風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 お報らせです。2020年9月6日で以って、Kindle本「少年詩集 鳶の歌」を自力発行致しました。原稿は自分で作成し、表紙はデザイナーさんにお願いしました。上梓は自力で行いました。
 Amazonの「Kindleストア」カテゴリで、「少年詩集 鳶の歌」と検索すれば、すぐに出て来ます。右サイドバーのバナーよりも至れます。僕のペンネームは柴田哲夫です。価格は500円ですが、Kindle Unlimited版を追加金無料で購入できます。多くの方のご購読を願っております。

小説

 吉本ばななの短編小説集「デッドエンドの思い出」を読み了える。
 到着は今月20日の記事、届いた2冊を紹介する(18)で報せた。




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 リンクでは、ブログ開始の2016年9月より載っていないと書いたけれども、2007年4月開始の旧ブログ「サスケの本棚」にも載っていないので、13年以上ぶりの吉本ばななの本である。

 「デッドエンドの思い出」は、文春文庫、2007年4刷。「幽霊の家」「『おかあさーん』」「あったかくなんかない」「ともちゃんのしあわせ」「デッドエンドの思い出」、5編を収める。
 娘さんが障害を越えて、恋人と結ばれるストーリーが多い。恋人の8年間のフランス留学、毒物カレー事件、好きな中年男性に恋人がいた、などをクリアして結ばれる。
 「あったかくなんかない」では、幼い仲良しの男児が無理心中に巻き込まれて亡くなるけれども、幸せだった時を回想して結末となる。表題作「デッドエンドの思い出」は失恋物語だけれど、周囲に親切にされて、爽やかな光景で括られている。
 発表後の反響は良く、大きな展開があったと、文庫版あとがきに書かれている。


 馳星周の小説「少年と犬」を読み了える。
 入手は、今月22日の記事、dポイントで3冊を買う、にアップした。



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 2020年8月25日・7刷、文藝春秋・刊。308ページ。第163回・直木賞・受賞。
 ハードボイルド小説(もう古い呼び方か)を、僕は苦手である。本屋で手に取ったのは、僕も1種の救いを求めたのだろう。
 シェパードと和犬の雑種・多聞が、犯罪に手を染めた男、窃盗団の男、関係の悪化した夫婦、タチの悪い情夫を殺した娼婦、老猟師、と相手の死や自首の度に飼い主を替え、震災・津波に遭った岩手県釜石から、目的の熊本に移住した少年一家に辿り着くまでを描く。多聞は、地震で古民家が崩れた時、少年を庇って亡くなる。
 裏社会や危機の夫婦、老猟師など、ハードな世界で読者を引きつけ、少年を救って犬が亡くなるなど、ちょっと感動的な物語である。しかし犬と人が友情を結ぶのに、どうして死を賭けなければならないか、僕にはわからない。

 僕はこれからも、良否は別にして、純文学を読んで行くだろう。


 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第3巻(1978年・5刷)より、3回めの紹介をする。
 同(2)は、今月20日の記事にアップした。



 今回は、短編小説「軽気球虚報」1編のみを読んだ。このあと第3巻には、長編小説「ゴオドン・ピムの物語」しか収まっていないからである。

 「軽気球虚報」は、飛行船(軽気球とはなっているが、楕円形でプロペラ(翻訳ではスクリューとなっている)、舵を備える)で、大西洋横断に成功するフィクションである。イギリスからフランスへ、英仏海峡を越える予定の所が、気流の関係で大西洋横断に方針を替え、75時間で成功する。
 ライト兄弟の初飛行が1903年、リンドバーグの飛行機による大西洋横断は1927年である。1809年・生~1849年・没のポオは飛行機を知らず、飛行船の冒険に想像を馳せるしかなかったのだろう。

飛行船
写真ACより、「飛行船」のイラスト1枚。


 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第3巻より、2回めの紹介をする。
 先行する同(1)は、先の9月18日の記事にアップした。




