風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

読書

 角川書店「増補 現代俳句大系」第15巻(1981年・刊)より、10番目の句集、成田千空「地霊」を読み了える。
 今月8日の記事、平畑静塔・句集「壺国」を読む、に次ぐ。



 成田千空(なりた・せんくう、1921年~2007年)は、1946年「暖鳥」創刊に参加、同年に中村草田男の「万緑」に創刊より参加。1945年より開墾に従事するも、収穫乏しく、辛酸を嘗める。5年後、古書店を開業し、新刊書店に移る。
 第1句集「地霊」には、中村草田男の序句、1943年~1971年の583句、中村草田男の「跋に代えて」、著者・後記を収める。


 第1章「母郷」が1943年~1948年の作品と、敗戦を跨いでいる事に違和感がある。
 開墾の貧しい村に、更に貧しい物乞いが現れ、寺もなく、水子か間引き子を祀る童子仏に目を止め、離農する者にも敵意を持たない。
 安心は、一人一人が得てゆくものであり、俳人の離農を僕は難じない。敗戦どさくさに巻き込まれた、災難である(当時の農政はわからないので、今は述べない)。


 以下に5句を引く。
炎天焦土人群れやすく散りやすく
地の旱閾(しきゐ)を越えて乞食来る
墓地ありて寺あらぬ村冬木太し
指ほどの燭炎え露座の童子仏
殉ずるも背くも一樹雪嵐
0-48
写真ACより、「ケーキ」のイラスト1枚。



 記事公開時刻を、朝の6時に変更します。

このエントリーをはてなブックマークに追加

 山田詠美の短編小説集「タイニー ストーリーズ」より、初めの5編を読み了える。
 購入は、昨年12月25日の記事、メルカリより4冊を買う、で報せた。



 題名のtinyは、とても小さい、という意味である。tiny storiesは英和辞典にないけれども、その語でググると、それを副題とした原書の写真が何冊か出て来るので、通用している語である。
 短編小説は、little storyとされているようで、tiny storyはそれよりも短く、日本語で原稿用紙数枚くらいの掌編小説よりも長いようである。

IMG_20191224_0002

 文春文庫、2013年・刊。帯の「アソート」は、組み合わせ、品揃え、の意味である。
 初めの「マービン・ゲイが死んだ日」は、若くして胃癌で亡くなった母親の遺品のメモに不可解な数行があり、それが解かれる話である。
 「電信柱さん」は、動けないが五感を持つ電信柱の独白と言う、奇妙な展開である。かつて森瑶子は、「何でも小説の主題になる」と宣って商品券を主題とする短編小説を書かされた。山田詠美の小説も熟達して、何でも主題にできる域に入ったのかも知れない。
 「催涙雨」では、アルコール中毒で入院した夫を見舞う妻が、入院患者たちと親しくなり、不能だという患者に口淫するまでになる。

 「GIと遊んだ話(一)」では、土曜日のラブホテルがどこも満杯で、不思議な古い旅館(元は遊女屋?)に明日出航するGIと、多美子が泊る。その後、多美子は捜しても捜してもその宿を見つけられない。
 「百年生になったなら」は、息子と娘、夫と姑にないがしろにされる、パート勤めの主婦が主人公である。老女の万引き事件を目撃して目覚め、100歳になったら犯罪を重ねようと決め、準備を始めたところ、異変に気付いた家族に大事にされ、翻意するに至る。素直な性格の主人公の、心の移り変わりが面白い。
 ユーモアあり、深刻あり、サスペンス風ありと、彼女のペンは自在である。




このエントリーをはてなブックマークに追加

 三浦しをんの小説「風が強く吹いている」を読み了える。新潮文庫、2018年33刷。
 購入は、昨年12月18日の記事、ブックカフェで1冊と、送られた1冊、にアップした。



IMG_20191217_0001

 よくあるスポ根ものである。定員ぎりぎり10名の弱小チームが、鍛えられて、選考会をくぐり抜け、初めて箱根駅伝に出走し、次年度シード権を得るまでの物語である。
 駅伝の場面は感動的で、涙ぼろぼろで読んだ。しかし読み了えた瞬間、虚しさを覚えた。

