風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

不倫

 三浦哲郎の小説「夜の哀しみ」(新潮文庫、上下巻)を読み了える。
 三浦哲郎の本では、昨年6月5日の記事に、短編小説集「冬の雁」をアップしている。


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 初出は、日本経済新聞・1991年9月14日~1992年9月13日である。新聞小説に文学を呼び戻す意気込みで始められた。
 出稼ぎの夫を持つ35歳の登世が、親友の夫・聖次と不倫関係になり、家での密会を息子に見られ、(堕胎、別れ、結核らしい病気を経て)、息子と娘にたかられるようになり、息子との取っ組み合いの末、首を絞めて失神か死亡かわからないまま、海に入水自殺をする結末を迎える。
 2、3年前、1度読みかけて、止めた本である。ぼくは不倫もの、愛人ものが苦手だった。パール・バックの「大地」も、主人公が富んで、愛人を住まわせるようになった所で、読書が中断した。
 35歳で1年の空閨は、耐えがたいものがあったかも知れない。三浦哲郎は、愛情と共感をもって登世を描いている。これまでと異質な世界である。


 今村夏子の芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」を読み了える。
 朝日新聞出版、2019年7月10日・2刷。

むらさきのスカートの女
 到着は今月22日の記事、届いた3冊を紹介する(6)で報せた。リンクより、「こちらあみ子」、「あひる」の感想へ遡れる。



 「むらさきのスカートの女」は、時期によって働いたり働かなかったりする「むらさきのスカートの女」を、家賃の工面を諦めた、「黄色いカーディガンの女」わたしが、ホテル清掃業務員へ誘う話である。「むらさきのスカートの女」は、飲み込みも良く、職場の受けも良く、5日目でトレーニング終了となる。しかし所長と不倫を始め、備品をバザーに出したと疑われ、仲間喧嘩から逃げ出してしまう。アパートを訪ねた所長を彼女が突き飛ばし、倒れた所長を「わたし」は死んだと嘘をつき、逃亡させる。「わたし」は彼女の後を追って共に暮らすつもりだったが、彼女と行きはぐれる。
 これは低所得者を笑っているのではない。いったんは体制側に入りながら、無邪気さ(それは公園で子供たちと遊ぶ場面で繰り返し示される)故に、体制から落ちこぼれる女性を描いて、小説の反権力性を示している。弱者の誉れと悲惨を、微かなユーモアを含ませて、丹念に描く。



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 江國香織の短編小説集、「号泣する準備はできていた」を読み了える。
 長く文庫本棚にあったのだが、題名に少し引いていた。
 彼女の小説は、先の9月8日の記事、
同「きらきらひかる」を読む、に次ぐ。
概要
 新潮文庫。2007年、10刷。233ページ。12編の短編小説を収める。
 この短編集に由り、2004年、直木賞を受賞した。
感想
 初めの2編、「前進、もしくは前進のように思われるもの」、「じゃこじゃこのビスケット」は、男女の心の擦れ違いから生まれる、カップルの違和感を描く。
 この短編集に登場する男女は、どうしてこう不倫をするのだろう。夫が、妻が、あるいは双方が不倫をしている。標題作「号泣する準備はできていた」では、別れて出て行った男が、「ときどきやってきて、またでていく」という状態だ。
 だから最後の「そこなう」で、不倫相手の男が離婚して、「これからはずっと一緒だから」と言っても、満足感を持てない。
 一夫一婦制に無理があるとか、性の解放だとか言っても、今の社会では無理だろう。登場人物は、フリーランスか中産階級で、そのような放恣があり得るのだろう。
 「きらきらひかる」でも、ホモの夫の睦月は医師、妻の笑子は翻訳家、の設定だった。




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