風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

作品集

 青磁社「永田和宏作品集 Ⅰ」(2017年5月・刊)より、第4歌集「やぐるま」を読み了える。
 
第3歌集「無限軌道」は、今月5日の記事にアップした。
 原著は、1986年、雁書館・刊。
 歌集名について、「π(ぱい)」などが候補に挙がったが、イメージ・チェンジして「やぐるま」に決まった経緯は、歌集で初めての「あとがき」で詳しく述べられる。
 作品は、1981年~1984年の4年間の作で、そのあと彼はアメリカで2年間の研究生活(家族同伴)を送る。
 彼は優しさに就いて、歌集「無限軌道」で「やさしさはやさしさゆえに滅ぶべし 夕ぐれの野を漕げる野あざみ」と読んで、圧し留めようとしている。
 それは歌壇や生物学研究で、ライバルと厳しく競争しなければならなかった故だろう。ただし女性歌人や子どもたちには、優しい面もあったようだ。
 また妻の歌人・河野裕子との関わりも、多く詠まれている。
 この期に、作品発表の他、評論(「普遍性という病」、「虚像論ノート」、他)、対談(斎藤史、岡井隆)、女性短歌討論会(河野裕子、阿木津英、道浦母都子、永井陽子ら)の企画・司会など、短歌活動は盛んだった。
 以下に7首を引く。
草原に汽罐車ありき鉄塊は銹びて臓器のごとくやさしき
もの言わで笑止の螢 いきいきとなじりて日照雨(そばえ)のごとし女は
将来を未来に賭けて待つべくも銹(さび)つつ虚空に朴(ほお)しずもれる
精神の岬灯(ひ)ともし怺えおるゆえ願わくば迂回されたし
悪口雑言いきいきとして艶めくに思えばおまえになき喉仏
あるときは枝として子がぶら下がるゆさゆさと葉を繁らせてわれは
にこやかにわれの時間をかすめゆく「できれば」と言い「ぜひ」と重ねつ
0-41
写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。





 青磁社「永田和宏作品集 Ⅰ」(2017年5月・刊)より、第2歌集「黄金分割」を読み了える。
 今月26日の記事、
第1歌集「メビウスの地平」に次ぐ。1977年10月、沖積舎・刊。
 「黄金分割」とは、2:√5+1に分割する(ほぼ1対1、618)事を指し、長方形の縦と横との関係など安定した美感を与える比とされる(電子辞書版広辞苑第6版より)。
 2子(長男・淳、長女・紅)を得て、新婚の性愛が薄れたか「胸の首夏・心の晩夏こもごもに愛の終りを推り合いつつ」の歌がある。無給の研修員(妻と子二人)ながら、研究、塾講師、作品・評論の執筆と、「この時期から数年間がもっともよく働いた時期かもしれない。」と年譜で述べる。
 また歌集出版ととほぼ同時期に、評論「問と答の合わせ鏡」を「短歌」に発表して、有名な「合わせ鏡理論」を始める。
 「黄金分割」の巻末に、4章からなる連作「首夏物語」があり、弟殺しを主な主題とする。しかし年譜に拠れば、彼に弟は居ず、自身の少年性を殺すテーマがあったかも知れない。また4歳で母と死別し、継母に妹が生まれており、複雑な想いがあったのかも知れない。
 以下に7首を引く。
窓に近き一樹が闇を揉みいたりもまれてはるか星も揺らぎつ
かなしみが夕映えのごとふさふさと身に相応(ふさ)うまで誘われてゆけ
酔うためにのみ飲むごとき夜幾夜、子あり妻ありゆきずりのごと
わがうちにのみ母として居給うか無蓋貨車とおく野をよぎりゆく
夜の窓に撓みて水のごとき樹々 ことばやさしくわが拒まれぬ
身の内に滅びしものは告げざるを肉はきりきり風に吹かるる
向日葵を焚けば地平は昏みつつ故なく憎まれ来し少年期
0-33
写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。




