風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 お報らせです。2020年2月20日で以って、Kindle本・短編小説「底流」を自力発行致しました。原稿は自分で作成し、表紙はデザイナーさんにお願いしました。上梓は自力で行いました。
 Amazonの「Kindleストア」カテゴリで、「柴田哲夫 底流」と検索すれば、すぐに出て来ます。柴田哲夫は、Kindle版・詩集「詩集 日々のソネット」、「改訂版ソネット詩集 光る波」と同じく、僕のペンネームです。価格は500円ですが、Kindle Unlimited版を追加金無料で購入できます。多くの方のご購読を願っております。

小説

 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、3回めの紹介をする。
 同(2)は、今月2日の記事にアップした。


 リンクより、関連過去記事へ遡れる。

 今回は、「奇態な天使」「使いきった男」「息の紛失」、3編を読んだ。3編で43ページである。
 「奇態な天使」はビヤ樽の胴、小樽の足でできた羽根のない、自称・天使に、酒酔いの「私」が振り回される話である。天使を含め、一切の信仰を僕は持たないので、内容には言及しない。酔っ払いの戯れ言めく(悪い冗談とも書いた)のが残念である。
 「使いきった男」は、蛮族と戦って体のほとんどが、人工品になった(本体は小さな束のみである)、名誉陸軍少将を描く。人工器官の発展、あるいはiPS細胞の発見を予告したような面は認める。
 「息の紛失」は、息を失くした男が不運の果てに、生きたまま埋葬されるが、掘り出される話である。「生きたまま葬られる」というポオの1テーマである。

 短編小説作家は、ポオも、O・ヘンリも、フィッツジェラルド(長編小説もある)も、悲惨な最期を迎えているが、何故だろう。印税の安い短編小説を乱作するからだろうか。短編小説の名手と呼ばれた三浦哲郎は、それでも長編小説も多く手掛けた。バランスを採ったのだろうか。村上春樹は短編、中編、長編、翻訳、エッセイとバランスを採って書き続け、成功している。

樽のイラスト
写真ACより、「樽」のイラスト1枚。


 先の6月29日の記事、届いた2冊を紹介する(13)で報せた内、青木祐子の小説「これは経費で落ちません! 7」を読み了える。リンクより、過去巻の感想へ遡れる。


これは経費で落ちません 7
 集英社オレンジ文庫、2020年5月25日・刊。244ページ。このシリーズも巻を重ねて、7冊めとなった。
 経理部員・森若沙名子をヒロインとする、サラリーマン(ウーマン)小説に、恋を絡める。
 4話にエピローグの構成で、1話は総務部の平松由香利が、ゾンビのコスプレパーティで出会ったバツイチ男性と意気投合し、結婚する事になる。相手はアルバイトの他、主夫となるが優しく、総務課長になる平松由香利は納得し幸せそうである。経理部主任となる森若沙名子の、複雑な心境も描かれる。
 2話は、主人公の勤める天天コーポレーションと合併する、トナカイ化粧品の経理担当・槙野徹の疑惑を巡る話である。槙野徹は不相応な腕時計をしていたり怪しまれたが、3年前に経理担当になってより、会社の不正経理を正して来た、正義漢だった。しかし彼は疲れて、合併が済んだら、退職を願っている。沙名子は慰留するのだが。

 3話は、不倫関係にある勇太郎(独身)と織子(若い夫あり)の二人に、沙名子が解決へ手を出すストーリーである。ショールーム担当だった千晶が、契約社員より正社員の総務部員へ登用となるけれども、苦労も増える挿話を交える。
 4話は、沙名子の恋人・太陽が東京本社より大阪営業所へ転勤となり、交際が遠去かってしまう話である。おいおい、ヒロインがアンハッピィな仕舞い方かよ、と読者の期待を裏切る。続巻でどうするのか、読みたい事である。
 エピローグは経理部の若手・真夕の視点で描かれる、しばし後の経理部の状況である。続巻が出るとして、何冊まで行くのだろう。心配であり、楽しみである。



 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社)第2巻より、2回めの紹介をする。
 同(1)は、先の6月21日の記事にアップした。



 今回に読んだのは、「ウィリアム・ウィルスン」1編である。51ページ~77ページの、27ページ分とやや長い。
 ウィリアム・ウィルスンが、寄宿舎学校時代より、同姓同名の同じ日生まれの人物から、自分の芳しからぬ手段での成功を妨げられ続け、年を重ねてから決闘で相手を倒す。しかし血塗れで死にそうなのは自分で、もう一人は自分の分身だったというストーリーである。
 谷崎精二は後記で、スチーブンソンの「ジキルとハイド」に比べられるという。しかしこの短編は、別人物に成り代わる二重人格の話ではない。
 ドストエフスキーの「分身」に想を得たのではないかと思われる程(当時のポオが「分身」を読める環境だったかは判らないが)、同姓同名の人物によって主人公が困窮する設定は似ている。



