このブログの今月9日の記事に、「川端康成文学賞 全作品 Ⅰ」より、第1回の上林曉「ブロンズの首」をアップした。

 その時に書いた、筑摩書房「増補 決定版 現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」を読む事にして、パソコン机の傍らに置いて、初めより読み始めた。
上林曉集
 函がヤケて、字がやや小さいが、本文は読むに良好である。

 上林曉は、敗戦前から活躍した作家だが、この「風致区」は1946年発表である。
 作者は吉祥寺の駅に降りると、井の頭池を1周する習慣があるという。池を巡って何百本かあった杉の木が、戦争末期に伐り取られ、畑地になった事を悲しむ。戦争末期に亡くなった、作家・田畑君の告別式のあと、作者と文芸誌の婦人記者だった竹本さん、作家・教授の引田君が偶然落ち合って、世間話をして別れる。ゲーテ「ウェルテルの悩み」をわずかに読んで慰められ、結末となる。
 敗戦期の侘しい心情と、井の頭池周囲の侘しさ、病妻をもつ個人的な侘しさと重なり合って、敗戦後の1心境を表している。
 この本には、44編の短編小説を収める。根を詰められなくなった僕には、短編小説集が適っている。
 「ブロンズの首」の記事にもう1つ書いた、集英社の「日本文学全集 52 上林曉 木山捷平集」には、上林曉の出世作「薔薇盗人」や、名作とされる「聖ヨハネ病院にて」も収められているので楽しみである。