風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

短歌

 石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、未刊歌集「風の中の声」前半(110ページ、「雪と幼子」の節まで)を読み了える。
 先の11月16日の記事、
同「蟬」を読むに次ぐ。
 なおこの全歌集は、1ページ10首(10行)組みであり、20首組みだった短歌新聞社「岡部文夫全歌集」よりも読みやすい。
概要
 歌集「風の中の声」は生前未刊の歌集であり、没後に原稿が発見された。実質的に第2歌集であり、題名も全歌集刊行会が仮に付した。
 1953年(33歳)~1961年(41歳)の706首を収める。短めなら2冊分の首数であり、前後2回に分けて紹介したい。
感想
 彼は1947年に労働争議に関わり、1949年に退職、転職した。1949年には結婚し、子供も生まれた。
 更に長男として、母、弟妹の生活を扶助し続けなければならなかった。1度ヤケドを負った、その様な庶民は、2度と政治的闘争に関わろうとしないだろう。
 重役に追従を言って暗澹となったり、多人数の馘首に関わったのは、生活のため、生き抜くために致し方なかったのか。
 人嫌いになったのか、叙景歌が多くなる。しかし人のいる叙景に優れていたようである。自然詠では「アララギ」系の写生にまだ及ばないようだ。
 短歌が救いであったと、書かれていないが、信じられる。
引用

 以下に7首を引く。
偶然が人を支配しゆくことを語れども納得を君に強ひはせぬ
野づかさの起伏を遠く自転車に見え隠れ来る人の小さし
妻と子と風呂より戻る声聞ゆ今宵三十五歳のわが誕生日
正義は常に労働者にありと想はねど四十人を失職せしめたり
食卓を中にして妻と対ひをり我が生涯のおほよそは見ゆ
背負ひ切れぬ荷重(かぢゆう)を更に積むごとし公私にありて限りもあらぬ
折紙の飛行機作り幼子と遊べば明日は団交が待つ
0-20
写真ACより、「乗り物」のイラスト1枚。


岡野大嗣 サイレンと犀
 先の11月7日の記事「入手した4冊(2)」で紹介した内、岡野大嗣・歌集「サイレンと犀」kindle unlimited版を、ようやく読み了える。
 なお同記事の4番目、幸田玲「再会」は既に短編小説集「月曜日の夜に」にてか、読んだ事があったので評しない。
概要
 歌集「サイレンと犀」は、書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズ16。
 紙本版:2014年12月15日・初版。価格:1,836円。
 kindle版:2016年6月4日・刊。価格:800円。kindle unlimited版は追加金:無料。
 巻末に東直子・解説「命を見据えて現代を探る」、著者・あとがきを収める。
 岡野大嗣(おかの・だいじ)は、1980年・生。
感想
 上品な町、上品な家庭に、上品に育って、1昔前の言葉だが、草食系男子に入るだろう。恋人ができても、難関を越える前に、美しい過去が汚れる事を嫌って、別れてしまう。美しい棋譜を残しての、投了に喩えられる。優しい母親への愛憎が感じられる。
 仕事の管理の厳しさに因るのだろうか、やや歪んだ歌も散見される。
 僕が心配するまでもなく、彼は元気に生き抜いているだろう。
引用

 以下に7首を引く。
きれいな言葉を使ってきれいにしたような町できれいにぼくは育った
地下街は地下道になるいつしかにBGMが消えたあたりで
僕ひとり乗せた車で僕はいま僕の命を預かっている
社是唱和 白いセミナー室にいてわたしは生まれなおされている
ダウニーの匂いを嗅ぎすぎたときの頭痛に備えバファリンも買う
僕だけが楽しんでたらどうしよう渡したガムをすぐに嚙むきみ
運転に支障はなくて何年も放置している心の異音



