風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

不安

 思潮社の現代詩文庫155「続・辻征夫詩集」より、1番めの、「天使・蝶・白い雲などいくつかの瞑想」抄を読み了える。
 現代詩文庫155の、メルカリを通しての入手は、先の2月17日の記事にアップした。


続・辻征夫詩集 (現代詩文庫)
辻 征夫
思潮社
1999-02T



 詩集「天使・蝶・白い雲などいくつかの瞑想」から、は7編の抄出である。「瞑想」と自称しても、既に僕が指摘したように、空想癖である。
 「拳銃」は散文詩で、少年時代に作った拳銃は威力があり、今も携えているが誰にも見えない、と主張する。少年時代に獲得した、詩作法だろうか。僕も少年時代に、竹鉄砲を作り、3叉のヤスを付けたゴム式・水中銛を作ったが、怖くて放棄してしまった。
 「天使」では、ヴィヨンの養父を挙げて新しがるが、ぼくは「ヴィヨン全詩集」を読んでいるので、驚かされない。
 「珍品堂主人、読了セリ」は、漢字とカタカナの散文詩(旧かな、古典文法)に、自作俳句4句を加えて、父への挽歌である。いかにも照れ屋らしい。
 「梅はやきかな」は、詩論「曲芸師の棲り木」で「私はいまでも詩は戦闘用語でかたるのがもっともふさわしいことがらではないかと思っている。」と述べた、敗戦6年前・生まれの詩人らしく、大軍艦の末路を描いて、戦闘的な内容である。「屑屋の瞑想録」の中に、「某総監の抒情」という、ありえない1章がある。
 「屑屋の瞑想録」には、「パン屋の奥さんの微笑」の1章があり、中産階級の幸福と共に、胸のしこりが癌の兆候らしい事に象徴した、不安を描く。
 これまでと比べて、真実へ進入する度合いが浅いようである。
3 (2)
写真ACより、「ガーデニング」のイラスト1枚。





このエントリーをはてなブックマークに追加

 tweetを通して入手した、神戸大学短歌会の年刊誌「神大短歌」vol.7を、ほぼ読み了える。
神大短歌vol.7
 2021年1月17日・刊。96ページ。「贈答歌」「付け句短歌」のページの余裕もある

 購入は先の2月27日の記事、届いた5冊を紹介する(3)に報せた。


 通読して気づくのは、大学生にして既に過去を懐かしむ歌や、自死の念に関わる歌のある事だ。
 句割れ、句跨り、字余りなどが自在に使われている。それらは社会への違和感や、対人の不安を、文字以外で微かに示すものではなかったか。
 1首評で、井井さんが服部真里子・第2歌集「遠くの敵や硝子を」より、次の1首を解き明かしている。「手のように白い梨むき逃れゆくものがみな夜逃れる不思議」。僕は「こんなもん知らんわ。放るわ」と放り出したい。井井さんは、「手」が過去に経験した手で、後半の断定的表現と相俟って、読み手に開かれているとする。「手のように/白い梨むき/逃れゆく/ものがみな夜/逃れる不思議」と各句を明確にすると、少しわかりやすい。
 僕は実は服部真里子の歌が好きで、第1歌集「行け広野へと」も第2歌集「遠くの敵や硝子を」も取り寄せて読んだ。第2歌集は、2018年11月9日の記事にアップし、第1歌集の感想にリンクしてある。残念ながら療養生活に入ったようで、現在の活動を僕は知らない。

 (リンクでは、画像が消えています)。

 以下に6首を上げて寸感を付す。
続かない美談を補訂していたが巨悪によって身を滅ぼした(府田確。安倍政権を指すか)
覚えてるビニール袋にいるときに金魚はいちばんうつくしいこと(奥村鼓太郎。幼年時代への感傷?)
ずっと戦ってきたんだ。やわらかに背筋を伸ばす術を知らない(上村優香。孤独に?戦う若者)
目薬を差すのが下手な君にだけ見える世界があると知った日(掃除当番。不器用な人の良さを知る成長)
寝ることに飽きて食事にも飽きてピアノ教室調べてみたり(緒川那智・OG。余裕か倦怠か)
町中が朝を迎える いいね 蝶 人間つねに悲しい足音(川嶋ぱんだ・OB。蝶を羨む程に不幸)


