風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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読書

 季刊同人歌誌「COCOON」Issue13を読み了える。
 到着は、先の9月29日の記事、入手した5冊(4)で報せた。



 

 その5冊の内、4冊を読み了えて記事アップ(この記事を含め)し、残るKindle Unlimited版・小説「よみ人知らず」を読んでいる。
 同・Issue12の感想は、先の6月23日の記事にアップした。


 

c・COCOON Issue13
 「COCOON」は、短歌結社「コスモス」内の若手歌人による、季刊同人歌誌である。若手といっても、1965年以降生まれの規定なので、50代歌人を含む。
 Issue13は、2019年9月15日・刊。85ページ。
 若者に時代の圧力は強く掛かる。しかしここには、かつてのような苦しみ、憤りは少ない。収入があり、結婚し(あるいは子供を儲けて)、過労に耐えて、我慢しているのだろうか。
 自由、平和、平等といった戦後の理想は、諦めたのだろうか。「アベちゃんの側に立ってしまえば、楽なんだけどね」と巷間で囁かれる。戦後民主主義を生き、歌人(芸術家の1グループ)として生きる時、反権力は基礎だと思うのだが。


 3首を引用する。
 O・達知さんの「OTAPY」12首より。
ほろよいでめんどうくさくなる人の、妻がそうだと知った衝撃
 S・なおさんの「みづの影」12首より。
「じんるいのそんぞくに猫は不可欠です」振り向けばもうだあれもいない
 S・美穂さんの「球体と歌」12首より。空虚な歌として。
炭酸の気泡がひとつ昇っても快晴の空に雲は生まれず




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北斎漫画 3 (2)
 青幻舎の文庫版「北斎漫画」(全3巻)の、第3巻「奇想天外」に入り、「序 北斎先生に学ぶ」を経て、第1章「狂態百出」を見了える。
 先行する第2巻第4章「天地造化」は、今月10日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡り得る。

 
 初めの写真は、第3巻の表紙だが、第1、2巻と共に、好みが良くないようだ。

 「狂態百出」は、81ページに渉る。招福、奇譚、逸話、お伽話を画題とする。
 読み取れた画題では、「笑門に福来る」(正字、変体仮名を用いるので、読み取りにくい題がある)の福神、浦島太郎、祝言の能「翁」に現れる三玉の亀と翁・媼(見開き2ページ)などから始まる。
 龍、鳳凰の想像の図、僧・道鏡に逆らった和気清麻呂の図(知らない事は、ネットでググると、たいてい判る)、力持ちたちの図、義経・弁慶・富樫の勧進帳の図、樊噲などの古代中国の人物、戯れる僧たち、金太郎、桃太郎、源頼朝・頼家に仕えた仁田四郎の猪に跨った逸話、達磨・寒山拾得・鍾馗の図、孟宗たち古代中国の人物24図(1ページ6人)などが描かれる。芦屋道満・安倍晴明の「易術を競ふ」は、迫力がある。
 孫悟空、千人切り、怪力の女性2図、柿本貴僧正(ググると、弘法大師の10大弟子の1人らしい)2図、神農、清玄法師堕落、等が読み取れる。
 92ページに、「豊年」と題して、笠と蓑をまとった女性に小判が乱れ降る図で、めでたく仕舞っている。
 描き継がれた題に創意を加えて、漫画群を成している。


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 思潮社・現代詩文庫242「続続 荒川洋治詩集」より、「詩集<実視連星>から」を読み了える。ここには6編の詩を収める。
 先行する同「詩集<心理>から」を読む、は今月8日の記事にアップした。

 

 「船がつくる波」は、生活が順調に進んで、家を持った体験を基にしているように思われる。番地からは1戸立てのようだが、作品ではマンションのように書いた。本より、韜晦は許される。「真金は/鉄のこと/鉄はきのうから わたしのもの/ちいさな前の橋//借りられて/支払いをすませ/彼のもの//強い箱がたの 波」などの部分が、先の想像を誘う。
 「梨の穴」は、H・Bとその伯父、飛田いね子とその兄、タレント(?)の関口知宏、3つの話が錯綜する。「映写機の雲」は、自分を投影するらしい「石川」と、二人の先輩を描く。「イリフ、ペトロフの火花」は、小ロシアの兄弟の若い死までを描く。現代詩作家の、小説や映画のように物語りたい、という欲求の表れのようである。
 「実視連星」は、難解である。エピゴーネンや批判に苦しんだ彼が、容易に読み解けない作品を書こうとしたかのようだ。あるいは恋人との語れないエピソードを基とするか。
 「編み笠」は、史実かフィクションか、韓国の大統領を射殺したシロク(仮名)の話と、編み笠の数人が東海道新幹線で美人の売り子に会う話を、メインに交錯する。これではエピゴーネンは現れないが、彼の詩はグループを成さず、単独であり続けるだろう。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


 
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 角川書店「増補 現代俳句大系」第15巻(1981年・刊)より、7番めの句集、永井龍男「永井龍男句集」を読み了える。
 今月1日の記事、和知喜八・句集「同齢」を読む、に次ぐ。

 

 原著は、1976年、五月書房・刊。444句、著者・あとがきを収める。
 この句集は、「文壇句会今昔・東門居句手帖」(1972年、文芸春秋社・刊)の約千句より、石川桂郎らの手を経て、自選した句集である。山羊総革装、特染布貼夫婦函入の豪華本である。
 1927年~1965年前後の句より成り、戦中の中国・吟を含む。著者にはこの後、句集「雲に鳥」(1977年、五月書房・刊)がある。

