三浦哲郎の長編小説「素顔」(講談社文庫、1980年・刊、346ページ)を読み了える。
 三浦哲郎の小説を読むのは、今年1月24日に記事アップした、「夜の哀しみ」(上下巻)以来である。


三浦哲郎「素顔」
 「素顔」は1度、読んだ事がある気がしたが、このブログでも、前のブログ「サスケの本棚」でも検索に引っ掛からないので、初めてだろう。冒頭部を何度も読んで、記憶に残ったのかも知れない。
 長編小説といっても、連作短編集に似て、12章より成っている。作家の馬淵、妻の菊枝、長女の珠子、次女の志穂、3女の七重、ブルドッグのカポネ、の1家に湧く騒動(いずれもハッピーエンドでおわる)を描く。長女が痴漢に遭いそうになったり、馬淵に助力を得たい文学青年に家の周りを徘徊されたり、郷里の同級生が亡くなって弔辞を読んだり、様々な事件が現れる。
 しかしこの中にも書かれているが、作家の2人の姉の自死、2人の兄の失踪は、背景にあり、それらの小事件が解決されてみれば、家族は(郷里の母を含め)平穏で幸福な生活と見える。
 三浦哲郎が最後まで、原稿用紙に万年筆で執筆したのかと思うと、僕にも感慨がある。