風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短歌

 結社歌誌「コスモス」2017年3月号より、作品欄巻頭の「月集スバル」を読みおえる。
 
歌誌の到着は、今月18日の記事にアップした。
 いつもは「月集スバル」と「月集シリウス」を合わせて、「月集」として紹介するが、今回は「月集シリウス」をまだ読みおえていない。
 「月集スバル」は、選者及び選者経験者が各5首ずつ、無選歌で載る。自分を律している事だろう。
 特選めいて4名の作品が、「今月の四人」として載る。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。桑原正紀さん(歌壇で活躍しているので、フルネームを出す)の5首より。
トランプは本音を言ふからよしといふ本音は怖し本音は酷し
 人間は、自己抑制し、他に配慮する事が、人間らしさである、という思想家がいた。トランプ大統領も、内心、将来を怖れているかも知れない。大衆心理を煽っているだけで。
梅5
Pixabayより、紅梅の1枚。


 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、第7歌集「白い風の中で」を読みおえる。
 先の第6歌集
「青粧」は、今月14日の記事にアップした。
 原著は、1957年、白玉書房・刊。佐藤春夫の序文、後記「をはりに」を併載する。
 年譜の1955年の項目に、「佐藤春夫氏に詩の導きを受ける。」とある。ただし佐藤春夫の詩は、古典文法の定型詩、新体詩の発展したものであり、歌集「白い風の中で」の抽象語、暗喩、心理の捉え方は、佐藤春夫の詩を越えている。
 あるいは日本の戦後詩、翻訳詩に学んだと思われる。
 歌集の初めにも、「謀られて」「革命」「絶対に」など、出自のアララギの写生を、大きく離れている。ここからどこまで発展するか、歌集を怖れながらも(危惧を持ち)楽しみである。
 旧家とはいえ、敗戦後は家計に苦しんだらしく、「不動産つぎつぎに売りて充足の日はいつに来むさびしき吾ら」等の歌も散見される。
 以下に7首を引く。
(はか)られてゐるわたくしを意識して交はりゆけば夜の埃あり
雨の夜に毛を濡らしきて舐め飽きぬけだもの臭のたつかたへなり
(むち)に似てさむさのせまる暁よ老いづかむ日もここに住みつきて
信仰を方便にして安泰にある世界かといできて思ふ(石影 竜安寺)
合歓の葉の素なほにねむるまでをりて責められしこと反芻しゐる
気短かくなりて不足の金を言ふ衰へて冬のごときこゑなり
草枯れの中に落ちゐし蹄鉄よ既知につながる鮮しさなり
梅1
Pixabayより、梅の1枚。




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 綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2017年3月号を、短歌作品を中心に読みおえる。
 
本の到着は、今月16日付け記事にアップした。
 特集の「短歌の中に残したいことば」は、あまり読まなかった。言い訳をするなら、古い言葉を残す事より、新しい言葉を取り入れる事に関心がある。ネット世界や、ポピュリズムの行方など、新しい言葉の世界は、身近にある。
 付箋を貼ったのは、島田修三(以下、文中敬称・略)の「餡ころ餅」30首より、次の1首。
痴れゆくを天皇は懼れ宰相はもとより痴れて冬深まりぬ
 これだけはっきり、物を言えたら、胸がすくだろう。
 歌壇賞受賞第1作30首では、大平千賀「影を映して」に将来性を感じるけれど、佐佐木頼綱「狩人の歌」には危険性を感じる。
 狩野一男「懸念の島」は、率直な12首である。
 藤野早苗の「あなた 河野裕子歌集」評、「家族の物語(サーガ)」は、歌人家族の中から生まれた選歌集を、全体的にとらえようとする。全歌集の発行は、日本の経済状態では無理なのか、待たれるのだが。
 高野公彦インタビュー(聞き手・栗木京子)「ぼくの細道うたの道」が、第10回となる。モノクロながら写真も添えられ、興味深い、貴重な談話である。


 

