風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

短歌

 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、「灯よ海に」を読み了える。
 先行する歌集
「風化暦」は、今月8日の記事にアップした。
 歌集「灯よ海に」は、1976年、新星書房・刊。
 まず「鎮魂譜」の章の第1節「鎮魂 生方慶三への挽歌」で、一人娘の婿・生方慶三(癌で死去)への挽歌が詠われる。生方たつゑは、生方家を継ぐ者として、期待していたようである。
 本質とは逸れるが、娘・生方美智子のホームページ「サロン ド ウブカタ」には、「主婦として、子育てをしながら」の文があり、生方家の血脈は継がれている。
 「雪の窓に嘘のやうなる月そそぎ薄きかれひを焼く夕べなり」「放心の民の一人と生きてゐて嘘とも思ふ点(とぼ)す灯のもと」の歌があり、これまでの歌集にも嘘と見做す歌があった。現実に心理的に行き詰った時、「嘘のようだ」と逃避するのか。
 ともあれ彼女は老年を生き、さらに詠い続けてゆく。
 以下に7首を引く。
いく夜さもかかりて縫ひし帷子(かたびら)を今着するべしみ仏のため
泪ためて唐辛子きざむゆふぐれに顕つおもかげよ汝のおもかげ
(ひ)の舌のごときポピーを満たしめて終止符のなき楽譜をつづる
失ひやすきあはれは言はず夕潮が溶かしつつゐる虹に佇たむか
人恋ひて野に招(よ)びたりし歌よみてまぶしよ明るすぎる秋の日
賽の河原といふ谷をきて戒(いましめ)す生きて地獄の酸ふみながら
パン酵母こねつつ出口なき思惟をもちつつ吾は倦むことなきか
  注:引用の中に、正字を新字に替えた所があります。
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。



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 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、歌集「風化暦」を読み了える。
 先行する歌集
「紋章の詩」は、先の5月30日の記事にアップした。
 歌集「風化暦」は、1974年、新星書房・刊。
 歌集を読んでいて、心境的には、夫の病気と老いの自覚、嫁した旧家の国への引き渡し等、有り得るもので、一人娘の婿・生方慶三の癌に由る死の他、突出した所はない。
 しかし歌境の進化から見ると、自然詠や写生を遠く離れて、産業社会の苛酷さを、新しいレトリックを以って切り開いて詠んで来たと言える。
 歌集の末尾の章に、婿・生方慶三の死を詠んだ「嘘」があるが、本格的な挽歌は次の歌集「灯よ海に」の連作「鎮魂譜」を待たねばならない。
 以下に「風化暦」より、7首を引く。
ひりひりと火傷ひきつる思ひあり家明け渡す嘆きは言ふな
予祝するシラブルはなし仮住みの庭にくるみの実ごもる日にも
家渡すことかなしむなと言ひ切りて荒涼となることも切なし
さゐさゐと灯油注がれゐるかたへ紊(みだ)れつつくる冬の霰は
曖昧なる眼もてざる犬とゐるこのてのひらを舐めさせながら
爪がたの美しかりし姉うへも今は骨壺のなかにしづまる
空きてゐるベッドの上に帷子(かたびら)を裁つとき雪のふる悲鳴あり
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。



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風のアンダースタディ

 Amazonのkindle本より、鈴木美紀子・歌集「風のアンダースタディ」を読み了える。購入は、今月2日の記事にアップした。
 書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」よりkindle版で読んだ歌集として、先の5月10日に記事アップした、蒼井杏
「瀬戸際レモン」に継ぐ。
 印象は、ずいぶんネガティブだな、という事である。結婚願望があって(相手にネクタイを贈ったりしている)、結婚しながら、DVを受けたようだし、相手の無呼吸症候群を知らせないのは憎悪を感じる。
 何も幸せな生活や、リアル充実を描くばかりでなく、短歌にこだわるのは訳ありの事情だろうから、ネガティブな歌があって良い。ただし「短歌は自己救済の文学である」という言い伝えを信じ、実感している僕としては、もっとポジティブな歌があり得る筈だ、と信じる。その後の彼女の短歌を知らないけれども。
 師の加藤治郎が、解説「代役の私」で引いた17首と、僕が読みながらメモした8首が、意図せずに全く重ならないのは、短歌観の違いだろうか。
 以下に6首を引く。
この辺は海だったんだというように思い出してねわたしのことを
お皿にはグリンピースが残されて許せないこと思いださせる
マフラーやネクタイ贈れば気のせいか怯えた目をするあなたと思う
本心が読み取れなくて何回もバーコードリーダー擦りつけてた
これ以上きみには嘘をつけないと雨は霙に姿を変えた
さっきまでわたしはあなただったのにシャンプーの泡ですべて流した




