風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

不条理

 先の10月28日の記事、ふくい県詩祭で頂いた3冊、で紹介した内、同人詩誌「果実」81号を読み了える。
 同・80号を読む、は今年4月11日の記事にアップした。



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 同・81号では、教員経験者ではないかも知れないが、同人F・則行さんが代表の創作童話誌等の関わりからだろう、U・千枝美さんとK・八重さんが新しく同人に加わった。
 U・千枝美さんの「おさがり」から。彼女の詩集「ひこばえ」を含め、第36回・会員の詩集を祝う会(2017年9月17日の記事)で、K・八重さんがU・千枝美さんを良妻賢母の典型と紹介したから、そのようなイメージを僕は持っていた。しかし「兄のおさがりをねだった」等、ボーイッシュな願望があったようだ。もっとも「私もいいおばあちゃんになったなあ/と息子に思われたい」と良き家庭人か。
 N・昌弘「はしもと君やろ」は、施設に入った義父から、「はしもと君やろ」と無邪気に言われて落胆する話である。社会や政治の悪意ある不条理より、認知症の不条理が怖い。
 T・篤朗さんの「ラジオ体操」、「橋の上の風景」は、共に弱い少年を擁護している。
 エッセイでは、W・本爾さんの「「馬鹿ばやし」の紹介を兼ねて」が、地元の伝統芸能「馬鹿囃子」を紹介して貴重である。
 F・則行さんの「ぐうたらな老いのひと日」は、2019年8月21日の、5:50の起床より00:50の就眠までを、時間順に記録する。2新聞をていねいに読み、食前酒、缶ビールを飲み、午後には公園へ出掛ける。夜にはテレビを観、本を読んで眠る。世をサボタージュしたダルな1日を送る(彼は児童文学等に関わり、重要な役がある)のは、世を拒否する、というより非協力の抵抗だろう。


 思潮社「関根弘詩集」(1968年・刊)より、第4詩集「イカとハンカチ」を読み了える。
 昨年12月19日の記事
「関根弘詩集」の詩集「死んだ鼠」より…に次ぐ。リンクより過去記事へ遡り得る。
概要
 三省堂「現代詩大事典」(2008年・刊)にもウィキペディアにも、彼の欄に詩集「イカとハンカチ」はない。
 1958年・刊の真鍋博との共著「棗を喰った話」があり、同題の詩が「イカとハンカチ」にあるので、あるいは「棗を喰った話」の、自分が執筆した部分のみを収めて、詩集と称しているのかも知れない。

感想
 共産党員だったせいか、アヴァンギャルドを目指したせいか、表現が晦渋であり、初めの「過失の谷」、「変なやつ」が、何を意味するか、わからない。心理は微かにわかるようだが。
 「丸の内一丁目一番地」は、OLの危機感を描く。嫁ぐ未来だけでなく、「このままでは/いけないきがする」と、内なる目覚めである。
 「僕の基地」では、「不毛 飢餓/それが君の理性の王国だった」と書く。敗戦直後の焼け跡から出発したので、復興しつつある時代では、憤懣があるようだ。
 表題作「イカとハンカチ」は、何でも不条理と実存に結び付ける、当時の詩人を風刺するようだ。
 「ノコギリで ―原水協募金帳のために—」という作品もある。60年安保を契機として、彼は日本共産党と違う行動をし、除名された。その後はさらに活躍している。
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写真ACより、「乗り物」のイラスト1枚。



新しい猫背の星
 4月20日の記事「歌集2冊をダウンロード(5)」で報せた内、尼崎武・歌集「新しい猫背の星」kindle unlimited版を読み了える。
 Amazonでの諸版の発行年次、価格については先の記事で述べたので、ご参照ください。
概要
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズの1冊である。
 尼崎武(あまがさき・たけし)は、1979年・生まれ。枡野浩一によって短歌を知り、師事。
 第1歌集「新しい猫背の星」は、323首、光森裕樹・跋「「正直なたましい」ひとつで」、著者・あとがきを収める。
感想
 彼は、幸せを強く求めた。優れた妻を得て、子供も生まれるが、何が理由か、別れてしまう。
 正直で優しい人が幸せになるべきなのに、この世がはじき出してしまう。
 ここで社会論をぶつ積もりはないが、不条理な、歪つな世の中である。それでも生き抜かなければならない。
 いわゆるニューウェーヴの歌人が、不幸そうで、短歌の力が及ばない場合があるようで心配だ。若者に負荷を掛け過ぎる時代のせいもあるようだ。
 短歌の姿は、句跨りなどが多いが、ほぼ定型に収まっている。
引用
 以下に7首を引く。

白桃の産毛をむしる 生きてんのにさよならなんてなくないですか
一番の幸せがいい? 二番から十番ぜんぶ叶うのがいい?
かわいくてがんばり屋さんで運がいい そんな女を嫁にもらった
もう俺は今日から生まれ変わるのに昨日のことで怒られている
トイレから戻ってきたら産まれてた お父様に似てせっかちな子ですよ
笑顔でのさよならをもう恐れない 春の光に溺れていても
さよならが聞けてよかった ふらふらの足に真新しい靴を履く





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