 結局、ファシズムじゃないか?と思う。鉄腕アトムの最後の場面(僕は読んでいない)、アトムが(何かを抱え?)、地球を救うために太陽に突入するストーリーをファシズムだと断じた吉本隆明なら、箱根駅伝でアンカー清瀬が二度と走れなくなる故障を起こしても走る小説を、同じだと断ずるだろう。精神注入棒で鍛えられた日本軍が、ガムをくちゃくちゃしながら戦う米兵に敗れた事が、よほどショックだったらしい。

 三浦しをんがなぜスポ根ものや、辞書編纂を描くのだろう。紙の辞書、電子辞書、ネット検索の興亡を描いてほしい。僕は時代小説をずっと読まない。現実と突き合わせない状況なら、いくらでも美談は描けるだろう。余談に走った。石田衣良や堀江貴文の小説が、まだ現代を描いているようだ。
 小説「風が強く吹いている」は、あまり僕の背中を押してくれなかった。



このエントリーをはてなブックマークに追加

 1月14日(第2火曜日)午前11時より、料理屋「白扇」にて、和田たんぽぽ読書会の1月読書会(3回めの参加)が、新年会を兼ねて催された。

 先の12月読書会は、12月11日の記事にアップした。



白扇
 写真は、料理屋「白扇」の建物の1部である。
 部屋はテーブル、椅子の設えで、4名と3名が並び、会員全員の参加だった。


 選定図書は、青山真治の長編小説「EUREKA」(2000年、角川書店・刊)である。まだお名前とお顔が一致していず、前回と席がずれていて、お名前をあげられないので、感想の中身を述べてゆく。
 初めより登場人物が多く複雑なので、人間関係図(家系図を含む)を作ったという方が、何名かいた。また2回、3回読んだという方がいて、熱心さに僕は驚く。
 最後まで読んでも、題名の「われ発見せり」にどこが結び付くのかわからない、という意見が出た。映画が先に制作された小説なので、映画を是非観たいという方がいた。ネット検索で調べた方がいて、役所広司が主演と知ると、映画をDVDでなりと観たいという方が増えた。
 バスジャック事件が多くの人の運命を変えてゆく物語で、西鉄バスジャック事件(僕は覚えていない)を基としたらしい。結末は穏やかだが、暗い印象の作品だったという意見に、同意する方がいた。
 僕は2/3くらいのページまでしか、読んでいないことを告げた。耐えられない程の苦しみを背負うと、人は死ぬか狂うか宗教に走るかする。しかし多くの人の苦しみの量は決まっていて、安楽と釣り合う、と感慨を先輩が洩らしたことに同意する。主人公のように、これでもかという程に災難が降るのは、珍しいと僕は述べた。これは小説だから、と応じる方がいて、僕も自分の人生とくらべてもいけないと、受け入れた。
 40代の作者の作品で、この世界を描いたことは驚嘆する、と述べた方がいた。


 西鉄バスジャック事件は佐賀県で起きており、作者も九州生まれで、視線は暖かく、九州人は温情があるという話になった。九州出身の会員が、「九州男児とかいうけれど、九州は女が偉いのよ」と述べた。
 前回に僕が配った方言集に、感想をもらった。僕は自分の詩集「光る波」5冊(会の創始者の方には既に差し上げた)を進呈し、「僕のソネット」1冊を回読用に差し上げた。

 新年会に移り、新鮮な料理を堪能した。大男の僕が余した。食事は、美味しい料理を楽しく食べれば、少なくて済む。その後、雑談。読書会が雑談に流れるのは違和感があるが、この雑談では僕も多いに語った。会費1人2,500円を払い、2月分のテキストを配り、集合写真を撮って、午後1時45分に散会した。



このエントリーをはてなブックマークに追加

 海河童さんの写真集「Photo Collection of Balicasag」Kindle Unlimited版を、タブレットで観了える。
 海河童さんの写真集として、昨年12月4日の記事、「同 はるかな尾瀬」に次ぐ。