CIMG9406
 今月13日の記事で紹介した「永田和宏作品集 Ⅰ」より、栞と第1歌集「メビウスの地平」を読み了える。
 同・集は、これまでの11歌集と、年譜、初句索引を収めて、821ページの大冊である。
 栞には、馬場あき子が先輩として、高野公彦、小池光が同輩として、三枝昂之、大辻隆弘が後輩として、励ましの言葉を寄せている。
 第1歌集「メビウスの地平」は、1975年、茱萸書房・刊。
 永田和宏は1947年に生まれ、母が結核発病のため別居、4歳で母の死に遭い、母の面影が無いという。
 1967年・「塔」に参加、河野裕子に出会い、また第5次「京大短歌」創刊。1972年・河野裕子と結婚、1975年の「メビウスの地平」発刊、現代歌人集会賞・受賞に至る。
 僕より3歳の年上である。この業績の違いは何だろう。僕は僕なりに、苦闘して来たと思うのだが。
 「自分の1首を以って、短歌史を一変させてみせる、…と意気込んでいました。」とかつて述べた(「新版 作歌のヒント」)が、それらの劇しい歌と共に、河野裕子との相聞の優しい歌がある。
 以下に7首を引く。名作、傑作として、人口に膾炙する作品はできるだけ避けた。
かくれんぼ・恋慕のはじめ 花群に難民のごとひそみてあれば
言うなかれ! 瞠る柘榴の複眼に百の落暉を閉じこめきたる
惑星の冷たき道を吹かれくるあざみ色なる羞しさの耳
あの胸が岬のように遠かった。畜生! いつまで俺の少年
昏睡の真際のあれは湖(うみ)の雪 宥(ゆる)せざりしはわれの何なる
鏡の中いまはしずかに燃えている青貝の火か妻みごもれり
見抜かれていたることすらさわやかにかなかなの鳴く夕暮れなりき





CIMG9424
 BRILLIANT CLASSICS版の廉価版「ヴィヴァルディ作品集」(全66CD)より、9回目、44枚目の紹介をする。写真は、紙ジャケットの表。
 前回、
同・8回目、37枚目の紹介は、6月12日の記事にアップした。
 この44枚目と次の45枚目で「完全版 チェロソナタ集」と称するらしい。
 しかしWikipediaに当たってみると、RV38~RV47の全10曲のチェロソナタの内、RV38を除く9曲を収録するのみである。作曲年代はほとんど不明である。なおRVは、ヴィヴァルディの作品の頭に付ける記号である。
 RV47変ロ長調は、重々しい曲であり、第4章でわずかに軽やかになる、
 RV43イ短調は、それほど悲しげではない。
 RV40ヘ長調は、叙情的である。CD収録順に拠る。
 クラシック音楽に詳しくない僕なので、読者は何かの方法で、ヴィヴァルディの曲を聴くことをお奨めする。





CIMG9406

 どこでだったか忘れたが、「永田和宏作品集Ⅰ」の発行を知って、読みたいと思った。著名な歌人であるが、僕は単行本歌集、アンソロジー歌集を、まったく読んでいなかったからだ。歌誌や歌人家族の本で、まれに接した。
 さっそくAmazonで検索すると、品切れだった(今はどうか知らない)。
 そこで発行元の
青磁社のホームヘージより探る。左下の「ご注文とお問い合わせ」に、つながるメールアドレスが載っている。そこで図々しくも、1冊を送ってくれるよう、情報を入れて注文した。これらの本で、注文がごったがえしているかと思ったが、3日後の7月11日(火曜日)に届いた。
 定価7000円+税。送料・無料。郵便振替料・無料。
 11歌集を収めているので廉価であり、「Ⅰ」と銘打つからには、「Ⅱ」以後の発行を約束したようなものだ。
 全歌集類の積ん読が多いので、いつかわからないが、近い内に読みたい。


↑このページのトップヘ