風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短歌

 Amazonよりダウンロードしたkindle本・歌集、岸原さや「声、あるいは音のような(百首選)」を読み了える。
 購入、ダウンロードは、今月13日の
同題の記事にアップした。
 元本は、書肆侃侃房・刊の新鋭短歌シリーズの、1冊である。
 電子書籍は紙本よりも読みやすい面があり、抵抗はなかった。タブレットの横長画面に縦書きなので、1ページで多くの量を読める。
 著者略歴には、出身地、卒業大学・学部と、「二〇〇六年、短歌をつくりはじめる。」「二〇〇七年、未来短歌会に入会、加藤治郎に師事。」とあるだけである。
 著者自選の100首であり、自信作ばかりだろう。
 とくに理解できない歌、という作品はなかった。母親が自死したようで、それでも地元を離れた東京都で生活してゆけるのは、短歌の恩恵が大きい、と僕は思う。
 以下に、4首を引く。
浅瀬から浅瀬へ渡る風の舟、うつむいて水、あおむいて空
  (「故郷の母のこころ病みゆく」のあと)
胸にいつか兆していた雲「飛び降りた!」父の電話のうわずった声
  (注:震災詠のようだ)
テレビ避け新聞を避けくちかずのすくないひととすわっていたい
ほんとうは苦しかったと言えばいい野菜室には乾いた葱が
クロッカス3
Pixabayより、クロッカスの1枚。



 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年再版)より、第9歌集「海にたつ虹」を読み了える。
 第8歌集
「火の系譜」は、先の2月28日の記事にアップした。
 原著は、1962年、白玉書房・刊。井上靖の推薦文(帯文か)、佐藤春夫の序文(3歌集目)、後記「おわりに」を併収する。
 「火の系譜」のあとがきで、「生命の不安にゆすぶられながら」とあるように、健康への不安があったようだ。
 「海にたつ虹」のあとがき「おわりに」には、「「火の系譜」のはげしさから抜け出ようとして、「海にたつ虹」の苦悶は、少なからず私に混迷を強いた。」、また「新しい「きざし」をもつべき転機が私の作歌の上にもきているかも知れぬ…」と述べられる。彼女は脱皮を繰り返して、新しい歌境を拓いたのかも知れない。
 以下に7首を引く。
血塊のごと墜ちやまぬ無尽数の椿おそれし夢も重たし
剪毛のをはれば痩せし緬羊らいたく強情に雨の草喰ふ
火を盗むかなしみのこと読み終へてきしきしと捲く小さき竜頭
鉱鋅(のろ)あかき空地さらして月あれば嘘などはなき明日が来るべし
口紅に似たる蕾の花買へり冬脱ぎてゆくやさしき一日
埋立ててはやも荳科の蔓匍へりかかる自生も妬みにかよふ
風鐸に似てかなしみが鳴るわれかなだめられゐて明きゆふぐれ
椿6
Pixabayより、椿の1枚。





 昨日の記事、結社歌誌「コスモス」2017年3月号<風鳥派>に続き、作品欄の「COSMOS集」を読了する。
 「COSMOS集」は、入門の「その二集」とそれに次ぐ「あすなろ集」の、特選欄である。
 各5首(まれに6首)が、選者による題名を付けて、掲載される。
 歌歴の若い人には、可能性としては、将来がある。昇級の夢、歌壇で活躍する夢も、可能性としてはある。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。T・千尋*(新仮名遣いのマーク)さんの「すうはあすう」5首より。
すうはあすうアスファルト上の修行者の息が聞こえるマラソン大会
 字余りの多い1首(苦しさに繋がるようだ)だけれども、マラソン走者の荒い息遣いを言葉化した事と、「アスファルト上の修行者」と捉えた事が、新しい表現である。体言止めで、まさに1首を止めている。
椿2
Pixabayより、椿の1枚。



