風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

読書

五十子尚夏 The Moon Also Rises
 五十子尚夏・歌集「The Moon Also Rises」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 同じ新鋭短歌シリーズの歌集として、今月6日の記事にアップした、虫武一俊・歌集「羽虫群」kindle unlimited版を読むに次ぐ。
概要
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズの1冊。
 単行本:2018年12月10日・刊。価格:1,836円。
 kindle版:2018年12月27日・刊。価格:800円。
 kindle unlimited版は、追加金:無料。
 五十子尚夏(いかご・なおか)は、男性、1989年・生まれ、2015年・歌を始めた。
 この歌集には、324首、掌編小説1編、加藤治郎・解説「世界は踊る」、著者・あとがきを収める
感想
 「滅びゆくものへの美意識」(あとがき・から)より詠んで、華美なレトリックから、フィクションへ至る。
 美術、音楽に関わる歌が多い。外国旅行の地名も多い。
 人名、地名の固有名詞がたくさん出て来て、僕にはほとんど判らないが、ネット検索で一々調べる気になれない。電子書籍の機能の多くを欠いているので、その場での辞書・Wikipediaでの検索ができない。
 それでも僕がしまいまで読んだのは、青年の孤立した美意識と、その危うさに惹かれたのだろう。
引用
 以下に7首を引く。
一抹の不安重ねてゆくだけのmake loveへと誘うフロイト
信じられるものひとつとひきかえに防犯カメラに映す口づけ
夏青く照りてあなたが打つサーブ・アンド・ボレーの美しき日よ
九回の裏に斜線を引くような舌っ足らずの初恋でした
タクシーの後部座席で泣いていたあなたの嘘を見破れないで
クレーターのようなえくぼの深淵に不時着地点を見定めている
女流棋士が十二手先に人知れず美(は)しき正座を崩す火曜日



 
 
 
 
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 石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、「鼓動以後」(1,359首・収録)の4回め、最終の紹介をする。
 先の5月28日の記事、同(3)に次ぐ。このあとは短歌作品として、初期歌編421首と、別冊栞に掲載された遺詠9首のみである。
概要
 今回は、547ページ「時も命も」(1990年)の章より、しまい586ページ(1993年)までを読んだ。この時期、著者は肝炎を病み、1993年1月7日、肺癌のため死去した。
 僕が「コスモス」に初出詠したのは1993年12月であり、没後すぐに当たる。
感想
 「コスモス」の創刊者・宮柊二の没後、「コスモス」は幾つに分かれるか、などと噂されたらしいが、葛原繁が編集人となり結社をまとめ、分裂を防いだ手腕は大きく評価された。
 会社勤め、家族の扶養、結社の維持拡大などに、成功した。また歌人としても、読売文学賞を受賞するなど、評価された。
 しかし葛原繁の短歌が、今1つ膾炙されないのは、実務面に心身を向け過ぎたからだろうか。
引用

 以下に7首を引く。
宇宙にて徐々に近づきドッキング成るまでを映す生中継にて
見る我も水に浮かべる鴛鴦もおしなべて今春の日のなか
寝ては起き仕事なしをり予後の身は机のそばに布団を敷きて
一党独裁の終(つひ)の帰結か民衆はののしりて屈せず戦車の前にも(ソビエト政変)
歩み来し我の目前に紅梅は花をつらねて陽にかがやけり
遊民ら春日に出でておのも憩ふビルの谷間の石の広場に
身力の失せゆくことを如何せむかく嘆くかも残暑の明暮れ
0-46
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


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 今月12日の記事、入手した2冊(6)で紹介した内、同人詩誌「青魚」No.90を、ほぼ読み了える。
 リンクより、過去号の記事へ遡れる。
概要
 2019年6月5日、鯖江詩の会・刊。B5判、2段組み。詩誌名の「青魚」は、「鯖」の字を分解したものである。
 12名21編の詩、5名6編の散文、千葉晃弘・詩集「降誕」への手紙12通を掲載する。
感想

