沖積舎「梅崎春生全集」第3巻(1984年・刊)より、6回め、しまいの紹介をする。
 同(5)は、先の7月19日の記事にアップした。リンクより、過去記事へ遡れる。

 今回は、「十一郎会事件」、「紫陽花」、「侵入者」(「写真班」、「植木屋」、2編より成る)、「ある少女」の4編を読んだ。
「十一郎会事件」
 画家の早良十一郎が個展を開き、林十一郎を名乗る男(架空の「十一郎会」会員)に絵を騙して借り出されるれるものの、個展の最終日に絵に高級ウィスキーを添えて返される、ミステリーめいた1話である。

「紫陽花」
 野田三郎・青年に学資を支給していた、貴島一策・トミコ夫婦が、突然、毒物自殺してしまって、もう一人の娘さんと共に、支給を打ち切られる話である。理由は不明なままである。
「侵入者」
 「写真班」では、住宅金融公庫の写真班を名乗る男2人に踏み込まれ、勝手に屋内の写真を撮られる。電気屋も、強引に玄関ブザーを取り付けて行く。
 「植木屋」でも植木屋が、強引に庭木を植え付けて行き、あるいは中より抜き去って行く。
 経済が復興に向かう戦後10年、人心はまだ安定しない部分があり、小業者も取り残されそうで、強引になっている。
「ある少女」
 敗戦の年の秋、「私」が16、7歳の娘に外食券食堂で、芋1切れを恵もうとして、拒まれる。しばらくして、その少女はヤミ屋の売人になり、外食券や煙草を売るようになる。5年ほど後、その娘さんが裕福そうな奥様になり、3歳ほどの男児を連れていた、という後日談が付く。梅崎春生は、戦地や敗戦直後を描いて、迫力がある。
0-81
写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。