された、母への挽歌である。
 T篤朗さんは5編の詩を寄せている。「交差2」では、「僕たちは並行している/それでいいじゃないか…遠く離れても/君が見える/それがいいじゃないか」と、交わる事のない同行者を信頼している。
 随筆5編も、思いの籠もった作品である。



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 今月20日の記事、「届いた1冊、頂いた7冊」で紹介した内、3番目の千葉晃弘・詩集「降誕」を読み了える。
概要
 2018年11月1日、鯖江詩の会・刊。134ページ。46編と「あとがきに代えて」、初出1覧、著作1覧を収める。
 詩集「ぼくらを運んだ電車」より、17年ぶりの詩集である。
 彼は同人詩誌「青魚」の発行者である。彼のおおらかな性格に惹かれ、様々な詩人が集まっている。「来る者は拒まず、去る者は追わず」の方針らしく(明文化された事はない)、散文のみの人を含め、現在の同人16名、No.89に至っている。
感想
 標題作の「降誕」は、クリスマス・イヴにケーキを買って帰るサラリーマンを描く。クリスチャンという訳ではなく、あとがきで「信仰に支えられた人間を示し合うべきと…」と述べている。
 若い母を描いた「おひつ」「アーちゃん」、中年の母を描いた「クレオン」「しゃがむ母」、晩年の母を描いた「夕焼け」「ジェスチャー」「母の遺言」。若い父や義父たちを描いた「十八番」、晩年の父を描いた「便所博士」。彼風の挽歌、魂鎮めだろう。
 少年時代からの友人、学生時代に下宿した幾つかの寺の住み込み人たち、と回想の詩が多い。なりゆきで結婚したという妻、なりゆきでケイタイを買いなりゆきで買い直したと、人生の真実をユーモラスに描いた「つれあい」、母の遺影の前に水を一杯置き、妻の前に罪ほろぼしのために1盃を置くという毎日の、しみじみとした作品「一杯」がある。
 「非凡なる凡人」と、「炭焼きの山と谷」~「生徒手帳」の5編は、散文詩でエッセイ風でもある。
 疎かな詩人たちを率いて、大人(たいじん)の歩みを続けてほしい。



 

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 かつて「吉本隆明全詩集」(思潮社)を読み通そうとしたが、今年6月13日の記事以来、読んでいない。
 それで本棚より、「関根弘詩集」(思潮社、1968年・刊)を取り出して来た。後期の作品をちら読みすると、読み通す自信はない。
 なお表紙写真は、トリミングの合うサイズがなかったので(有料ソフトを使っていない)、トリミングしていない。
概要
 詩集「絵の宿題」は1953年、建民社・刊。
 関根弘(せきね・ひろし、1920年~1994年)は、戦後、詩誌「列島」の中心となり、リアリズムとアヴァンギャルドの統一を目指した、とされる。13歳より働き続け、左傾(1時、日本共産党に入党)した。
感想
 詩集「絵の宿題」は大部に見えるので、4章より初めの「沙漠の木」14編のみを読み了える。
 「沙漠の木」では、「製鉄所のそこには/いつも僕を抜けでた僕がいる」と、本当の自分を偽って働く苦しみをうたう。
 「樹」では空襲を受ける樹や人や自分を印象的に描き、今でも「突然樹が叫びだすように思えてならない」と記憶の傷を定着する。
 戦後の荒野的風景を多く描いて、戦後を書き留めると共に、人心の荒廃をも書き留めている。



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 山田詠美の小説「ラビット病」を読み了える。
 このブログ「風の庫」でも、それ以前のブログ「サスケの本棚」(2007年4月~2016年9月)でも、「山田詠美」で検索して、引っ掛かる記事がない。山田詠美の小説を、何冊か読んだのは、2007年4月以前か。
 この「ラビット病」をちら読みし、幸福ふわふわ感の小説に失望して、読むのを止めたのだった。
概要
 単行本は、1991年、新潮社・刊。
 新潮文庫は、1994年・刊。
 米軍在留軍人:ロバートと、遺産で裕福な娘:ゆりの、恋から結婚へ至る物語である。
 山田詠美は、1987年、在留軍人:ダグラスと結婚し、2006年に離婚した(Wikipediaより)。
 作者はあとがきで、「共通点は山程ある。…あくまでフィクションである。」と述べている。
感想
 幸せな結婚のおのろけのようで、僕は当時、あまり読みたくなかった。文庫本棚から抜き出して、軽めの本を読み通した。本は読めなくても処分しない方が良い。10余年後に読む事もあるのだから。
 性の修羅場を、幾つも通り抜けて来た作者だから、代償として幸せな結婚も好かろう、と今は思える。
 性と性格が合い、財政的に困らなくても、現実は甘くなく、約20年後に離婚している。国際結婚等に金属疲労が出たのだろうか。2011年、日本人と再婚した。
 これから、山田詠美の小説が手に入ったなら、読んでみたい。


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