風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短歌

歌壇1月号
 綜合歌誌「歌壇」2019年1月号を、ほぼ読み了える。
 
到着は、今月17日の記事「届いた2冊(4)」にアップした。
 同・2018年12月号の感想は、先の11月28日の記事ににアップした。
概要
 2019年1月1日付け・刊。169ページ。定価:800円(税・送料・込み)。
 ある程度の部数は見込めるだろうけれども、出版業の困難さを思う。
 加藤孝男(以下、敬称・略)の「鉄幹と晶子」、古谷智子「片山廣子」論の連載は過ぎており、篠弘「戦争と歌人たち」は休載が続いた。
感想
 「新春巻頭作品」では、述思の歌が多く、まれに描写の歌があると、親しみが湧く。
 道浦母都子の「土佐堀川」16首には、全共闘世代も老いて、このような感慨を抱くかと関心が持たれた。
 「第7回 ぶつかりインタビュー 佐佐木頼綱 (聞き手 佐佐木定綱)」には、感慨があった。父の幸綱の世代を経て、その息子たちがこれからの歌壇の世代かも知れない。定綱は年齢の近い歌人にインタビューする時、深い話を引き出せるようだ。
引用
 1首のみ引用する。武下奈々子「きつねうどん」8首より。
死にたいと愚図る老い人連れ出してきつねうどんを食べさせにけり
 家庭で老人を世話する、誠実さの極限だと僕は思う。結句の「にけり」には引っ掛かるけれども。




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 結社歌誌「覇王樹」2018年12月号を、ほぼ読み了える。
 
到着は今月2日の記事で報せた。リンクより、過去号の記事へ遡り得る。
概要
 2018年12月1日付け・刊。
 代表・発行人、佐田毅氏。編集人、佐田公子氏。
感想
 36ページの中に、社員の元気が漲っている。通常の歌ページでは、会員・準同人が8首出詠・6首掲載、同人が6首出詠・6首掲載と、同人誌に近い掲載方法にも因るのだろう。
 巻頭の8首抄、爽什6首×10名、師走10首詠×4名、力詠15首×2名、入門の覇王樹集、紅玉集にはそれぞれ1名の特選など、名誉ある欄があり、励みになる。
 またホームページには、今月の選歌1首30名があり、ネットを観る者にはとても励みになる。ホームページは毎月の更新が迅速で、通常ページも覇王樹・史、歌集・紹介など充実している。
 代表・発行人の今号の巻頭言では、今年の全国大会日が台風24号と重なり、参加者は多くなかったようだ。
 来年の大阪での全国大会には、是非参加したい。再来年の100周年記念全国大会は、東京で催されるだろうが、参加したい。僕のひどい地理オンチと方向オンチ、腰の弱りを越えて。



 

 石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、歌集「風の中の声」後半を読み了える。
 
同(前)は、今月8日の記事にアップした。
概要
 おおまかな概要は、上のリンク記事で紹介したので、参照されたい。
 生前未刊のこの歌集は大冊なので、前後2回に分けてアップする。
 後半は、110ページ「冬木群」の節より、152ページ・巻末までを読んだ。
感想
 母親、弟妹を扶助する(仕送りをした?)身は、家庭を裕福にできなくて寂しむが、戸主としての威厳を崩さない。子を詠む歌は濃やかで、優しさに満ちている。
 60年安保(僕は田舎の10歳児だったので、よく知らない)当時らしい歌もあるが、引かない歌の下句に「いづれの側にもつきたくはなし」と詠むなど、関わろうとしなかった。従軍体験、労働争議体験、2つの大きな敗北を経た身は、政治闘争に関わりたくなかったのだろう。
 いっぽう、叙景歌は人為の加わった景色を詠んで、優れた姿を見せる。
 歌集を当時に出版しなかった理由に、財政の他、家庭のこと、会社での立場、政治の忌避など、1961年以降の社会に、憚る思いがあったかも知れない。
引用