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 今月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」の内、初めに紹介した綜合歌誌「歌壇」2018年12月号を、ほぼ読み了える。
 本阿弥書店、12月1日付け・刊。169ページ。
 この1冊は、歌集の1冊、歌論集の1冊より、量が多く、読みでがあると感じる。
巻頭20首
 いずれも内向的な詠みぶりと思われる。秋葉四郎「昼の闇」は、白内障手術を受けた妻と、身辺を詠む。
 久々湊盈子「いなごまろ」は、「反骨」を自称するけれど、世間の常識への反抗らしい。「戦禍」「戦争」「君側の奸」を詠むけれども、現政権トップへの批判ではない。
 大下一真「日常 旅 日常 旅」が、題名に似ず、旅にての外界との繋がりを感じさせる。渡英子「母音が七つ」では、二人の孫と海外詠と読書よりの知識をうたう。
特集 妊娠・出産をめぐる歌
 この特集の設定も、内向的だろうか。
 僕の一人子の誕生は、40年近く前なので、立ち会っていず、歌も始めていなかった。
 共感したのは、棚木恒寿「ガラガラポン」だった。夫は幸せな家庭を思い描いているのに、妻は産院で夜は不安に(四人部屋の皆が)泣いていた、という男女の受け止め方の大きな差である。
特別作品30首 田中拓也「とうけい」
 編集者も作者も、その意図のわからない作品群だけれども、右傾化の先走りか、と疑う。
引用

 森岡千賀子「けふの雲」12首より。
床上に横座りしてテレビ観る裸足を猫が齧つたりして
 平穏な生活のようで、外界の危機を思わせる。
 関場瞳「秋の日」7首より。
切株の猿の腰掛け蟇に似て急がずゆけと秋の日の中
 誰もが急ぐ世の中への、諌めの言葉だろう。



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 今月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」で紹介した内、結社歌誌「百日紅」2018年10月号を読む。
 月例作品のみを読み、題詠・作品評は読まなかった。
概要
 文章では読んでいないが、聞く所に由ると、おもに県内の歌人を会員とする、結社歌誌である。
 月刊。10月号は21ページ。1首の上下端を俳句のように、すべて揃えている表記は特異である。
 「作品(一)」、「作品(二)」に分かれているが、全員が5首掲載である。選歌があるのか、5首出詠・掲載なのか、判らない。
 窪田空穂(「槻の木」、「まひる野」など主宰)の系統を継承し、故・辻森秀英(県の歌人)が創刊、現在の代表はI・善郎さんである。創刊より70余年。
感想
 全員が5首掲載、特選なし、と掲載に競争がないせいか、のびのびと会員は詠んでいる。
 口語調の歌もあるが、旧かな表記の故か、跳びはねた作品は少ないようだ。
 地方歌誌にとどまらず、会員は全国歌誌に飛躍してほしい。
 綜合歌誌、歌集などを読み、学びも忘れずに。
 月刊を70年続けた情熱に打たれる。
引用

 I・善郎さんの「勝山大仏」5首より。
子ら連れて来しは何十年前か勝山大仏の山門くぐる
 大胆な句跨りがあって、現代短歌の学びが知られる。
 A・敏子さんの「大雨」5首より。
浅草のみやげにもらひし風鈴は友亡き今も軒に鳴りをり
 友への追悼の思いが鮮やかである。


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 昨日の記事「僕の未読全歌集」に挙げた内、最後の「葛原繁全歌集」(1994年、石川書房・刊)より、初めの歌集「蟬」を読み了える。
 葛原妙子や山崎放代を語るのは、まだ早いようだ。
概要
 1955年、白玉書房・刊。484首を収める。
 1945年夏(26歳)~1952年秋(33歳)までの作品。軍隊より復員して、電器設計に携わりつつ、宮柊二を中心とするガリ版誌・勉強会「一叢会」で研鑚する。
 27歳の時、父が死去、弟は病み、一家の責任を負う立場となる。
 労働争議に加わり、退職させられ、事務職となる。
感想
 戦後の窮乏の中で、その暗さを見せない。時代は新しく、彼も若かった故か。
 夫人・田鶴との馴れ初め、結婚が詠まれる。労働争議とその敗北も詠まれる(「崩壊の日々」の章)。
 しかし「後記」で著者は「僕は生きてゆく事の激しさ美しさを信じ疑ふ事を知らなかつた。」と述べる。戦後青春の典型だろう。
 葛原繁は結社誌「コスモス」の先達である。僕は24年間、「コスモス」に在籍したけれども、入会した1993年は、亡くなられた直後だったらしい。僕が読んだ話では、宮柊二・没後の「コスモス」を分裂させずにまとめた、力量を評価されていた。
引用