 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1979年・初版、1987年・再版)より、第6歌集「青粧」を読みおえる。
 第5歌集
「雪の音譜」は、今月4日の記事にアップした。
 「青粧」は、1955年、白玉書房・刊。
 亀井勝一郎の序文、あとがき「をはりに」を併せ収める。
 自己の内面を見つめる歌が多くなり、次歌集「白い風の中で」以降の飛翔へ至る、助走とも受け取れる。
 以下に7首を引く。
饐えくさくなりし豆腐を捨てし日も魂ひとつわれは守りぬ
いくたびか波瀾のなかにただよひて澄みゆくべしとひとりつぶやく
心みちし今を支へよ氷(ひ)の下に幅ひろく湧く泉(みづ)を信じて
孵りたる雛がみじろぐけはひして鳩が巣ごもる樫の葉の中
ぼろめきて貼りつく桐の葉を掃きて吾の未来も霜もしづまる
黍稈(きびがら)もしろくさらされ尽したりいつはらざりしものらも終る
罪障の未来にこころ閉づる日よ卵子が鍋に罅(ひび)われて煮ゆ
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写真ACより、バレンタインデーのイラスト。




歌壇
 綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)の、2017年2月号を、短歌中心にほぼ読みおえる。
 同誌の到着は、先の1月16日の記事にアップした。
 第28回歌壇賞は、大平千賀(以下、文中・敬称略)「利き手に触れる」、佐佐木頼綱「風に膨らむ地図」、2編に決まった。
 歌の前線は、このようなものかと思った。新しい人の感情は、新しい言葉で詠まれれば良い。
 候補作品は、初めの2編は読んだけれども、あとは痛々しくて読めなかった。選考座談会の記録も、僕の歌作の参考にはならないようで、殆んど読まなかった。
 連載「短歌の周囲(うたのぐるり)」11回「な・り・た・い」で、藤島秀憲が大西淳子・歌集「さみしい檸檬」他を取り上げて、実感する所を述べている。
 高野公彦インタビュー(聞き手・栗木京子)「ぼくの細道うたの道」第9回は、歌集「甘露」「天平の水煙」と共に、様々な旅・他を語っている。


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 高野公彦氏の最新歌集「無縫の海」を読みおえる。
 本の到着は、2月2日の記事、
「届いた2冊」にアップした。
 高野氏は、僕の所属する歌誌「コスモス」の編集長であり、以前に所属した季刊同人歌誌「棧橋」の編集長でもあって、お世話になり、また歌集を読むのはお会いした事のある歌人との対話であり、歌壇のトップを占める歌人の一人としてではなく、呼び捨てにせず、「氏」の字を付けて表わす。
 また先述の記事で、複雑な事情があると書いたのは、以下の通りである。2016年5月にこの歌集が発行され、しばらくしてAmazonで求めようとした所、売り切れとなっており、古書はプレミアムが付いていた。氏の所へお願いするのも憚られ、困っていた。
 先日、発行元のふらんす堂にあるかと思い、ホームページで調べると、在庫があったので、諸登録をして注文した。念のためAmazonで調べると、定価で出ていた。ふらんす堂の注文確認メールの返信に、丁寧に詫びて、注文をキャンセルした所、おおように応じてくれた。Amazonに注文して、翌日に届いた。
 2015年の元旦から大晦日まで、ふらんす堂のホームページに、毎日1首ずつ、前書(歌に関わりある事も、ない事も)を付して、発表された。本は歌集としては小型で、1ページ1日分、前書と1首を収める。
 「火の棒が胃に降りてゆく余市産シングルモルト「竹鶴」飲めば」等のお酒の歌、「わが裡に竜骨ありて寝返りをすれば軋めりをみな恋ひしく」等のエロスの歌を含め、芳純な世界がある。
 例に従い、以下に7首を引く。


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 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1979年初版、1987年再版)より、第5歌集「雪の音譜」を読みおえる。
 第4歌集
「浅紅」は、先の1月23日の記事にアップした。
 「雪の音譜」は、1953年、第二書房・刊。1950年~1952年春までの、作品を収める。
 題の命名は、「国民文学」の松村英一。
 夫の渡米、夫の公務員としての東京の公邸と群馬県の自宅との往復生活、歌に詠まれた娘の一時的離反など、苦悩の多い時期だった。
 ただしここまででは、政治的前衛ではなく、芸術的前衛という程もなく、冷静に身を処して詠い続けている。

 以下に7首を引く。



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