 永井龍男(ながい・たつお、1904年~1990年)は、小説家であり、僕はデビュー短編「黒い御飯」、戦後の長編「風ふたたび」を読んだ記憶が残る。「石版東京図絵」を読んでみたい。
 戦前より俳句を始め、戦後は久米正雄の三汀居句会、文壇句会等で作句した。
 住み続けた鎌倉のあちこちでの風俗、生活を題材としたようだ。


 以下に5句を引く。
厨女が唱歌うたふや花木槿
立冬の母子に午砲(ドン)の鳴れるかな
北風や独楽買ふ銭を固く掌に
寒鮒を茶で煮る鍋のあるばかり
数へ日の三時は日向四時の影
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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 今月7日の記事、届いた4冊(4)で報せた本から昨日に続き、関章人さんより受贈した詩集、「在所」を読み了える。

 

詩集2
 リンク記事で、関章人さんの過去の詩集の記録がない、と書いた。県立図書館の蔵書にもなく(県内の詩人は詩集を出版すると、ほとんど必ず寄贈する。この「在所」も蔵書検索に浮かぶ)、第1詩集のようだ。
 年刊アンソロジー「詩集ふくい」への寄稿が先か、同人誌誌「角」への寄稿が先か(代表・金田久璋さんに誘われて)、今はわからない。

 第Ⅰ章は、東北大震災をちょうど3ヶ月後に詠った「白煙がゆれている」から始まり、比較しつつ福井震災を描く「 わが福井震災の記憶と」が続く。福井空襲と原発禍を対比する「いのちの在所」の編もある。

 第Ⅱ章には、言葉を問う「ことばの翳り」、「とどかないことば」がある。
 「耳鳴り」の「透明になった過去と/崩れて行く明日と/幻像は水面に揺らいでいる」とあいまいながら、焼け跡世代の現在の思いを伝える。
 第Ⅲ章の「鯨塚」は、天明4年(1784年)と文政3年(1820年)の史実を物語って、郷土史研究家の面目を見せている。
 「囲い込み幻想」は、国の領海・領空を囲い込み、「ひとり歩きする」コトバで国民を囲い込もうとする、権力に反発する。
 第Ⅳ章では、生活をリアルに切り取って優れる。「廃品回収」の「次には僕が廃品回収やなァ」「いやいや まだまだ使える貴重な資源です」の会話は、庶民の機知と知恵と優しさである。
 第Ⅴ章の3編は古く、ベトナム戦争などを詠っている。

 総じて問題意識に貫かれた詩集である。


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 県内にお住いの詩人、こじま ひろさんが贈って下さった詩集、「逝き咲き」を読み了える。
 受贈は、今月7日の記事、「届いた4冊(3)」にアップした。

 

詩集 1 
 上の写真は、表紙と帯(県ふるさと詩人クラブ・代表、川上明日夫さんの帯文)である。同じく川上明日夫さんの4ページに渉る栞を付す。
 2019年9月、山吹文庫・刊。3章22編の詩、あとがき、略歴を収める。84ページ。


 彼は1936年・生まれの一人子だったが、1944年に父が戦死した。中学校卒業後、農業で生計を立てたようだが、後に建築大工ともなった。
 還暦を過ぎた1998年に句会に参加、2001年に歌会に参加、2003年に詩の会に参加、と多彩で旺盛な活動を始め、今も活躍している。

 「行き咲き」では、「爺の体の古釘は/バールではぬけない」と、身に沁み込んだ苦労を窺わせる。文学に出会って、「一編の詩とのせめぎあい」が「渇いた心をいやすよう」と述べる。
 お孫さんにも恵まれるが、「節分」の豆撒きの終連は「老いは外と聞こえてくる/何処へもいけない」と、家庭で孤独であろうか。
 終章の「戦争があった風景」は圧巻である。掉尾の「無花果」では、父が戦死後の母子の苦しい生活を述べ、終連では「爺は/そっとよく熟れた無花果の/ひとつを かみしめた」と老後の楽しみを味わう。

 レトリックとは情意をよく伝える方便だが、「そそっかしい春が引っ越して来た」、「宵がこぼれないように」などの上滑りな比喩がある。
 リアリズムで表すには、深刻な人生だったのかもしれない。


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 県内の詩人、漢文学研究者の前川幸雄さんが下さった、文学総誌「縄文」第4号をほぼ読み了える。
 受贈は、先の9月29日の記事、入手した5冊(4)で紹介した。2019年8月30日、縄文の会・刊、22ページ。

d・文学総誌「縄文」第4号
 題字が替わり、前川さんの中国留学時代より交流がある、馬歌東氏の作の篆刻である。
 同・第3号の記事が、このブログに見つからないが、同・第2号は昨年4月5日の記事にアップした。



 前川さんの巻頭言「橋本左内と中国の文人たち」は、彼が最近多く研究している県内の漢詩に絡めて、450余首の漢詩を残した橋本左内の中国文献・思想の受容の研究が必要不可欠と説く。

 一般研究では、Y・信保さんの「ナマズの謎を追う(3)」が、「地震とナマズの結びつき」「水神としてのナマズ」「瓢鮎図考」(鮎はアユでなく、鯰のこと)等で、研究を進めている。

 前川さんの2つの講演の記録と、受講生の反応の文章が、B5判2段で5ページに渉る。
 
 Y・絹江さんの7言絶句「懐東篁師弟愛」(東篁の師弟愛を懐う)、「観国宝曜変天目茶盌」(国宝曜変天目茶盌を観る」を載せ、M・善男さんの7言絶句も紹介されている。

 T・義和さん、M・昌人さんの随想が各1ページ、Y・里奈さんの感想文「『田奇詩集』と『赤 私のカラー』の魅力」は、前川さんがかつて邦訳した現代中国詩集を2ページに渉って評した。

 人材、内容、共に力があり、各文にはモノクロ写真を付し、文学総合誌と呼んで良い豊かな雑誌である。




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