風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短歌

 石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、歌集「鼓動以後」の1回めの紹介をする。
 先の4月21日の記事、同・「鼓動」を読むに次ぐ。
概要
 「鼓動以後」は、著者が1993年に亡くなったあと、歌集「鼓動」以後に紙誌に発表された全ての短歌、1,359首を「全歌集」発刊に際し、まとめて収めたものである。
 紙誌に発表する際には、推敲、選歌があっただろうが、歌集にまとめる際の自分の選歌、推敲はなされていない。
感想
 大部なので、分けて読んで記事化するけれども、何ページごと、という規則は持たない。付箋を7枚貼ったなら、そこで中断して記事化しようと思っている。
 今回は、431ページ~482ページの、52ページを読んだ。1ページ10行組み(章題を含めて)である。
 戦争体験者として、曲折はありながら、戦後の平和と繁栄に、深い感慨があるようだ。
 幼児、少年・少女を見る目は明るい。職を退いたあと、職務に励んできた分、虚しさはあるようだ。
 また故郷の広島県、とくに原爆平和公園を度々訪れている。
引用

 以下に7首を引く。
沿線の戦中戦後を知るものに感慨はありビル林立す
騒音は地上のものか高層のビルに見る東京もの音もせず
おのづから平和公園に我は来つ他に行き場所のなきが如くに
除幕の日学生なりき師の歌碑に今日来て立てば六十路(むそぢ)も半ば(白秋歌碑)
自在とはま寂しきもの企業といふ組織に励みし半生むなし
早春の今日を放たれ遊ぶもの子らは駆けつれて仔犬も走る
去来と彫る小自然石姿よし心にくき墓を残せるものか
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。




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 Twitterを「短歌 ネットプリント」で検索し、2種類を5月5日(日曜日)に近所のローソンで引き出した。短歌のネットプリントの記事は、今年3月25日の「1冊と1枚」以来である。

 まず以下のツイートである。

 1997年、1998年生まれの歌人、3人による「第三滑走路」6号である。A3判・片面。
 各12首と、メンバー紹介(簡単な質問2つと答え)を、収める。
 学生短歌会のA・輝さん「グッドライフ」と、M・洋渡さん「プシュケの結婚式」は難解である。
 句割れ・句跨りが繰り返され、57577の定型が崩れると、歌意も崩れるようだ。
 M・慎太郎さんの「桜、散ってすぐ夏」は、やや大人しいか。以下に1首ずつ引く。
光り続ける僕たちの密室論/世界すべてを映し出すシネマ(A・輝)
世界は一つとは限らない木漏れ日が総量として葉を上回る(M・洋渡)
手続きが煩雑なのがわるい、よね? 桜は散るからうつくしい、よね?(M・慎太郎)

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 次のツイートである。
 K・仁美さんとH・志保さんが、「いちごつみ60」で、交互に歌を詠んで、各30首、計60首を、A4判両面で読める。
 しかもルールがあって、前の歌にあった1語を必ず取り入れて詠むのである。定型にさらに枠をはめている。後半に荒れそうになるが、うまく仕舞っている。
 続く2首を挙げる。
ここへ来て一緒に濡れてほしいのにあなたは傘をたくさんくれる(H・志保)
濡れてもいいものとして買うスニーカーが私の悲しいによく似合う(K・仁美)

 これらの歌の危機は、若者歌人の危機であり、若者の危機であり、時代の危機である。


小野田光 蝶は地下鉄を抜けて
 小野田光・歌集「蝶は地下鉄をぬけて」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズ(kindle unlimited版)の読書として、先の4月15日の記事にアップした、九螺ささら「ゆめのほとり鳥」以来である。
 この歌集を含む、4冊のダウンロードは、先の3月15日の記事で報せた。
概要
 紙本版:2018年12月10日・刊。1,836円。
 kindle版:2018年12月27日・刊。800円。
 小野田光(おのだ・ひかる)は、1974年・生まれ、「かばん」会員。
 この歌集には、325首、東直子・解説「誰のものでもない、わくわく感」、著者・あとがきを収める。
感想

