風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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小説

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 先の11月21日の記事(←リンクしてあり)で紹介した、「2016ふくい詩祭」(11月20日開催)のおり、前川幸雄さんより、このブログで紹介してくれるなら、という事で、彼と鄭建さんの翻訳した田恵剛・小説集「孤独なバラ」を、送って頂く約束をした。
 前川さんは、おもに漢文学を研究し、上越教育大学教授、福井大学教授等を、歴任した。
 また現代詩を創作・発表する傍ら、中国現代詩の邦訳の先駆けとなり、5冊の訳詩集(田恵剛・詩集「大地への恋」を含む)を発行した。現代中国の小説の翻訳・出版は、これが初めてである。
 共訳の鄭建さんは、1953年、上海生まれ、日本語を学んで日本語講師の資格を得、1991年~1993年、前川さんの指導を受けた。
 著者の田恵剛さんは、1944年・生、詩より始め、小説をも書いた。
 前川幸雄さんを中心とする出版が、商業ベースに乗らないで、続けられた事は貴重である。
 この小説集は、短編6編を収めており、今回僕が読んだのは、初めから2編、「除名された新鋭」「鳩笛は青空に響き渡る」である。
 「除名された新鋭」は、有望な女子水泳選手(17歳)が、上層部の不正に反発してチームを辞めさせられるが、希望の持てる結末を迎える。
 「鳩笛は青空に響き渡る」は、軍隊の療養所に配属された娘さん二人が、幹部指導員と対立しながら、やがて理解が始まる。
 内部対立を描きつつ、読者に希望を持たせるのは、公式的な終わらせ方故ではない、と信じたい。

 
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 沖積舎「梅崎春生全集」(全8巻)の第2巻(1984年・刊)より、前ブログ「サスケの本棚」と通算して第5回めの紹介をする。
 今回、僕が読んだのは、「麵麭の話」、「蜆」、「虹」の3短篇小説である。
 「麵麭の話」は、ご飯も食べられぬ戦後の貧しい家庭を持つ男が、裕福な知人の家で、白いパンを何個か盗んで、家に帰ろうとする主ストーリーである。ここにあるのは、法的な問題ではなく、倫理的な問題であり、背後に社会的問題がある。
 「蜆」は、蜆の闇屋をする男と、「僕」が外套の遣り取りのあと、男が「浅墓な善意や義侠心を胸から締出して、俺は生きて行こうとその時思ったのだ」と告白する。
 「虹」は、善意の学者の「先生」と、彼から翻訳の下請けを貰っている「私」と、街娼になれない「花子」の、心理的に絡み合うストーリーである。
 いずれも敗戦後すぐの、荒廃した人心を描いている。
 小説は、紹介するより、読んで貰う他ないものだ。
 梅崎春生は、1915年・生、1965年・没、享年わずか50.だった。
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フリー素材サイト「Pixabay」より、りんごの1枚。

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 大江健三郎の小説「水死」を読みおえる。
 講談社文庫、2012年・1刷。
 年老いて根気がなくなり、長編小説や難しい評論は読めないと書きながら(「サスケの本棚」などで)、文庫本で536ページの小説を読んでしまった。
 この小説の文体は、難しくない。大江の文章の呼吸といったものに慣れれば。
 内容が、何を言いたいのかわからない、とある喫茶店のママも嘆いたが、大江の大きなエモーションを感じるだけで良い。
 特殊な私小説だから、筋立てには、好都合が多く起きる。
 電話・対話の会話体、書簡・日誌の文章体が、自在に挟まれる。
 そして女優のヒロインが再び犯され、公演が中止になる、意外なアンチ・クライマックス。
 作家は、予定調和を(自身にも)信じていないようだ。

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