 
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 所属する短歌結社を、「コスモス短歌会」より、「覇王樹社」へ移った。「コスモス」では、24年余在籍して来て、自分の短歌の未来がない、と感じられたからである。
 「覇王樹」は、創刊者・橋田東声の生き方に共感しており、ネットのホームページ(リンク集にあり)より問い合わせて、準同人で入会した。
 歌誌は薄く2017年6月号で42ページで、「コスモス」(出詠していないが、会費を6月号分まで払ってある)の6月号の206ページに及ばない。
 「覇王樹」は2020年に100周年を迎えようとしている。毎号の歌は、同人は無選6首、会員・準同人は8首出詠・6首の掲載である。10首詠欄、15首詠欄があり、題詠・付け句の募集など、意欲の継続に意を払っている。
 僕の歌が初掲載の6月号が、5月26日に届いた。すでにほぼ読み了えている。
 僕が付箋を貼ったのは、次の1首。T・サツ子さんの「厳寒の」6首より。
好きなだけ飲んで下さいふらついた足元は何、酒か齢か
 僕の6首は、もう1つのブログ「新サスケと短歌と詩」の、
6月1日の記事より、2日続けてアップしたので、横書きながらご覧ください。


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 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、歌集「紋章の詩」を読み了える。
 先行する歌集
「花鈿」は、今月24日の記事にアップした。
 歌集「紋章の詩(うた)」は、1972年、短歌研究社・刊。
 群馬県沼田市に残された、築380年以上の旧家が、国指定重要文化財となり、移築を待つ時に、旧家を継いだ苦しみを救済するべく詠じられている。
 また栃木県・那須への旅、群馬県・谷川岳への川端康成に従っての旅と共に、ハワイ、イギリス・スコットランドへの旅の、旅行詠の大作がある。
 ただしプロ歌人にして、旅行詠は難物のようだ。
 この歌集でも、抽象語や比喩を多く用いて、詠まれている。
 以下に7首を引く。
意地張りて生ききし傷の疼く日よもろき私にふれてくれるな
支へかたき家の重味か病みがちに老いゆく夫のかたへにをれば
くれなゐの椿が冬も咲くみちか嘘のやうなるわたくしの冬
紋章の拓本をとる墨選ぶ家の終末になしうるひとつ
腐蝕せぬものらはむしろ淋しきか古りてかけらとなりし陶片
心絞りくるものもなし熔火帯ゆきて刺青(しせい)のごとき羊歯群(ハワイ)
夏すでに草枯れてゐる丘多しトマトつぶれしごとき日没(スコットランド)
 (注:引用の中に、正字を新字に替えた所があります)。
022
写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。


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 角川書店「生方たつゑ全歌集」(1987年・再版)より、歌集「花鈿」を読み了える。
 前歌集
「虹ひとたび」は、今月18日の記事にアップした。
 歌集「花鈿」は、1973年、牧羊社・刊。井上靖・序文、「あとがき」を付す。
 1972年・刊の歌集「紋章の詩」に内容的には先行するらしく、全歌集では先に置かれている。
 序文で井上靖が「極北に立った鋭さを見せています。…生方さんを取りまく外界がすっかり構築され直した感じです。」と讃えている。「あとがき」で夫の2度の入院、古家が国指定重要文化財となった事などを書き、「私が、もはや、人生の結末への準備をしなければならない要求にせまられたのは嘘ではない。」と述べている。また「私個人としては、大きい『あらたまり』のこころにゆすぶられてよみあげたものであることを信じたい。」とも述べている。
 「虹ひとたび」の記事で僕が書いた、新しい地平、新しい歌境に入りつつある自信だろうか。
 以下に7首を引く。
絶えまなく噴き熄まぬもの化合(けがふ)して夏旺んなる千島火山帯
狐の嫁入りの民話を信じきたりたるわが少女期の甦るは五月
歪みたる瓶も鉱化せる石鹸も惨の証(あかし)してかなしきあさか(広島―爆心地―)
血のやうな赤きプラムの果汁吸ふ病めばやさしくなり合ふわれら(夫病めば)
花のマッス窓にかがやく晨(あした)にて体温ひくきしあはせ分つ
胎児のやうに跼む谷石をふむときに収斂はくる秋のこゑして
ひる暗き土蔵の中のてのひらに重し磨滅の踏絵を持てば
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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。



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 綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2017年6月号を、ざっと読み了える。本の到着は、今月15日の記事にアップした。
 特集の「現代版、本歌取り」では、先行作から語句を借りて来るのではなく、以前の別の作を連想させ重ねながら読ませる作でなければ、という点が強調される。歌集は読んでいても、ほとんど暗誦できない僕にはお手上げである。10氏の「本歌取りに挑戦」競作は読み応えがあった。
 小谷奈央「沼杉」20首より。
やったことひとつずつ消しやらなかったことはリストにそのままのこる
 to do リストか何かだろうか。便利さのために用いるアプリなどが、後ろめたさをもたらす現代の逆説を描く。
 さいとうなおこ「寒い」12首より。
考えも顔も異なる妹とおもうがフルーツポンチをたのむ
 似ている点と似ない点を挙げる妹に、違和感を持ちつつ、指摘するでなくスルーしてしまう冷静さが描かれる。
 新連載「小島ゆかり・正木ゆう子の往復書簡」第1回は、俳人・正木ゆう子の書簡であり、中身も熊本地震に関わる「熊本日日新聞」への投句が多く語られて、今1つ身が入らなかった。
 高野公彦インタビュー特別編「20の質問」では、「日課」「座右の銘」「よく見る夢」等の問いに答えている。身近に感じられ、本編と共に貴重な資料となるだろう。




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