このエントリーをはてなブックマークに追加

 岡山大学短歌会の歌誌「岡大短歌」8号を読み了える。
 入手は、今月10日の記事、入手した4冊を紹介する(9)にアップした。



 また同・7号は、昨年12月23日の記事にアップした。


IMG_20200909_0001
 「岡大短歌」8号は、2020年8月15日・刊。45ページ.頒価:400円。
 Twitterのダイレクトメッセージで遣り取りして、指定口座に送料と共に振り込むと、早速送られて来た。上質紙であり、コストパフォーマンスも高いと思う。

 8首連作が10名、20首連作3名、30首連作1名である(重複する作者がいる)。雪舟えま、笹井宏之らの1首評4名(各1ページ)、H・琳の評論「時代の流れと読みの変化」3ページがある。
 月2回の歌会で、熱く、和やかに語り合っていると後記にある。
 若い恋の歌と共に、社会的不安、個人的不安を、ぶちまけたような作品がある。既に仕事をリタイアした者として、若者の健闘を願うばかりである。

 以下に5首を引く。
絵に描いたような約束 わたしたちは小石が成したモザイクアート(N・遠足)
うどん屋のたぬきの置き物さすったらしあわせになっているんだ私(H・琳)
思い出になるね、なんてね!丸ごとのももを流しでならんでかじれば(O・こみち)
必要のない絆とは手を切ってあらゆることに怯えたくない(B・なつ)
気づいたら後ろの人がいないみたいにあらゆる保証がされなくなった(M・航)



 

このエントリーをはてなブックマークに追加

 福井県俳句作家協会「年刊句集 福井県 第57集」より、3回目の紹介をする。
 同・(2)は、今月16日の記事にアップした。リンク記事より、関連過去記事へ遡れる。
概要
 「作品集」の「会員順」は、大きく8地区に分けられる。地区内の市町ごとに、おもに所属する会の内より、氏名のあいうえお順に作品が並ぶ。
 つまり長短はあっても、ほぼ同じ会の会員の作品が並び、作風がまとまっている感がある。
感想
 今回は、66ページ~106ページ(福井地区のしまい)まで、41ページ、81名の810句を読んだ事になる。前回で、半分ずつと書いたが、計算違いがあったようだ。
 短い詩型で、新しさを打ち出すのは難しい。生活実感の中で、これは、という句材を見つけて書き留めるのだろう。
 ぎすぎすした、不安な時代に、豊かな情感は救いである。以下の引用には、情感があって新しい句を選んだ。
引用

 以下に5句を引く。
頼りなき孫の歩みに蝶一羽(K・洋治)
七草や犬の餌に足す一しやもじ(U・恭子)
ふる里が口に広がるまくわうり(T・富美子)
石垣の揃はぬところ野菊かな(U・君枝)
草笛を吹くあの頃に戻れねど(M・桃翠)
0-31
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。


このエントリーをはてなブックマークに追加

 青磁社「永田和宏作品集 Ⅰ」(2017年5月・刊)より、第10歌集「後の日々」を読み了える。
 
第9歌集「百万遍界隈」は、先の9月25日の記事にアップした。
概要
 原著は、2007年、角川書店・刊。357首と、あとがきを収める。
 2001年~2003年の作品である。
 短歌の発表、多くの講演等をしつつ、日本細胞生物学会会長(2002年~2005年)など、学問の組織の長、役員としても多忙だったようだ。
感想
 乳癌の手術を受け、実父を亡くして、心の不安定な妻・河野裕子(彼女の歌に「あの時の壊れたわたしを抱きしめてあなたは泣いた泣くより無くて」他がある)を見守る歌と共に、近づく老い(54歳~56歳)の感慨めいて、優れた後輩、孫を詠んだ歌がある。母恋の1首も、引用に収めた。
引用

 以下に7首を引く。
平然と振る舞うほかはあらざるをその平然をひとは悲しむ
君よりも不安はわれに大きければ椋鳥のように目をつむるのみ
あきらかに我を越えゆくいくたりを目に確かめて挨拶を終う
名前のみとなりたる母の名を書けりわが知らねどもいつまでも母(受診票)
おさなごを抱きてぬるき湯に沈む胸と胸とが蛙のようだ
振り分けに玉葱を竿に乾していく妻がとにかくうれしそうなり
石の犬が石の玉嚙む境内の入口まで来て帰ろうと言う
0-90
写真ACの「童話キャラクター」より、「一寸法師」のイラスト1枚。





 

このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