 僕のソネット6編は、もう1つのブログ「新サスケと短歌と詩」の「「青魚」の詩」テーマ内、6月11日の記事、「ソネット「変換(2)」」より順次アップ中なので、横書きながらご覧ください。
 T・幸男さんの4編(ペン書き稿を縮尺掲載したもの)は、長く連れ添った夫人を亡くされ、「居残り鴨」と自虐気味である。それでもラテン語等のルビを振った哲学用語を交えての、社会批判は健在である。たとえば「人生の嫌悪(ウエイタエ)」(ボードレール)、「俗化した現実(ゲーゲンブァルト)」、「総駆り立て体勢(ゲシュテル)」、「軍歌(ソング)」等。
 A・雨子さんの散文「私の母」は、エッセイでも小説でもない、リポート風で8ページに渉る。彼女が母を中心に家族を描いた散文は、何度か読んでいる。それらが事実であるとの保証はない。「私的真実」である事は確かだと信じられる。



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 角川書店「増補 現代俳句大系」第14巻(1981年・刊)より、最終22番めの句集、宇佐美魚目「秋収冬蔵」を読み了える。
 今月1日の記事で、福井県俳句作家協会「年刊句集 福井県 第57集」を読み了えたからである。
 同・第14巻からでは、4月4日の記事、赤尾兜子「歳華集」以来である。
 同・第14巻には、「歳華集」と「秋収冬蔵」の間に、伊丹三樹彦・句集「仏恋(ほとけごい)」(1975年・刊)があるが、戦時下の句であり、宗教に傾き過ぎているので、今は飛ばした。
 次は「増補 現代俳句大系」の最終、第15巻に入る。
概要
 「秋集冬蔵」の原著は、1975年、永田書房・刊。1960年~1974年の360句、著者・あとがきを収める。「崖」(1959年、近藤書店・刊)に次ぐ、第2句集である。
 宇佐美魚目(うさみ・ぎょもく、1926年~2018年)は、「ホトトギス」より出発し、現代俳句とも関わりを持ったようである。
感想

 なぜ16年も間をおいて、第2句集を出版したのだろう。60年安保以降の世の風潮が合わず、再び保守化した1975年となって、出版したのか。
 あるいは伝統派と現代派の間で、作句が揺れたのか。
 松尾芭蕉や高浜虚子を吟じた句は、黄門様の印籠みたいなもので、反発の仕様もない。
引用
 以下に5句を引く。
籾殻を根雪に三戸馬を飼ふ
睡後の目あかし雪ふる柿の中
ひるの灯に読みさしの書や括り菊
箱橇の曲つて消えし一位籬(木曾)
春暖の赤子のこぶし雨意の松
0-45
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。





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 今村夏子の短編小説集「あひる」を読み了える。
 6月10日の記事、同「こちらあみ子」に次ぐ。

 角川文庫、2019年1月25日・刊。
 短編小説「あひる」、「おばあちゃんの家」、「森の兄妹」、3編を収める。
 「こちらあみ子」(旧題「あたらしい娘」)に次いで、「あひる」は芥川賞候補となり、河合隼雄物語賞を受賞した。

「あひる」

 両親と住む「わたし」の家の鶏小屋で、あひるを飼う事になる。「わたし」は医療系資格の勉強中で、まだ仕事をした事がない。あひるに惹かれて、子供たちが集まるようになり、両親も歓迎する。あひるが1ヶ月程で病気になり、病院に父が連れて行き、帰って来るが、わずかに違うように「わたし」には思われる。3回めが死に、庭に墓を立て、3羽が違う鳥であったと両親の偽計がバレる。
 10年前に家を出た弟が、結婚8年めで子を儲けて帰宅する事になり、家の増築工事の場でおわる。
「おばあちゃんの家」
 主人公「みのり」の家族とは血のつながらない、おばあちゃんが敷地内の建物・インキョに住んでいる。親切なおばあちゃんだが、痴呆(?)が始まり、逆に知的・体力的に元気になる様を描く。
「森の兄妹」
 母子家庭の兄妹、モリオとモリコが、小屋に住むおばあさんから、窓を通して飴を貰ったり、実る枇杷の実を全部持って行って良いと言われる。おばあさんの家で、その家族より誕生日祝いされるのをモリオが目撃して、兄妹は小屋に行かなくなる。

