風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

短歌

IMG_20180826_0001
 結社歌誌「覇王樹」2018年9月号を、作品中心に読み了える。
 
同誌の到着は、先の8月28日の記事にアップした。
 上のリンクから、8月号の感想、覇王樹社のホームページ、9月号の僕の歌へ至り得る。

 「覇王樹」の通常欄は、ランクの別なく1人6首掲載である。同人でない会員、準同人は、8首出詠して6首の選を受ける。
 他に1段組みのページとして、巻頭「八首抄」、「文月10首詠」(4名)、「力詠15首」(2名を予定の所、都合により1名)がある。
 散文の連載3本も、長く続いて、たのもしい。
 毎月ごとの題詠・脳トレ短歌は楽しい。

 「他誌拝見 七月号」は7誌を取り上げ、「受贈歌集歌書紹介」は4冊を取り上げ、懇切である。
 「歌会だより」では、同誌の各地の歌会が報告されている。
 僕の評論「啄木『一握の砂』の「道・路」」(2ページ)を、ネットで公開する策はないものか。

 「東聲集」のS・叡子さん「梅雨に入りて」6首より、1首を引用する。
権力の座にうそぶける男ゐて香り無くせる白百合かさぬる
 反権力を訴え続けている文壇は、歌壇のみのようにさえ思われる。




このエントリーをはてなブックマークに追加

ユキノ進 冒険社たち
 ユキノ進・歌集「冒険者たち」kindle unlimited版を読み了える。
 今月10日の記事、
「入手した4冊」で報せた4冊の内、上から読み継いで3冊目である。
概要
 出版社、各版の発行年次・価格は上のリンクに書いたので、ご覧ください。337首、東直子・解説「命を俯瞰する」 、著者あとがきを収める。
 ユキノ進は1967年・生。広告会社に勤めるようだ。
感想
 事実としては厳しい職場が、透明繭越しにリアルに描かれる。
 ゴルフ、宴会、カラオケで上司にヨイショする自分を自虐的に描く。また派遣切りも詠まれる。
 新潟県への単身赴任となる。帰宅より出掛ける時、3人が見送る歌がある。姉弟は、娘・息子の事だった。女性の歌もあるが、曖昧な詠み方だったので、恋人の事かと思っていた。
 5年の単身赴任が過ぎ、本社に戻り、やがて課長になる。人事評価の疚しさに悩みもする。
 あとがきで彼は、「僕の第一歌集で、もしかしたら最後の歌集かもしれない。」と書く。サラリーマンの出世コースに乗るベクトルと、歌人として続けるベクトルとは、異なるのかも知れない。医師と教師を例外として。
 彼は今も短歌で活躍しているだろうか。
引用

 この歌集より多くをメモしたが、例に倣って7首を引く。
往来で携帯越しに詫びているおれを誰かがビルから見ている
男より働きます、と新人の池田が髪をうしろに結ぶ
贄として子羊の位置に座らされ送別会で酒を注がれる
次はいつ帰ってくるのと聞く姉と黙って袖を握るおとうと
早回しのフィルムのように乾杯を繰り返しながら近づく別れ
三度目に呼ばれ自分の名と気づく心療内科のロビーで人は
船乗りになりたかったな。コピー機が灯台のようにひかりを送る




このエントリーをはてなブックマークに追加

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、歌集「雪天」(後)を紹介する。
 
同・(前)は、今月21日の記事にアップした。
概要
 1,070首の大冊なので、前後、2回に分けて紹介する。
 今回(後)は、668ページの「晩秋」の章より、しまい700ページまでである。
 失語症に陥った直後に刊行されたが、このあと生前の作品は載っていない。初期・未刊歌集「氷見」と、6冊の合同歌集よりの抄出が残るのみである。自宅療養の約4年間、歌を詠むまでに回復しなかったのではないか。
感想
 しまいの歌集となる事を予感したように、1年半くらいの間に、1,070首が溢れるように詠まれた。
 景に心遊ばせて詠んだ歌もある。営々と詠み継いで、技芸の名人が、今、心遊ばせるかのようだ。
 同じ事物を詠んでも、類型歌はなく、様々な面から詠んでいる。
 また福井県坂井郡(現・坂井市)春江町についの住処を定めながら、郷土・能登への郷愁は尽きなかったようであり、所々に現れる。
引用