 若い人の短歌に慣れているつもりだが、前衛的過ぎる作品はわかりにくい。例えば「繁栄の淵の旋律くずれてもオーケストラをひやす月光」など。
 恋の歌に素直で優れた作品がある。
 野球好き、アイス・ホッケー好きで、選手に成り代わって詠んだ歌がある。
 激務の果て、精神科に通い、休職してしまう。素直な短歌を詠んでいたなら、そこまで進まずに救われていただろうか。
引用
 以下に7首を引く。
あけがたの君のかすかな寝息うけ虹の萌芽に疼くてのひら
ひき際が綺麗でしたね花束はどこかで燃えて香りを放つ
彼は背が高くて眼鏡をかけていてイルカの置き物ばかり集めた
なかなかにたのしい記憶でしたのでふともも裏に貼っておきます
感情の作り置きってできないと言いあいながら持つレジ袋
将来を話しあわずに配球を読みあいながら野球観戦
喉奥は生ぬるい沼 この夏の解をもたない人と歩めば




あやはべる
 米川千嘉子・第7歌集「あやはべる」を読み了える。
 到着は、先の4月28日の記事、歌誌と歌集とエッセイ本で報せた。
 彼女の読んだ歌集として、先の4月30日の記事にアップした、「吹雪の水族館」(第8歌集)に次ぐ。
概要
 短歌研究社・刊。2012年7月・初刷、2013年3月・重刷。473首、著者・あとがきを収める。「あやはべる」は、沖縄の古い言葉で、蝶を指す。
 2013年、第47回・迢空賞・受賞。
感想

 第8歌集から第7歌集を読んでいるので、一人息子さんの成長など、フィルムを逆回しで観ているようだ。
 第8歌集では就職した息子さんは、ここでは予備校を経て大学に進学したようだ。息子さんは家を出て、歌人夫婦2人きりの生活になった。
 娘・妻・母親・1女性としての歌と共に、東北沖大地震・原発災害も繰り返し詠まれている。
引用

 以下に7首を引く。
最後の試合終はりたる子のユニホーム洗へばながく赤土を吐く
風吹けば滝は蛇腹を見せて光(て)り主婦のむなしさもううたはれず
憂愁の少年阿修羅を見てくれば息子ごつんと憂鬱にゐる
食べさせたものから出来てゐる息子駅に送りて申し訳なし(進学で家を出る)
ああ春のひかりは甘いと嗅ぐ母を食べ揺れてゐるエニシダの黄
ひたすらにひとは紙漉きキンドルのしづかな白も作りだしたり
絶句する人になほ向くマイクあればなほ苦しみて言葉を探す





「覇王樹」5月号
 所属する結社歌誌「覇王樹」の2019年5月号を、短歌作品中心に読み了える。
 本号の到着は、先の4月28日の記事、歌誌と歌集とエッセイ本にアップした。リンクより、過去号記事へ遡れる。
概要
 何回か紹介したけれども、本誌には「覇王樹歌人の歌碑」の連載があり、今回で29回を数える。今回は、「石野義一(よしかず)の歌碑」である。愛媛県南宇和郡の八幡神社の横に在る。歌人の経歴、歌碑建立の経過を述べ、歌人と歌碑のモノクロ写真2枚と共に、2段組み見開き2ページにわたって紹介されている。
 ホームページ「短歌の会 覇王樹」も既に5月号の仕様であり、大きな励みになる。
感想