 以下に7首を引く。
大学は戦に黒く塗られきと我ら添ひゆくその黒き壁に
ちちのみを葬りまつると御棺(みひつぎ)に焔移さむ火を持たされぬ
かいかがみ寒さ堪へつつ設計を為して越えむか一、二、三月
嫁ぐ日の前の日までも蒲団縫ひ荷物ささやかに整へあげつ(妹嫁ぐ)
四階に事務をとるとき窓に見ゆ水の面(も)暗く澱める運河
カットの類襖の継ぎに妻は貼れど犬あり兎あり悲哀も住めり
始めての対面をせり小さき顔力(りき)みて泣く児(こ)秤の上に




國森春野 いちまいの羊歯

 國森晴野・歌集「いちまいの羊歯」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 ダウンロードは、今月7日の記事
「入手した4冊(2)」の、2番目に報せた。
概要
 國森晴野(くにもり・はれの)(以下、敬称・略)は、東北大学大学院を修了し、ある科学研究部門に勤めている。
 歌集は、書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」の1冊である。
 単行本:2017年3月12日・刊。価格:1,700円+税。144ページ。
 kindle版:2017年4月27日・刊。価格:800円。
 kindle unlimited版は追加金・無料。
感想
 歌集のしまいに、東直子・解説「新しい扉とあたたかな諦念」、著者・あとがきを置く。
 2007年に短歌と出会い、2010年に短歌を始める、とある。
 水質検査等の仕事を、あるいは幻想的に詠んでいる。
 恋も詠まれるが、男性に反発する風でなく穏やかで、レトリックを効かせている。
 仕事や恋のストレスを昇華して、レトリックある短歌に詠み、心の安定を得ているようだ。
 彼女が、家庭を持つかどうかは判らないけれども、こうして心の安定した人生を送る人が、人生の成功者となるのだろう。
 第2歌集の待たれる歌人である。
引用

 以下に7首を引く。
向日葵の海を泳いで辿りつくあなたの背という陸の確かさ
無いものは無いと世界に言うために指はしずかに培地を注ぐ
浮かぶのはぜんぶにせものへばりつく欠片を無菌チューブに移す
さよならのようにつぶやくおはようを溶かして渡す朝の珈琲
ナトリウムイオンの量でかなしみを測るあなたは定時で帰る
からっぽの手を繋ぎますそれぞれに失くした傘の話をする日
ゆうやけを縫いつけてゆくいもうとの足踏みミシンはちいさく鳴いて


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 服部真里子・第2歌集「遠くの敵や硝子を」を読み了える。
 なお表紙写真は、トリミングの都合で、上下端が少し切れている。
 今月7日の記事
「入手した4冊(2)」の初めで、入手を報せた。
 (なお同・記事の幸田玲「再会」は、既に読んだ小説だった)。
概要
 上のリンク記事で、前ブログ「サスケの本棚」に載せた、第1歌集「行け広野へと」の感想のリンクを挙げないと書いたけれども、名前を訂正の上、ここに引いて置く。購入記事へのリンクもある。2015年4月6日の記事、
服部真里子「行け広野へと」である。
 4年ぶりの第2歌集は、2018年10月17日、書肆侃侃房・刊。
 普通より縦長の本で、171ページ、291首を収める(1ページ2首)。
感想
 論争の発端となったという、「水仙と盗聴」の歌など、よくわかると思う。
「歌壇」2017年5月号の感想の冒頭部で、僕の理解を述べた。むしろ男性に少し媚びていると思う。
 若者にとって厳しい社会で、歌壇のヒロインとして、彼女は生き抜く決意をしたようだ。
 芸術を取るか生活を取るかの岐路で、彼女は若くして芸術を取ったようだ。
 彼女が将来、不幸に成らない事と、新しい歌を生み続ける事を、今の僕は願うばかりだ。
 なお彼女は、今年10月10日のツイートで、治療に入る旨を告げている。

引用

 以下に7首を引く。
夕顔が輪唱のようにひらいても声を合わせるのはいやだった
見る者をみな剝製にするような真冬の星を君と見ていつ
水仙と盗聴、わたしが傾くとわたしを巡るわずかなる水
父を殺し声を殺してわたくしは一生(ひとよ)言葉の穂として戦ぐ
言葉は数かぎりない旗だからあなたの内にはためかせておいて
地下鉄のホームに風を浴びながら遠くの敵や硝子を愛す
もう行くよ 弔旗とキリン愛しあう昼の光に君を残して



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