風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

読書

 沖積舎「梅崎春生全集」第3巻(1984年・刊)より、4回めの紹介をする。
 同(3)は、先の5月1日の記事にアップした。
概要
 今回は、「春の月」、「A君の手紙」、「カロ三代」、「服」の、4編を読み了えた。
 「春の月」、「A君の手紙」は中編、「カロ三代」は短編、「服」は掌編と呼べるだろう。
感想
「春の月」

 出会った人物ごとに、主人公が次々に移る。下宿の追い立てをくらっている男、倒産する社長、流しのバイオリン弾き、流行らない薬局の店主、等、冴えない男ばかりを描いている。主人公の移るのは新手法かも知れないが、です・ます調なのが惜しい。
「A君の手紙」
 老人の2通の手紙(書簡体)より成る。小説家に話題提供の代わりに、お金の無心と、返済延期の申し出である。登場人物が貧しく、無気力な、世の1画を描く。
「カロ三代」

 三代めの飼い猫・カロを敵視して、竹の蠅叩きで追い回す話である。しまいに隣家の天井裏で死んでいる所を発見される。夫人から「あんたがあまりいじめるから、カロは自殺したのよ」と責められる。梅崎春生は、猫的性格から、猫を嫌ったのだろうか。
「服」
 自分によく似る(服装、境遇)人物と、近くに居ねばならない苦痛、というこれまで繰り返されたテーマの復習というか、まとめのような掌編で、全集で実質2ページである。よく似た境遇の大衆の憎しみを、作家は感受しているようだ。
 4編とも、当時の市井の1画を、捉えたようだ。
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。



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虫武一俊・羽虫群
 虫武一俊・歌集「羽虫群」kindle unlimited版を読み了える。
 Amazonよりタブレットへのダウンロードは、先の5月13日の記事、入手した6冊(2)にアップした。
 同じ新鋭短歌シリーズの読書は、先の5月10日の記事、小野田光・歌集「蝶は地下鉄をぬけて」に次ぐ。
概要
 書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」の1冊。
 単行本:2016年6月12日・刊。価格:1,836円。
 kindle版:発行日・不明。価格:800円。
 kindle unlimited版は、追加金・無料。
 虫武一俊は、1981年・生。龍谷大学・卒業。
 歌集「羽虫群」には、308首、石川美南・解説「だんだん楽しくなるいきどまり」、著者・あとがきを収める。
感想

 レトリック(修辞)が上手すぎて、衝撃的な事を詠んでも、真実のインパクトが弱い。
 会話体の多用がある。呼び掛けたい思いが強いのだろう。
 「三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息」と詠みながら、短歌の力の故だろう、短歌の会で批評し、職にも就け、恋も得たようだ。
 啄木に繋がる、生活的弱者の系譜の歌人だっただろうか。短歌の救いを宣してまわっている僕には、好ましい例である。
引用

 以下に7首を引く。
少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない
死にたいと思う理由がまたひとつ増えて四月のこの花ざかり
「負けたくはないやろ」と言うひとばかりいて負けたさをうまく言えない
謝ればどうしたのって顔ばかりされておれしか憶えていない
秋というあられもなさにわたくしを見下ろす女ともだちふたり
駅前の冬が貧しい できなさとしたくなさとを一緒にされて
逃げてきただけだったのににこにことされて旅って答えてしまう




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 今月3日の記事、届いた2冊(7)で紹介した内、別冊宝島編集部編「証言 藤井聡太」を読み了える。古本だが、帯付きのきれいな本である。
 先の5月30日の記事、松本博文「藤井聡太 天才はいかに生まれたか」読むに次ぐ。2冊めの藤井聡太・本である。
概要
 宝島社、2018年6月28日・刊。223ページ。
 羽生9段の発言、多くの鼎談・対談、ドキュメントを含む。
 Amazonのカスタマーレビューに「記事の寄せ集め」という酷評があったが、僕には新しい記事が多かった。ファンには、繰り返しの記事も嬉しいものだ。
 題名通り、プロ棋士の発言が多く、信憑性が高い。
感想

 「天才はいかに生まれたか」に比して、将棋の指し手、棋譜、詰め将棋の図がある。将棋は、駒の動かし方くらいしか判らない僕には、それらは判らない。
 彼の天才ぶりと、フィーバーぶりはわかる。勝負飯さえ取材される時代だ。
 詰め将棋を解く事でまず注目され、詰め将棋創作も優れているけれども、対局に専念するため、詰め将棋創作は封印しているとある。
 またここ4戦で、2勝2敗と、冴えないのも心配だ。取材や対局放映に、疲れてきたのだろうか。
 将棋界の興隆のためにも、避けられないのだろうが、16歳には酷かも知れない。


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 先の5月27日の記事、入手した5冊と1誌で紹介した内、村上春樹のエッセイ集「村上ラヂオ3 サラダ好きのライオン」を読み了える。
 昨年3月16日の記事、「同2 おおきなかぶとむずかしいアボカド」に次ぐ。
概要
 初出は、女性週刊誌「アンアン」の連載である。1年間に発表された52編を集めて、3冊めとなる。
 「同2」と同じく、マガジンハウス社から単行本化された。
 新潮文庫、2016年5月1日・刊。挿し絵(銅版画)大橋歩。
感想

 若い女性が、村上春樹のエッセイを、どのような思いで読んだのだろう。作者も「まえがき」で、「両者のあいだには共通する話題なんてほとんど存在しない(はずだ)」と書いている。
 オジサンが面白く書いているエッセイと読むのか、内容が意外と重いので、大作家が人生を語っていると読むのか。
 語り口の軽さに反して、内容は重い。「愛は消えても」では、遭難救助の順を幾度も譲って自身は亡くなったアメリカ人男性の話題を取り上げて、親切心について考察する。
 「裁判所に行こう」では、裁判員制度で裁判員が量刑(死刑を含め)まで決める事に疑義を呈している。

