風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 お報らせです。2020年9月6日で以って、Kindle本「少年詩集 鳶の歌」を自力発行致しました。原稿は自分で作成し、表紙はデザイナーさんにお願いしました。上梓は自力で行いました。
 Amazonの「Kindleストア」カテゴリで、「少年詩集 鳶の歌」と検索すれば、すぐに出て来ます。右サイドバーのバナーよりも至れます。僕のペンネームは柴田哲夫です。価格は500円ですが、Kindle Unlimited版を追加金無料で購入できます。多くの方のご購読を願っております。

小説

 沖積舎「梅崎春生全集」第4巻より、小説「砂時計」の3回め、しまいの紹介をする。
 同(2)は、先の7月14日の記事にアップした。




 今回は、149ページ~222ページの、74ページ分を読んだ。
 栗山佐助は、夕陽養老院の臨時書記という事で、八木七郎、栗山佐助、夕陽養老院の3者が、仮に結び付く。
 176ページからしまいまで、黒須院長を含む、養老院の経営者会議の場面となる。経営者会議では、在院者たちを老朽物質扱いし、月2名の回転率を院長にノルマに課す。
 経営者たちが散会して、折詰を提げながら出てゆくところを、数匹の野犬に襲われる場面で、長編小説(梅崎春生の最も長い小説でもある)は、ファルスとなる。
 工場騒音、老人施設等の当時新しい社会問題を取り上げた。内面の踏み込みが少なく、成功作とは言い難い。
野犬
写真ACより、「野犬」のイラスト1枚。


 KIndle本の「開高健 電子全集」特別限定無料版より、短編小説集「珠玉」の「掌のなかの海」を読み了える。
 入手は、今月19日の記事、入手した3冊を紹介する(10)にアップした。


 「掌のなかの海」は、回想記風に始まる。作家デビューした作者が、焦燥のあまり寄るバーで、高田先生と呼ばれる老人と知り合う。高田老人は医師だったが、スキューバダイビングの用意をして行方不明となった一人息子を探して、日本各地のポイントを追ったが無駄で、海を墓守の心境で暮らそうと、船医になる。
 作家は誘われて下宿を訪い、飲み直す。先生は「さびしくて、さびしくて、どうもならんです」と泣き出し、大泣きとなる。
 僕は作家の筆力に感心するが、内容は感心しなかった。人生でもっと苛酷な体験をした人は多い、と思っているからである。
バー
写真ACより、「バー」のイラスト1枚。



 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第3巻より、1回めの紹介をする。
 先行する「同 2」を読む(7)は、今月7日の記事にアップした。




ポオ全集第3巻
 「ポオ全集」第3巻の函の表である。1969年第1刷、1978年第5刷。

 第1編は、「ハンス・プファアルの無比の冒険」である。オランダで困窮したハンス・プファアルが気球を造り、工夫を凝らして月世界に至るという話である。長文の手紙が月の住人によって届けられ、真相がわかる。
 気球程のもので、月に至れない事は、現代の科学で明らかである。月到着の願いは古くからあり、色々な物語を生んだとしても、これは上手な部類ではないだろう。

 第2編は、「メエルストルムの渦」である。「大渦に呑まれて」「大渦の底へ」の訳題でも有名な短編である。大渦に巻き込まれた小漁船で、主人公が、大きいものや丸い物が早く沈む事を発見し、樽に身を縛って飛び込む事で、死を免れる。しかし樽に身を縛っては、海水も飲むだろうし、現実的なストーリーに思えない。前作と共に、当時の科学の知識が先行し、今の読者の感興が大きくない。



 Kindle版「室生犀星作品集」より、短編小説「ゆめの話」を読み了える。
 今月6日の記事、「名園の落水」に次ぐ。



 「ゆめの話」は、武士の多門が怪しげな振る舞いの女を門口で切りつけるが、姿が見えなくなる。家うちの台所で、使用人のお萩が傷を受けて気絶している。介抱すると、お萩は夢で切られたという。やがてお萩は暇を取る。
 夢遊病のようだが、どこまでそうなのか、わからないと作者は書く。
 底本の親本、創林社「室生犀星童話全集 第3」、1978年・刊。
 初出、「令女界」1924年12月号。
 頼まれて書いた原稿だろうが、筆力はある。旧かなを新かなに直してあるだろう。
塀
写真ACより、「塀」の写真1枚。



 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、7回め、仕舞いの紹介をする。
 同(6)は、先の8月17日の記事にアップした。



ポオ全集 2
 「ポオ全集」第2巻の函の表を再掲する。

 第2巻の仕舞いは中編小説「ジュリアス・ロドマンの日記」で、244ページ~323ページ、80ページに渉る。
 副題にもあるように、「ロッキィ山脈最初の踏破記」である。第1章の長い序説のあと、第2章~第6章へと、日記形式で語られる。
 毛皮を求めて川を遡上し、草原の美しい景色、インディアンとの闘いを描き、赭熊の襲撃から逃れる所で、日記は了えられている。ロドマンが生活し、日記の残っている所から、この冒険は成功したのだろう。

 谷崎精二は解説で、「珍しい平明で清暢な物語である」と述べる。しかし少ない資料から、ポオが想像力を奮って描写して行く、苦悩が伝わって来る。

 これで第2巻を仕舞い、全6巻の第3巻に入る。


 文庫本棚より抜き出して、色川武大の連作小説集「怪しい来客簿」を読み了える。
 彼の小説として、2019年9月3日の記事、「あちゃらかぱいッ」以来である。



 色川武大(いろかわ・たけひろ、1929年~1989年)は、プロ賭博師、雑誌編集者を経て、作家となり、阿佐田哲也・名で麻雀小説なども書いた。
 コアなファンがあり、没後、福武書店より、全16巻の全集が刊行された。

怪しい来客簿
  「怪しい来客簿」は、文春文庫、1989年・刊。17編を収める。長く蔵していたので、一茶「七番日記」(上)と同じく、本文ヤケしている。
 戦中から活躍し戦後に没落した知人、芸人、スポーツ選手などを描いている。
 相撲力士の出羽ヶ嶽文治郎、プロ野球の木暮外野手など、幸せと言える晩年を送った人物に救われる。
 多く没落して亡くなり、知人など、亡霊として現れたりする。
 仕舞いの「たすけておくれ」では、自身の胆石手術(こじれて危篤に陥った)をも、戯画化してユーモラスに描く。まるで亡くなった人たちの、仲間のように。


 KIndle版「室生犀星作品集」より、「みずうみ」を読み了える。
 先の同・童話とエッセイを読む、は6月9日の記事にアップした。



室生犀星作品集
 作品集の表紙を再掲する。

 「みずうみ」は、初めに「童話でも小説でも散文でもない」と断っている。
 写生ではない俳文という所だろうか。
 4章と分量は意外と多かった。
 湖辺の一軒家に住む眠元朗とその妻、娘と、3人が登場人物である。眠元朗とその妻は生活に飽き、険しい目を交したりする。
 結末で父親は、乙女さびた娘を、対岸の桃花村へ小舟で送り出してしまう。
 家族の由来も、生業も、心象小説のような1編では、どうでも良いのである。
 底本の親本は、「室生犀星未刊行作品集 第Ⅰ巻 大正」三弥井書店、1986年・刊。初出は「詩と音楽」1923年5月号。旧かなを新かなに直してあるだろう。


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