 以下に7首を引く。
係累ゆゑ貧しき生活(たつき)に耐ふるべく我が強ひて来つ我の妻子に
雪の玉押しつつ雪を大きくし余念なき遊び幼子のする
国会の乱入起り事ののち立場持ち互ひに非を責むるのみ
神経の困憊に夜更け目覚めをりひしひしとわが生(せい)の寂しさ
秋の星を杉の秀の間にちりばめし中尊寺参道闇厚きかな
黄葉(もみぢ)して寂しく明かる木々の間に「憩ひ」はありと我が入りて来つ
河沿ひに並み立つ直き杉の幹日は照らしつつ船遠ざかる
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写真ACより、「乗り物」のイラスト1枚。







 石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、未刊歌集「風の中の声」前半(110ページ、「雪と幼子」の節まで)を読み了える。
 先の11月16日の記事、
同「蟬」を読むに次ぐ。
 なおこの全歌集は、1ページ10首(10行)組みであり、20首組みだった短歌新聞社「岡部文夫全歌集」よりも読みやすい。
概要
 歌集「風の中の声」は生前未刊の歌集であり、没後に原稿が発見された。実質的に第2歌集であり、題名も全歌集刊行会が仮に付した。
 1953年(33歳)~1961年(41歳)の706首を収める。短めなら2冊分の首数であり、前後2回に分けて紹介したい。
感想
 彼は1947年に労働争議に関わり、1949年に退職、転職した。1949年には結婚し、子供も生まれた。
 更に長男として、母、弟妹の生活を扶助し続けなければならなかった。1度ヤケドを負った、その様な庶民は、2度と政治的闘争に関わろうとしないだろう。
 重役に追従を言って暗澹となったり、多人数の馘首に関わったのは、生活のため、生き抜くために致し方なかったのか。
 人嫌いになったのか、叙景歌が多くなる。しかし人のいる叙景に優れていたようである。自然詠では「アララギ」系の写生にまだ及ばないようだ。
 短歌が救いであったと、書かれていないが、信じられる。
引用

 以下に7首を引く。
偶然が人を支配しゆくことを語れども納得を君に強ひはせぬ
野づかさの起伏を遠く自転車に見え隠れ来る人の小さし
妻と子と風呂より戻る声聞ゆ今宵三十五歳のわが誕生日
正義は常に労働者にありと想はねど四十人を失職せしめたり
食卓を中にして妻と対ひをり我が生涯のおほよそは見ゆ
背負ひ切れぬ荷重(かぢゆう)を更に積むごとし公私にありて限りもあらぬ
折紙の飛行機作り幼子と遊べば明日は団交が待つ
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写真ACより、「乗り物」のイラスト1枚。


岡野大嗣 サイレンと犀
 先の11月7日の記事「入手した4冊(2)」で紹介した内、岡野大嗣・歌集「サイレンと犀」kindle unlimited版を、ようやく読み了える。
 なお同記事の4番目、幸田玲「再会」は既に短編小説集「月曜日の夜に」にてか、読んだ事があったので評しない。
概要
 歌集「サイレンと犀」は、書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズ16。
 紙本版:2014年12月15日・初版。価格:1,836円。
 kindle版:2016年6月4日・刊。価格:800円。kindle unlimited版は追加金:無料。
 巻末に東直子・解説「命を見据えて現代を探る」、著者・あとがきを収める。
 岡野大嗣(おかの・だいじ)は、1980年・生。
感想
 上品な町、上品な家庭に、上品に育って、1昔前の言葉だが、草食系男子に入るだろう。恋人ができても、難関を越える前に、美しい過去が汚れる事を嫌って、別れてしまう。美しい棋譜を残しての、投了に喩えられる。優しい母親への愛憎が感じられる。
 仕事の管理の厳しさに因るのだろうか、やや歪んだ歌も散見される。
 僕が心配するまでもなく、彼は元気に生き抜いているだろう。
引用