 また日本の戦後作家・梅崎春生もその全集・第2巻の函の帯で、種村季弘に「この作家はたえず分身幻想につきまとわれていた。」と書かれる程、主人公に似る服装・境遇などの人物との、ストーリーを繰り返し描いた。今の僕に記憶はあるが、例に引けるのは「服」のみである。


 ポオの場合、大酒と賭博で学校を追われ、後も酒に苦しんだ生活を、告白ならぬ幻想的小説へ高め得た。
男性二人 2等身男性
写真ACより、イラスト1枚。




 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社・版)の第1巻を読み了えたので、第2巻に入り、短編小説3編を読んだ。
 先行する「同 1」を読む(5)は、今月13日の記事にアップした。



ポオ全集 2
 「同 2」は、1969年11月・初刷、1979年12月・7刷。

 訳者が後記で「幻想的、怪奇的な物語を集めた」という第2巻より、初めの3編である。
 「赤き死の仮面」、「メッツェンゲルシュタイン」、「アッシャア家の没落」、共に心理的恐怖小説と呼びたい。
 「アッシャア家の没落」は、「アッシャー家の崩壊」の名が有名だろう。僕の以前に読んだのが、抄訳だったのか、少年版だったのか、心理的いきさつはこの版が描写細やかだった。

 「赤き」「おののかしめ」「ごとくであった」等、古めかしい訳語が多い。訳者が初めてポオを翻訳したのは、1913年(大正2年)と古く、後に手を入れても、致し方なかったのかも知れない。
 現在は新しい翻訳が文庫本で出版されている。



 


  石田衣良の小説「娼年」を読み了える。
 石田衣良の作品は、2018年11月26日に記事アップした、「スローグッドバイ」以来である。


 リンクより、彼の小説の感想を遡れる。

石田衣良「娼年」
 集英社文庫、2004年4刷。
 20歳の学生・リョウが、会員制ボーイズクラブのオーナーに誘われ、コールボーイとして、様々な女性と関係を持つストーリーである。お相手は、20代のOLから、70代のおばあさんまで、様々である。
 趣向を凝らして、女性の性癖を描くが、女性の奥深さを捉えていないように思う。性描写は、官能小説作家に任せた方が良いようだ。
 小説は、1夏を経て、クラブのオーナーの逮捕によって営業が出来なくなるところで、エンドとなる。

 なおこの本は、ブックオフの値札がありながら、線引きが数ヶ所あった。値札はヘアードライヤーの熱風を当てて剥がしたが、跡が残ってしまった。

 お見合いで結婚し、不倫もない僕の、僻みがあるかも知れない。


 江國香織の小説「間宮兄弟」を読み了える。
 江國香織の小説の記事は、以下のリンクで読める。



間宮兄弟
 小学館文庫、2007年11月・初版。318ページの長編小説である。350円のブックオフの値札が残っている。
 間宮兄弟こと昭信(35歳)と徹信(32歳)は、2LDKのマンションに一緒に住むが、共に恋人がいない。
 学生時代、会社で、女性に好意を持っては、悲惨な結果を迎えて来た。しかし女性教員と、直美・夕美姉妹をカレーパーティ、花火パーティに招いて、仲良くなりそうになる。しかし3人は、人間観に影響を受けて、それぞれのボーイフレンドとの関係を見直すのみにおわる。
 徹信は、昭信の仕事の先輩が離婚しようとしている沙織さんに突進し、玉砕する。
 そして兄弟の平和な毎日が戻って来る。
 悲惨にもなる内容だが、作家には異性だからだろうか、人生観による文体のせいだろうか、穏やかでユーモラスでさえある、物語となった。




 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社・版)第1巻より、5回め、了いの紹介をする。
 同(4)は、今月7日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡れる。



 今回は、「純正科学の一として考察したる詐欺」、「実業家」、2編を読んだ。
 「純正科学の~」は、「詐欺することが人の運命なのだ。」としている。詐欺を綿密、工夫、忍耐、独創など9つの要素で考察した後、9つの詐欺話を挙げている。しまいの話は、保証金を集めてトンズラするストーリーで、現在の日本でも行われている。

 「実業家」は、「私は実業家である。」と称する「私」が、仕立て屋の客引きから始まって、目障りな小屋を建てて、近くの立派な建物の主から立ち退き料をせしめる「目障り業」、当たり屋、偽郵便料をせしめる詐欺、猫取り締まり法令を発布した国に猫の尻尾(再生する事になっている)を売る業まで落ちぶれる。

 訳者のあとがきによると、第1巻は推理小説編であるが、枚数の都合でその他も収めた。末尾の付加された作品は、ポオ自身の落魄を映すかのようである。
社長
写真ACより、「社長」のイラスト1枚。



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