 以下に3首を引き、寸感を述べて、感想としたい。
 「爽什」欄のN・ヱツコさんの「底を照らせば」6首より。
叶はざりし夢のいくつか踊り子の真似して一人ステップを踏む
 独り身となった今、夢を抱えていた娘時代に心は戻り、ステップを踏むのだろうか。
 「東聲集」欄より、本誌・編集人の佐田公子さん「君は光に その二」6首より。
月影が君の魂連れゆくや窓を慌ててわれは閉ぢたり
 昨年末のご夫君、佐田毅・代表・発行人のご逝去の挽歌を、繰り返し詠んで来た。昨年中の一人息子さんのご逝去と共に、嘆きは深いと察する。
 「游芸集」欄のA・秀子さんの「数の子」6首より。
味気なきみそ汁二口三口すすりをへ今日の始まる特養の朝
 マイナスな感情を詠みながら、字余りを含め調べは整って、上品に表している。



 

吹雪きの水族館a
 今月22日の記事で到着を報せた本、米川千嘉子・歌集「吹雪の水族館」を読み了える。
 現代短歌文庫の「続 米川千嘉子歌集」の第4歌集・「一葉の井戸」(2001年・刊)より、第8歌集まで、14年を一足飛びに越えての読書である。第7歌集「あやはべる」も買ってあるので、逆年順に彼女の歌集を読むことになるかも知れない。
概要
 2015年11月1日、角川文化振興財団・発行、KADOKAWA・発売。
 第8回・小野市詩歌文学賞を受賞した。
 題名は2012年、馬場あき子らと共に、黒川能を鑑賞した際、鶴岡市立加茂水族館を訪れて、有名なたくさんの水母を観た経験の1連から採られた。
感想

 前歌集「あやはべる」で迢空賞を受賞して、肩の力が抜けたかの感がある。
 一人息子は、家を出て学び、厳しい就活を経て就職した。夫は壮年で、仕事・短歌に重い役割を果たしている。
 被災した、東北沖大地震の事も、原発災害を含め、繰り返し詠まれている。
 「ゆるキャラ」を土地の神とも、ただの着ぐるみとも、詠んでいる。
引用
 以下に7首を引く。
撫子のひびき更新さるる夏うるはしと言へなでしこジャパン
面接は六次面接まであると聞くとき出づるマトリョーシカは
熱のある人間ほどの気温にてへんな暑さをふらふら帰る
つくづくと衰ふる土地の神にして紅葉の渓に踊るゆるキャラ
疲れふかきゆゑに眠れずやうやくに眠りし夫の奥の海光
滅びそめし国の小旗を頬に描(か)く若者はもう滅べと言はず
父・夫(おつと)・息子それぞれ理由(わけ)ありてところ天食むわが辺にをらず



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 今月17日の記事、届いた2冊(6)で報せた内、綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2019年5月号を、短歌作品中心に読み了える。リンクより、関連過去記事へ遡れる。
特集 塚本邦雄が切り開いた十首
 僕は俵万智以降に短歌を始めたせいか、塚本邦雄の短歌をあまり好きではない。手元にはアンソロジー「塚本邦雄歌集」(思潮社、「現代詩文庫 短歌俳句篇」2007年・刊、1,200余首)があるのみ。別のアンソロジーを読み了えて、処分したように記憶する。
 技法の開発は、後世に影響を残したけれど、戦中派ゆえかの憎悪感が嫌だ。
蘇る短歌 坂井修一 第十四回 市民
 「私自身は、結社は<虚>の空間として存在すれば良いと思っている。」と書き、結社員の心構えを長く述べ、僕は同感する。
引用

 大井学「マスク」12首より。
声をかけて欲しいときにはマスクする部下ありてまた誘う焼肉
 サラリーマン上司の人情機微である。
 御供平佶「江尻の風」12首より。
昨日より考へながら出でて来ぬ駅名があり人の名もまた
 その場で花の名や人名が出て来ないのは、よくある題材だが、「昨日より」「駅名」が新しい。自虐のユーモアだろうか。

 リンク記事に書いた内、5MBを越える写真を2MB台までリサイズする方法を覚えた。また本阿弥書店へ送金して、「歌壇」6月号~11月号を予約した。


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