 子供たち、非就業者、おばあさん(高齢者)、それぞれ1人前に見做されない者たちと、その周囲を描いて、現代の1面を切り取っている。





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 今村夏子の短編小説集「こちらあみ子」を読み了える。
 入手は、先の5月27日の記事、入手した5冊と1誌で報せた。
概要
 ちくま文庫、2017年7月30日・6刷。
 初めての作家さんである。ブクログか読書メーターでとても誉められていて、同氏の「あひる」(角川文庫)と共に、メルカリで購入した。
 この本には、太宰治賞、三島由紀夫賞をW受賞した「こちらあみ子」と、「ピクニック」、「チズさん」の3短編小説を収める。
「こちらあみ子」
 田中あみ子と孝太の兄妹に継母が来るが、妹を死産した時、あみ子は木札の墓を立ててしまい、それを契機に継母は心の病気に、兄は不良少年となってしまう。
 あみ子が慕い続けた、のり君に殴られて前歯を3本折ってしまうが、差し歯を拒否するのは不自然である。あみ子は兄の威光などで苛められずに済んだが、中学卒業と共に、祖母に預けられてしまう。
 多動症とかADHDという言葉のなかった時代だろうが、子供が純粋であるが故の多難を背負ってしまう。
「ピクニック」
 売り出し中のスターの恋人だと語り行動し続ける七瀬さんと、仲間の少女たちの友情、彼女の嘘がバレての後が描かれる。表立っては描かれないが、家族・恋人のいない女性の、虚構に縋る心情が哀れである。
「チズさん」
 独居のおばあさんチズさんの誕生日祝いに、世話をしている「私」が訪れると、子夫婦と歌手志望の男孫が訪れて、「私」の隠れている間に大騒ぎをする。「私」はチズさんをわが家に引き取ろうとするが、土壇場でチズさんが未練を見せて、頓挫する話である。純粋な思いが、多くは通らない世間を表わすようだ。


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 所属する結社歌誌「覇王樹」の2019年6月号を、ほぼ読み了える。
 到着は、先の5月27日の記事、入手した5冊と1誌の末尾にアップした。
 同・5月号の感想は、先の5月5日の記事にアップした。リンクより、過去号の記事へ遡れる。
概要
 作品掲載は順調である。
 以前にも紹介した、「私の選んだ十首」欄3名分があり、古城いつもさん(フルネーム記載は彼女の要望による)の(四月号)選に僕の1首が入った。
 今年11月、大阪市内での全国大会の参加募集があり、僕も付属ハガキで出詠1首と共に、応募した。
 また来年の100周年の記念号、記念事業の詳細も固まりつつあり、僕は自選の歌1首を出詠した。
 ホームページ「短歌の会 覇王樹」も、5月27日には6月号の装いで、大いに励ましてくれる。
感想

 2首の引用を寸評して、感想に代えたい。
 「爽什」のK・南海子さん「森に降る雨」6首より。
回り道幾つも重ねゆくポスト今日唯一の外出なれば
 職をリタイアすると家に籠もりがちで、僕も近くのポストへゆく事が唯一の外出となる日がある。そして近所を一回りして散歩とする。
 「大翼集」のI・正太郎さん「時差ありて」6首より。
在米の曾孫とLINE歳問へばThreeと応ふ 地球儀繰りぬ
 ライン、スカイプ等、世界は狭くなったが、ネットでのもどかしさが、地球儀を回させたのだろう。


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