 流行作家の売れそうな本を、大出版社が占めている事に疑問を持つ。出版社のメジャー度は、売れゆきに関わるだろう。でも、おこぼれや新人の作品・翻訳を中堅出版社が拾い、1本勝負を賭けるのは、出版界として健康的でない。

 1時は騒がれた電子書籍も、旧勢力の抵抗に由るのか、優れた作品を揃えられなく、ノウハウ本かインディーズ作家の本が多くて、隆盛とは呼べない現状は残念である。読書界の再興になると思っていたけれども。


 
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 川上未映子のエッセイ本「きみは赤ちゃん」を読み了える。
 メルカリからの購入は、先の4月28日の記事、歌誌と歌集とエッセイ本にアップした。リンクより、川上未映子の関連の記事を遡れる。
概要
 初出は、「出産編」が「本の話Web」2013年7月~11月・連載、「産後編」が書き下ろし。
 単行本は、2014年7月、文藝春秋・刊。
 文春文庫は、2017年5月10日・第1刷。
感想

 35歳になった女性作家が、妊活をして妊娠し、出産を経て、息子が1歳になるまでの育児も語られる。基本、望み通りで、ハッピィな語り口である。
 世の中には結婚しない人、結婚しても子供が出来ない夫婦、別れてしまう夫婦もいる。川上未映子は、再婚であるが故にか、乗り切って育児に至っている。
 妊娠を産婦人科で夫(作家、あべちゃんと書かれている)と確認した時の喜び、つわりの苦しみ、突然のつわりの解消、マタニティブルーの苛立ちも、率直にユーモアのある口語調で書かれている。
 そして無痛分娩の筈が、難産で帝王切開となるいきさつが描かれる。子が生まれての、号泣など、ここでも率直である。
 産後は母乳授乳を選んだので、2時間ごとの授乳等でほとんど眠れない日が続く。夫が睡眠、執筆を続けるので、産後クライシスにもなるが、2人は徹底的に話し合って、危機を回避する。
 自然に卒乳し、お気に入りのベビーカーで(それにも救われ)散歩し、息子の1歳の誕生日祝いの場面でおわる。初めての経験尽くしの妊娠、出産、育児を、ごくたいへんな事も、関西弁交じりの明るい文体で述べられて、幸せ感が伝わって来る。


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年刊句集「福井県 第57集」
 福井県俳句作家協会「年刊句集 福井県 第57集」(2019年3月20日・刊)より、8回めの紹介をする。
 先の5月22日の記事、同・(7)に次ぐ。
 今回で第57集の作品集のすべてを読み了えた事になる。
 昨年の第56集と同じく、8回めで紹介できて幸いである。
概要
 今回は、192ページ~218ページの、47名、470句を読んだ。
 敦賀地区(敦賀市、美浜町)、若狭東地区(三方郡、三方上中郡)、若狭西地区(小浜市、おおい町、高浜町)の、3地区のすべてである。
 このあと、各俳句大会入賞句、出句者索引を含め、付随項目を収める。
感想

 ほぼ有季定型の句で、季節の短詩の良さを、十分に味わった。俳句らしい大胆な省略や、海辺の町らしい句に、改めて新鮮さを感じた。
 俳句を創らない僕が、県の俳句アンソロジーを紹介し、拙評や引用で、福井県俳壇に、要らぬ波風を小さくても立てなかったか、心配である。
 今後も福井県俳壇が栄えるように、願っている。
引用
 以下に5句を引く。
懸命に父の腕まで泳ぎ着く(N・一雄)
初競や海の色濃き出世魚(M・千代枝)
ちびつこの眼きらきら蟻の道(T・恭子)
春光や海を汲み上げ船洗ふ(H・稔)
ケーブルで着く山頂の青嵐(H・照江)



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 今月27日の記事、入手した5冊と1誌で紹介した内、松本博文「藤井聡太 天才はいかに生まれたか」を読み了える。ジャーナリスティックな本は、初めてではないだろうか。
概要
 NHK出版新書532。松本博文・著。2017年10月10日・初版。
 藤井聡太の郷土から、誕生、トランプ、プラレールの好みから、3歳で「雪の聖母幼稚園」に入り、モンテッソーリ教育を受けた事が大きいようだ。
  祖母・祖父との将棋の始めから、幼稚園生で「ふみもと将棋教室」、小学1年で「研修会」(幹事・杉本昌隆・現8段)、小学3年での全国大会初優勝、小学4年で奨励会入り(師匠・杉本昌隆8段)、小学6年で入段、中学生(史上最年少)での4段昇段(プロ入り)・29連勝フィーバー、2017年9月3日、39勝5敗の地点で、追跡は終わっている。
感想

 僕はこの世の天才の存在を信じており、藤井聡太7段、卓球の張本智和、バドミントンの若手女子たちの活躍を頼もしく思っている。
 世の中が、コワモテの首領(ドン)ばかりになり、戦後教育を受けた者には明るくない時代となる中で、希望だと感じる。
 天才少年が、天才青年、天才壮年、天才老年を迎えられるか、保証はない。運動選手の選手生命の短い事に比べて、知のゲームでは選手生命が長い。92歳で現役の囲碁棋士・杉内寿子もいる。
 藤井聡太が生活、社会面で大きく挫折しなければ、大棋士となるだろう。僕の残生の楽しみ(僕は将棋を指さないが)の1つである。


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