 以下に7首を引く。
きれいな言葉を使ってきれいにしたような町できれいにぼくは育った
地下街は地下道になるいつしかにBGMが消えたあたりで
僕ひとり乗せた車で僕はいま僕の命を預かっている
社是唱和 白いセミナー室にいてわたしは生まれなおされている
ダウニーの匂いを嗅ぎすぎたときの頭痛に備えバファリンも買う
僕だけが楽しんでたらどうしよう渡したガムをすぐに嚙むきみ
運転に支障はなくて何年も放置している心の異音



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 今月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」の内、初めに紹介した綜合歌誌「歌壇」2018年12月号を、ほぼ読み了える。
 本阿弥書店、12月1日付け・刊。169ページ。
 この1冊は、歌集の1冊、歌論集の1冊より、量が多く、読みでがあると感じる。
巻頭20首
 いずれも内向的な詠みぶりと思われる。秋葉四郎「昼の闇」は、白内障手術を受けた妻と、身辺を詠む。
 久々湊盈子「いなごまろ」は、「反骨」を自称するけれど、世間の常識への反抗らしい。「戦禍」「戦争」「君側の奸」を詠むけれども、現政権トップへの批判ではない。
 大下一真「日常 旅 日常 旅」が、題名に似ず、旅にての外界との繋がりを感じさせる。渡英子「母音が七つ」では、二人の孫と海外詠と読書よりの知識をうたう。
特集 妊娠・出産をめぐる歌
 この特集の設定も、内向的だろうか。
 僕の一人子の誕生は、40年近く前なので、立ち会っていず、歌も始めていなかった。
 共感したのは、棚木恒寿「ガラガラポン」だった。夫は幸せな家庭を思い描いているのに、妻は産院で夜は不安に(四人部屋の皆が)泣いていた、という男女の受け止め方の大きな差である。
特別作品30首 田中拓也「とうけい」
 編集者も作者も、その意図のわからない作品群だけれども、右傾化の先走りか、と疑う。
引用

 森岡千賀子「けふの雲」12首より。
床上に横座りしてテレビ観る裸足を猫が齧つたりして
 平穏な生活のようで、外界の危機を思わせる。
 関場瞳「秋の日」7首より。
切株の猿の腰掛け蟇に似て急がずゆけと秋の日の中
 誰もが急ぐ世の中への、諌めの言葉だろう。



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 今月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」で紹介した内、結社歌誌「百日紅」2018年10月号を読む。
 月例作品のみを読み、題詠・作品評は読まなかった。
概要
 文章では読んでいないが、聞く所に由ると、おもに県内の歌人を会員とする、結社歌誌である。
 月刊。10月号は21ページ。1首の上下端を俳句のように、すべて揃えている表記は特異である。
 「作品(一)」、「作品(二)」に分かれているが、全員が5首掲載である。選歌があるのか、5首出詠・掲載なのか、判らない。
 窪田空穂(「槻の木」、「まひる野」など主宰)の系統を継承し、故・辻森秀英(県の歌人)が創刊、現在の代表はI・善郎さんである。創刊より70余年。
感想
 全員が5首掲載、特選なし、と掲載に競争がないせいか、のびのびと会員は詠んでいる。
 口語調の歌もあるが、旧かな表記の故か、跳びはねた作品は少ないようだ。
 地方歌誌にとどまらず、会員は全国歌誌に飛躍してほしい。
 綜合歌誌、歌集などを読み、学びも忘れずに。
 月刊を70年続けた情熱に打たれる。
引用

 I・善郎さんの「勝山大仏」5首より。
子ら連れて来しは何十年前か勝山大仏の山門くぐる
 大胆な句跨りがあって、現代短歌の学びが知られる。
 A・敏子さんの「大雨」5首より。
浅草のみやげにもらひし風鈴は友亡き今も軒に鳴りをり
 友への追悼の思いが鮮やかである。


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