風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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小説

 和田たんぽぽ読書会の2月読書会の課題図書、中島京子「夢見る帝国図書館」を読み了える。
 僕は読書会を10月、11月と休み、1月例会も退院1週間の診察があり、参加できなかった。ブログには、昨年12月例会の記事が残っている。


夢見る帝国図書館
 2月課題図書は、中島京子の長編小説「夢見る帝国図書館」である。
 文藝春秋・刊、2019年7刷。404ページ。
 駆け出しの作家の「わたし」が喜和子さんと交流する話に、帝国図書館の歴史が挟まるのだが、同時代のパラレルワールドではなく、戦後焼け跡からの喜和子さんの物語が会話の多い文章体で、明治からの帝国図書館の物語がやや講談調で語られ、すっきりなじまない。末尾で、帝国図書館と喜和子さんの物語は結び付き、見事ではある。



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 沖積舎の「梅崎春生全集」第4巻(1984年・刊)より、6回めの紹介をする。
 同(5)は、昨年10月12日の記事にアップした。


 今回は、「時任爺さん」「阪東医師」「葬式饅頭」「遠足」の短編小説4編を読んだ。280ページ~303ページである。
 「時任爺さん」は1946年の青年の視点で、あと3編は、少年の視点で描かれる。
 いずれも庶民のいざこざ=トラブルを描く。また些細な食に絡めている。初出も1956年~1960年であり、「もはや戦後ではない」と言われ、高度成長期に入っていた。しかし梅崎春生は、取り残された庶民を含めて、すべての人が裕福にならなければ、豊かな社会と言えない、という思いがあるようだ。
 僕の「梅崎春生全集」読書の進捗が遅いのは、応接間で読むのも1因である。応接間には空調設備がないので、夏と冬は、あまり居座れないのだ。

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写真ACより、「ウィンターアイコン」の1枚。


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 三浦哲郎の小説「夜の哀しみ」(新潮文庫、上下巻)を読み了える。
 三浦哲郎の本では、昨年6月5日の記事に、短編小説集「冬の雁」をアップしている。


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 初出は、日本経済新聞・1991年9月14日~1992年9月13日である。新聞小説に文学を呼び戻す意気込みで始められた。
 出稼ぎの夫を持つ35歳の登世が、親友の夫・聖次と不倫関係になり、家での密会を息子に見られ、(堕胎、別れ、結核らしい病気を経て)、息子と娘にたかられるようになり、息子との取っ組み合いの末、首を絞めて失神か死亡かわからないまま、海に入水自殺をする結末を迎える。
 2、3年前、1度読みかけて、止めた本である。ぼくは不倫もの、愛人ものが苦手だった。パール・バックの「大地」も、主人公が富んで、愛人を住まわせるようになった所で、読書が中断した。
 35歳で1年の空閨は、耐えがたいものがあったかも知れない。三浦哲郎は、愛情と共感をもって登世を描いている。これまでと異質な世界である。


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 椎名誠の小説「黄金時代」を読み了える。
 このブログでは、今月20日日の記事、読み了えた10冊で、「鉄塔のひと その他の短編」を挙げたのみである。

「黄金時代」
 「黄金時代」は、単行本:1998年・文藝春秋・刊。文春文庫:2000年・刊。
 中学3年生から、写真大学生までの「おれ」の自伝的小説である。題名は、あとがきにある通り、逆の連想を以ってつけられた。つまり中高生時代、番長グループと単独で喧嘩対決を繰り返し、家を出て学資稼ぎのアルバイトに至る、闇黒時代である。喧嘩の肉体的衝撃や、心理の描写に迫力がある。
 顔や体に傷を受ける喧嘩は、僕は嫌いである。中学生時代、教師と切手の交換で貰った万年筆を同級生に折られた時も、高校生時代にサッカーでぶつかられて前歯2本を折った時も、茫然とするばかりで、怒りも弁償も湧かなかった。

 あとがきに、本当の「黄金時代」をまだ書けずにいる、とあるが、2002年・刊の「本の雑誌血風録」(既読)がその時代ではないかと、推測する。




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 23日間の入院(看護士の手厚い看護、主治医の丁寧な診察、妻の献身)を経て退院すると、家のネットが繋がらない。モデムの故障か、電話配線の内部断線と思われる。ドコモサポートセンターへ連絡すると、2週間後の訪問だという。前倒しを依頼した。
 その間、パソコンにCDのクラシックを掛けたりしながら、読書を続けた。以下に列挙する。
綿矢りさ「ウォーク・イン・クローゼット」講談社文庫
江國香織「ぬるい眠り」新潮文庫
プリーモ・レーヴィ「休戦」岩波文庫
俵万智「トリアングル」中公文庫
江國香織「流しのしたの骨」新潮文庫
田中小実昌「自動巻時計の一日」角川文庫
椎名誠「鉄塔のひと その他の短編」新潮文庫
カズオ・イシグロ「日の名残り」中公文庫
新井素子「ダイエット物語…ただし猫」中公文庫
ヘミングウェイ「危険な夏」角川文庫
 以上、個々に感想を書く機会はないと思うので、列挙しておく。
 この記事は、Wi-Fiでなく、スマホより慣れない入力で書いた。
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 有明夏夫の小説「俺たちの行進曲」を読み了える
俺たちの行進曲

 有明夏夫(ありあけ・なつお、1936年~2002年)は、1945年に福井県に疎開し、県内の勝山精華高等学校を卒業した。同志社大学工学部を中退し、後に作家となった。
 「俺たちの行進曲」は、文春文庫、1984年2刷。
 僕がなぜ、カバーが破れ、本文ヤケした、マイナーな本を手放さなかったかと言えば、舞台がわが福井県であり、福井方言がふんだんに出て来るからである。
 高校3年生の3人組み音楽部員(父子家庭、母子家庭、孤児院暮らし)が、異性への妄想や小冒険を繰り返し、ユーモラスにシリアスに生き延びてゆく。
 福井方言はディープで、軽く「さっきんてな」(先ほどのような)が出て来る。福井出身者以外に、すべての方言がわかるか、推測できない。

 僕は福井市方言に関心があり、ある詩人の助言を得たりしながら、ほとんど独力でエクセルの方言集を作成し、改訂を重ね、昨年末には550語に至った。
 有明夏夫が多感な時代を福井県で過ごし、福井方言に溢れた1編を残したことに、喝采を送りたい。


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 三木卓の長編小説「馭者の秋」を読み了える。
三木卓・馭者の秋
 集英社文庫、1988年・刊。379ページ。

 前ブログ「サスケの本棚」には、思潮社の現代詩文庫44「三木卓詩集」と小説「野鹿のわたる橋」の感想が残る。小説を他にも読んだようだが、確信がない。

 「馭者の秋」は、「わたし」(49歳、妻の死後に愛人あり)が息子・淳の恋人・多恵に恋情を抱くストーリーである。初恋の人にあまりに似ていて。共に男性に伝える魅力を自覚するタイプである。
 多恵が淳の子を妊娠している事を知り、父、保護者の心境と立場を取り戻す。
 細密な描写と、人生観の吐露が、長編小説を支えている。


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