海河童 Balicasag
 「Photo Colection of Balicasag」は、2019年1月26日、海河童本舗・刊。268ページ。
 バリカサグをスマホでググると、フィリピンのダイブサイト、バリカサグ島より、となっている。

 海河童さんの海中写真は進歩しているのだろう、心打たれる写真がほとんどだ。
 イソギンチャクとクマノミの共生は、人類へのメッセージのように、繰り返し現れる。
 ギンガメアジの魚群に巻かれる、自然に没入する至福を、僕たちは忘れて久しい。
 アメフラシのユーモア、大ウミガメの悠久に、学ぶところも多い。ただし撮影対象の名前は、一切載っていない。

 これほど素晴らしい写真集を、Kindle Unlimited(月額980円、読み放題)で観られることもありがたく、海河童さんのように自力出版を重ねている方を尊敬する。


このエントリーをはてなブックマークに追加

 総合歌誌「歌壇」2019年1月号を、短歌作品中心に読み了える。
 入手は、昨年12月15日の記事、入手した4冊を紹介する(6)にアップした。


 その4冊の、了いの4冊めの読了である。

IMG_20191214_0003

 新春巻頭詠は30首の2名と少なく、他の歌誌と競り負けているようだ。馬場あき子「いろいろな時間」では、夫(岩田正)への亡夫恋、閉塞感ありと言いきる時代感覚が、目に付く。佐佐木幸綱の「スクラム」では、テオは飼い犬の名前、また彼が若くラグビーを詠んだ事、60年安保に関わるなどした事、との事前情報がないと実感の伝わりにくい歌がある。歌壇は村社会だろうか。
 次線級の歌人の歌にも、心に止まる作品がなかった。


 新連載・平成に逝きし歌びとたち①上田三四二は、写真が優れている(死を覚悟した穏やかな表情)。「歌壇」も過去を顧みる姿勢に入ったのだろうか。

 僕は今年5月号の前金切れで、同誌の購読を止めようと思っている。2007年4月、同誌5月号を初めて買って、丁度13年になる。2種以上の歌誌を購読する、時間的、小遣い的な余裕はない。それまで、卒業の決まった授業、消化試合のようだが、紹介は続けたい。



このエントリーをはてなブックマークに追加

 このブログは日刊の予定が、昨日は更新を休んだ。
 1昨日のKDPアカウント登録の記事に、記事でも紹介した海河童さんがコメントを下さった。それによると、印税に関して仕組みが変わり、1円から受け取れるという、ありがたい情報だった。

 砂子屋書房「葛原妙子全歌集」(2002年・刊)より、第3歌集「飛行」を読み了える。
 同・第2歌集「縄文」を読む、は昨年11月27日の記事にアップした。リンクより過去記事へ遡り得る。



 「飛行」は、1954年、白玉書房・刊。1953年を中心とした、336首を収める。装丁・近藤芳美。
 日本歌人クラブ会員、女人短歌会会員となり、五島美代子、森岡貞香、中井英夫らと交流した彼女は、先鋭的な歌風に向かう。生活は苦しくないながら、女性の苦しみがあったのだろう。
 しかし無駄な字余りの歌があり、自選したにしては美点のとくにない歌がある。1年で歌集を出すのは、早過ぎたのだろうか。
 歌集題は「飛行」と名付けられながら、飛び立って上昇して行く、試行期間のように思える。


 以下に7首を引く。正字を新字に直した。
夫の寡黙にがんじがらめとなるいまのいづかたにひらめき冬の花々
どの病室(へや)も花を愛せり人間のいのち希薄となりゆくときに
みづからをみづからの手であざむくにいかにか愉し化粧といふは
ときながくわれに潜めるもののかほしらざりしいまひしと見えくる
いちにんを倖(さきはひ)とせむたいそれし希ひをもてば暗き叢
鹽甕にいつぱいの鹽を充たすとて溢るるはなにのゆゑのなみだぞ
どの窓も傷口となるさん然と雪厚らなる街の照りいで
0-42
写真ACより、「ケーキ」のイラスト1枚。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