今月12日の記事、「届いた2冊」でアップした2冊のうち、初めの佐田公子・第4歌集「さくら逆巻く」を読み了える。
2011年9月、角川書店・発行。355首に「あとがき」、「著者略歴」を付す。
佐多公子さんは、僕の所属する短歌結社「覇王樹」の事務局を担当し、代表・佐田毅氏の夫人である。
入会手続きとその後、メールで何度もやりとりをしたけれども、温和な書きぶりの方である。
歌集は、息子さんがドーパミン過多で異常言動を示し、やむなく医療保護入院となる歌群から始まる。
切羽詰って相談する、警察や保健所の薄情さも描かれる。
自らは動脈乖離を病みもする。
また娘さんの住み着く沖縄を訪う「島風」の章がある。
彼女は1982年、大学の博士課程を修了しており、「古今和歌集」等の研究者であって、当時、東洋学園大学、日本医科大学等で講師を務めていた。授業の歌、学会の歌が混じる。
3月11日の歌、「覇王樹」九十周年の歌でもって、歌集を閉じる。
以下に7首を引く。
病棟に担ぎ込まるる子の声の耳に響きてへなへなと座す
「長男は犯罪者ではないんですが」家裁でわれは声殺し問ふ
病棟に帰らざる子を駅前にいかにかせまし 夕闇迫る
「お苦しみでせう」と言へる子狐の去りて尾花の翳に笑みをり
病む身にて初めて押さるる車椅子 何と優しく温ときものか
隣家に柿色づけり 子を逃れ家出せしより三度目の秋
押し寄する仕事の量に怯まざる力を得んや 夕つ黒富士