 結社歌誌「コスモス」2017年3月号より、「その一集」特選欄を読みおえる。
 先行する
同「月集シリウス」読了は、先の2月27日の記事にアップした。
 「その一集」会員は多く、昨年12月18日の記事で、約750名と算出している。総会員・約1900名の4割をしめる。
 「「コスモス」会員の吹き溜まり」などと揶揄せず、新会員増と共に、方策はなかったのか。
 「その一集」特選を2年間で8回以上受けるか、結社内外の短歌賞を受ければ、次の「月集シリウス」へ進める。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。Y・佐保さんの「細き引力」5首より。
はちみつを瓶に入れ替へするときに地球の細き引力の見ゆ
 再発見の歌であり、「細き引力」の表現が超絶的である。
梅9
Pixabayより、梅の1枚。


 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年再版)より、第8歌集「火の系譜」を読みおえる。
 先の第7歌集
「白い風の中で」は、今月21日の記事にアップした。
 原著は、1960年、白玉書房・刊。
 井上靖の帯文、佐藤春夫の序文、小杉放庵の絵、後記「をはりに」を併載する。
 1967年、1975年と、井上靖ら文学者が発起人となり、「生方たつゑを励ます会」が持たれており、歌壇以外の文学者にも見守られていたのだろう。
 集末に、2章にわたる連作「火の系譜」を置き、能に取材した女性の執念を描く。
 暗喩に由る心理描写に長けるが、「炭化せる樹骸がくさにかげすればうつむく吾は愛もつごとし」という、失敗と思われる作品もある。
 彼女はアララギ系から出発して、戦後短歌運動、文学の趨勢、社会の推移の中に、新しい短歌を建てた。
 以下に7首を引く。
炎塵のにほひかわける日ぐれにてかの忘失のごとき鳥とぶ
わがうちに罅(ひび)渇きゐる干潟ありなにを育(はぐく)みてきしこともなく
亡命のごとひとりなり樹骸枝(じゆがいし)の手がたに垂れし火山帯lきて
霜つちの毳(けば)だつ日かげふみゆきて冬のひびきよするどき君ら
離別歌の註かき終へて女なるこの偶然に傷つきてゐる
明日に賭けてゆかむ構図か溶接の炎(ひ)にちかづきし顔硬きなり
あはれまれたくなき愛とおもひつめゆけば拮抗の硬き夜なり
(泥眼(葵上))
梅8
Pixabayより、梅の1枚。




 結社歌誌「コスモス」2017年3月号より、「月集シリウス」欄を読みおえる。
 今月24日の記事で紹介した、
同「月集スバル」読了に次ぐ。
 「月集シリウス」には、「特別作品」欄があり、12名の各5首が載る。この欄は、他の作品欄が1ページ2段なのに対し、1ページ1段という、特別の待遇を受けている。通常欄は、4首or5首掲載で、割合は半々くらいである(精確な選歌率を、僕は知らない)。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。K・静子さんの5首より。
十分に生きて曾孫もさづかるを平均寿命にいまだ及ばず
 彼女は「コスモス」の女性歌人3代の頭なので、曾孫さん誕生の経緯は、僕も少し知っている。
 女性として、曾孫を授かり、健康であれば、順調な生と呼ぶべきだろう。平均余命は更に先だから、長生きされたい。
 僕の母も曾孫(僕の孫ではない)を授かり、とても可愛がっていたが、病に倒れて亡くなった。
梅7
Pixabayより、白梅の1枚。


 結社歌誌「コスモス」2017年3月号より、作品欄巻頭の「月集スバル」を読みおえる。
 
歌誌の到着は、今月18日の記事にアップした。
 いつもは「月集スバル」と「月集シリウス」を合わせて、「月集」として紹介するが、今回は「月集シリウス」をまだ読みおえていない。
 「月集スバル」は、選者及び選者経験者が各5首ずつ、無選歌で載る。自分を律している事だろう。
 特選めいて4名の作品が、「今月の四人」として載る。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。桑原正紀さん(歌壇で活躍しているので、フルネームを出す)の5首より。
トランプは本音を言ふからよしといふ本音は怖し本音は酷し
 人間は、自己抑制し、他に配慮する事が、人間らしさである、という思想家がいた。トランプ大統領も、内心、将来を怖れているかも知れない。大衆心理を煽っているだけで。
梅5
Pixabayより、紅梅の1枚。


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