風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

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侘しい

 吉田篤弘・月舟町三部作より、第1作「つむじ風食堂の夜」を読み了える。
 入手は今月15日の記事、入手した5冊を紹介する(7)で報せた。


 リンクより、連作第2作の「それからはスープのことばかり考えて暮らした」の感想へ、遡れる。

つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫)
吉田 篤弘
筑摩書房
2005-11-01



 月舟町の食堂(店主はフランスで修行した事があるが、今は安食堂を営んでいる)、つむじ風食堂(元は名無しだが、客が自然にそう呼ぶようになった)の常連客、先生と呼ばれる私(降雨の研究を目指すが、今は売文に追われている)、帽子屋の桜田さん、果物屋の青年、古本屋の親方、売れない女優・奈々津たちの物語である。侘しい街の住人ながら、サラリーマンは一人も現れない。
 善良な人々だが、悪意ある人々に追いやられたような、生活を送っている。私は昔、戯曲を書いた事があるから、女優・奈々津に台本を書くよう頼まれ、「ね?わたしを助けてやってください。女優・奈々津を女にしてください」とまで言わせながら、煮えきらない程である。
 ノスタルジックな、ファンタジーめいた小説である。村上春樹もファンタジックな小説を描くけれども、彼には社会性があり、悪への反撃を含む。読み了えて、ああ良い小説だったなあ、で済んでしまっては、読み捨てられる可能性が大である。



01 (2)
 写真ACより、鉢植えのイラスト1枚。
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 このブログの今月9日の記事に、「川端康成文学賞 全作品 Ⅰ」より、第1回の上林曉「ブロンズの首」をアップした。

 その時に書いた、筑摩書房「増補 決定版 現代日本文学全集 補巻8 上林曉集」を読む事にして、パソコン机の傍らに置いて、初めより読み始めた。
上林曉集
 函がヤケて、字がやや小さいが、本文は読むに良好である。

 上林曉は、敗戦前から活躍した作家だが、この「風致区」は1946年発表である。
 作者は吉祥寺の駅に降りると、井の頭池を1周する習慣があるという。池を巡って何百本かあった杉の木が、戦争末期に伐り取られ、畑地になった事を悲しむ。戦争末期に亡くなった、作家・田畑君の告別式のあと、作者と文芸誌の婦人記者だった竹本さん、作家・教授の引田君が偶然落ち合って、世間話をして別れる。ゲーテ「ウェルテルの悩み」をわずかに読んで慰められ、結末となる。
 敗戦期の侘しい心情と、井の頭池周囲の侘しさ、病妻をもつ個人的な侘しさと重なり合って、敗戦後の1心境を表している。
 この本には、44編の短編小説を収める。根を詰められなくなった僕には、短編小説集が適っている。
 「ブロンズの首」の記事にもう1つ書いた、集英社の「日本文学全集 52 上林曉 木山捷平集」には、上林曉の出世作「薔薇盗人」や、名作とされる「聖ヨハネ病院にて」も収められているので楽しみである。



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