 今回は、「壜の中の記録」、「メロンタ・タウタ」、2短編小説を読んだ。
 「壜の中の記録」は、いわゆるボトルメール(ガラス瓶に手紙を入れて漂流させ、偶然の読者を当てにするもの)の形式を採る。バタヴィア(インドネシアのジャカルタ)からマレー諸島へ400トンの船で出港したが、嵐に遭って2人だけが生き残る。さらに大きい軍艦と衝突し、沈む反動で軍艦に乗り上げる。軍艦は南氷洋に向かうらしく、氷山が次々と現れる。軍艦が沈む所で手紙はしまいだが、死者からのボトルメールとする所に、迫真性がある。
 「メロンタ・タウタ」は、「気球「雲雀号」にて 2848年4月1日」の副題がある。気球とあるけれども、飛行船の物語らしい。しまいに壊滅して、海中へ落ち込む。この短編小説も、ボトルメールの形を採るが、漫筆の議論が多く、迫真性が足りない。
 2848年の出来事としているが、ジェット機やロケットが飛ぶ時代が近かったとは、ポオも予見できなかったようだ。

ボトルメール
写真ACより、「ボトルメール」のイラスト1枚。



 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、5回めの紹介をする。
 同(4)は、今月2日の記事にアップした。


 今回は、「熊本牧師」「飯塚酒場」「弁慶老人」「西村少年」の4短編小説、255ページ~279ページ、25ページを読んだ。
 「熊本牧師」は日曜学校への登校を、「西村少年」は同級生の恋への嫉妬を描いて、時代を戦前の小学生時代に採っている。
 「飯塚酒場」も、戦中の1943年初め頃の人気酒場で、早く1回分を飲み干して行列の後ろに付く、競争を題材とした。
 「弁慶老人」は、学生やプロの押し売りを撃退する事を楽しみとする、画家・早良十一郎とその隣人・大河内弁慶・老人が、地境の四ツ目垣の根元に植えるもので、諍う話である。
 少年時代、戦中、戦後の些細な事を取り上げながら、宗教や社会への怒りを含めているようだ。
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写真ACより、「秋の人物コレクション」の1枚。



 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、4回めの紹介をする。
 同(3)は、先の9月24日の記事にアップした。



 長編小説「砂時計」を了え、今回は「猫と蟻と犬」「古呂小父さん」「犬のお年玉」「風早青年」の4短編小説を読んだ。
 「猫と蟻と犬」では、年少の秋山画伯が持ち込んだ猫・カロの粗相がひどいので返し、飼い犬・エスの花火嫌いを直すに失敗する話である。秋山画伯は、ビキニ水爆実験の放射能雨を、しきりに気にとめている。
 「古呂小父さん」は、少年の目で父の会社の秋季郊外遠足を描く。不器用な古呂小父さんが、支店長の息子にまで笑い物にされて、しまいには酔って憤慨する。
 「犬のお年玉」では、犬の意地で、1度他の犬が食べた新しい食器では食べない。怒ったり、嘆息しながら飼っている。
 「風早青年」は掌編で、知り合いの風早青年が勝手に納戸に住み着き、結局出て行ってもらうのだが、その際、私は一杯食わされる。
 戦後約10年、日常生活が戻ったかに見えるが、その平安に馴染めない市井の者の心情を描いている。
ヤッターネコ
写真ACより、「猫」のイラスト1枚。





 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻より、小説「砂時計」の3回め、しまいの紹介をする。
 同(2)は、先の7月14日の記事にアップした。




 今回は、149ページ~222ページの、74ページ分を読んだ。
 栗山佐助は、夕陽養老院の臨時書記という事で、八木七郎、栗山佐助、夕陽養老院の3者が、仮に結び付く。
 176ページからしまいまで、黒須院長を含む、養老院の経営者会議の場面となる。経営者会議では、在院者たちを老朽物質扱いし、月2名の回転率を院長にノルマに課す。
 経営者たちが散会して、折詰を提げながら出てゆくところを、数匹の野犬に襲われる場面で、長編小説(梅崎春生の最も長い小説でもある)は、ファルスとなる。
 工場騒音、老人施設等の当時新しい社会問題を取り上げた。内面の踏み込みが少なく、成功作とは言い難い。
野犬
写真ACより、「野犬」のイラスト1枚。


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