 以下に7首を引く。
ゆくりなく吾は来りて水にある雲の白きにこころは遊ぶ
(な)るまでに十三年の柚といふ植ゑて待つともつひに見ざらむ
をやみなきこの雪の夜の雷にして響り震ひつつさびしきものを
雪の日のゆふべを待ちて鮭の氷頭(ひづ)煮つつ食はむと思ふたのしも
南瓜を食ひ柚湯を浴みて雪ぐにの古き仕来(しきたり)に今日を順ふ
月明かきこの夜(よは)にして雪の上(へ)を流らふ雪の音のかすけさ
雪の上に泉の上におのづから落ちて鮮らし椿の紅は

0-16
写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。



 
このエントリーをはてなブックマークに追加

IMG_20180817_0001
 Amazonより予約購入した、綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2018年9月号を、作品中心に読み了える。
 本の到着は、今月18日の記事「(同)が届く」にアップした。リンクより、8月号の感想へ遡り得る。
 特集「短歌の物語性」の総論、大井学(以下、1部を除き、敬称略)「内包と外延」では、歌に関わる情報の必要性(歌を読む際の)が書かれるが、世俗的な過度の情報は、歌の読み取りの妨げになる、と言いたげである。
 佐田公子さん(僕が所属する結社歌誌「覇王樹」の編集人)の「歌物語・歌語りの世界」を読むと、「歌徳説話」を読みたくなる。歌の始めに救われた思いを持ち、救われて来たと感じるからである。
 作品群では、日常生活を詠んだ、底意の無さそうな歌が、危ないと思う。無党派層みたいなもので、どちらへも流れ得る。
 巻頭30首の、今野寿美「涙を洗ふ」より、1首を引用する。
騙されるわけにはゆかない騙されるはうが悪いと言はれかねない
 前後の歌より、反権力の1首である。ここまで書いてしまえば、後へ引けないだろう。
 インタビュー「水原紫苑 聞き手=佐佐木定綱」や講演録「ザ・巨匠の添削「北原白秋」高野公彦」を読むと、彼等が歌に就いてどう考えているか、多くの事がわかる。
 商業出版社を通さない歌の伝播が、もっと多くなってほしい。



このエントリーをはてなブックマークに追加

獅子座同盟 6
 今月16日、千原こはぎ・歌集「ちるとしふと」kindle unlimited版を紹介した所、連携ツイートに当人よりリツイートを頂いた。辿った所、フォロワーとツイートの数が抜群に多いので、僕のフォローは遠慮した。
 ただし彼女のブログ
「こはぎうた」は、僕のお気に入りに入れた。
短歌集の入手まで
 ちょうど短歌集「獅子座同盟 6」のネットプリントを配信していて、ブログにはコンビニでの手順が詳しく書かれてある。ただしそれは費用と手間も掛かるので、僕は「web閲覧版・PDFダウンロード(印刷用)はこちらから」の指すアドレスから、PDF版をダウンロードしプリントした。web閲覧では、少し読みにくい気がしたからである。
 A4判1ページに2面が印刷できるようだったが、僕は1ページ1面しかプリントできなかった。短歌や小文が読みやすくて良い。
 なお表紙写真は、ブログサイトよりお借りした。
概要
 7月23日~8月22日の獅子座生まれの、25名の歌人が7首ずつを寄せ、175首の短歌集である。
 表紙、内表紙、裏表紙を含めて、表裏印刷14枚。紙とインクは惜しくないが、印刷時間が少し惜しかった。
 カラーにすると、費用がぐんと上がるかも知れないが、好感度もぐんと上がるのだが。
感想
 商業ベースに乗らない、ネット時代のこのような作品の発表は、大歓迎である。認知度がやや低いだけで、それが上がれば、文学フリマのように爆発的に広まりそうな気がする。
 テーマを「星・宇宙・星座・獅子」に設定した事、若い歌人の多いことから、ロマンある恋歌が多いようだ。
 千原こはぎさんの「星曇り」7首が、デザイナーであり様々なプロデュースをしている人らしく、ネット時代の男女を描いて新しい。
 多賀盛剛さんの「星をみるひと」7首が、自称・丘ラッパーらしく、素直で機微を捉えて、声調も良い。


多賀盛剛さんがツイートをくださいました。

千原こはぎさんが、ツイートをくださいました。
このエントリーをはてなブックマークに追加

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、歌集「雪天」(前)を紹介する。
 今月9日の記事、
同・「能登」に次ぐ。
概要
 原著は、1986年、短歌新聞社・刊。1070首、妻・岡部ミツのあとがきをおさめる。
 大冊なので(この全歌集で634ページ~700ページ、1ページ20行)、前後に分けて紹介し、今回は668ページの「鷺」の章までをアップする。
 1986年5月、岡部文夫は失語症に陥り入院、7月退院(自宅療養)、10月・歌集刊行した。78歳。
 翌年の「迢空賞」(歌壇最高の賞と思われる)を受賞。生前最後の歌集となった。
感想
 夫人のあとがきに拠ると、常と違って、推敲を重ねずに歌集刊行を依頼し、かえってそれが良かったのか、自ずと歌が満ちたのか、力感のある歌が多くを占める。
 前者の場合だとすると、推敲に推敲を重ねる歌人だったらしいが、修辞に自信があって、まとまり過ぎていたのかも知れない。
 「この幾日灼けつつ熱き炎天の沙のうへには蟻さへも見ず」のような、自然と自己の融合した秀歌が見られる。
 積雪の怖れ、通行人の少ない冬、老いの姿は、僕も実感を同じくする。また自然を美しく詠む。
引用

 以下に7首を引く。
夜昼となしに降りつむ屋根の雪ただに怖るる老いたる今を
冬の日の暮るるより通る人もなきこの雪ぐにの夜のひそけさ
降りやまぬ雪のゆふべの早きより鮟鱇を煮る妻とふたりに
北ぐにの春も近きか雪代の水を刷(は)きつつ風はかがよふ
一冬をすぎしばかりにかくまでに吾が老の足衰ふものか
半夏生に焼鯖を食ひて豊作を祈る慣ひも今に貧しき
海の上に降りつつ荒き夜の雨のときのまにして遠く移ろふ
0-20
写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。




このエントリーをはてなブックマークに追加

千原こはぎ ちるとしふと
 今月10日の記事、「入手した4冊」で紹介した内、2番目の千原こはぎ・歌集「ちるとしふと」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
概要
 ダウンロード時期、各版の出版時期・価格は、そのリンクで述べたのでご参照ください。
 千原こはぎ(ちはら・こはぎ、以下・敬称略)は、イラストレーター、デザイナー。
 「ちるとしふと」はカメラの交換レンズの1種で、実際の街の写真をまるでミニチュアのおもちゃのような写真に変身させる、と著者「あとがき」で明らかにする。
感想
 1つの別れに至る(男の身勝手―不毛の性を経て)男女関係と、新しく1つのおずおずと始まりお互いに好ましく想う恋が、ストーリー的には描かれる(仕事の厳しさを描くリアルな歌は別として)。
 繊細な恋が描かれる。しかし「現実じゃないところの感情を掬い取りたくて」と述べるように、フィクションを多分に含んでいるだろう。現実では、線の太い健康的な恋をしているかも知れない。
 平安朝の女流文学以来の、立場の弱い女性の思いを、受け継いでいるのだろうか。
引用

 ハイライト、メモの機能がないので、15首をノートに写したが、例に倣って7首を引く。
桃を抱く手つきで崩されてしまう かんたんだから好きなんですか
息白く見知らぬ駅で待っている わたしだいじにされてなかった
この夜をずっと覚えてますように一番きれいな声で、さよなら
「あいたい」の代わりに今日も「おやすみ」をちいさく夜に貼りつけておく
泣きながらたこ焼きを焼くきみからの言葉をひとつひとつ丸めて
所有され所有している厳かに素足にキスをされてしまえば
おしまいはいつも「じゃあね」と言うきみに「またね」と返す祈りのように




このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