風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

信仰

 三浦哲郎・短編小説集「愁月記」(7編)より、5番目の「居酒屋にて」を読み了える。
 今月8日の記事、同「夜話」に次ぐ。
概要
 この短編に至って、僕はこの本を以前に読んだ事があると気づいた。前ブログ「サスケの本棚」にも記録がないから、2007年4月以前に読んだのだろう。
 この作品は、ショッキングだったようだ。また再読を、後悔しない。短編集ながら、構成は複雑で、込められた思いを充分には感じ取れていなかったのだろうから。
感想
 若い看護婦(現在は看護士)が夜更けの居酒屋で深酔いしている。おかみとの遣り取りを、作家が耳に入れる設定である。死に際の老男性が乳房に触れようとする事について、「…たったいちどだけって、涙を浮かべて拝んでは手を伸ばしてくるんだから。やりきれないわ」。「拝むと間もなく亡くなるから」。「どうしても厭だとはいえないの、あたし」。
 「わかった。今夜もまた、拝まれてきたんだ」(おかみ)。「そうなの。だんだん手垢にまみれてくるわ」。
 躰が汚れた、結婚を諦めたと、豊満な娘さんがストイックに嘆く。
 老男性の死に際の無念を救ってくれるなら、神仏よりも尊いと、感銘を受ける。
 「夜話」でも挙げた、「神なき信仰」に関わるだろうか。僕は信仰を持たない。信仰なき祈り、はある。
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写真ACより、「キッチングッズ」のイラスト1枚。



 三浦哲郎・短編小説集「愁月記」(新潮文庫、1993年・刊、7編)より、4番目の「夜話」を読み了える。
 今月3日の記事、
同「からかさ譚」に次ぐ。リンクより、過去記事へ遡り得る。
概要
 16ページの短編ながら、4章(無題)に別れている。
 飼い犬のブルドッグ「ボス」の老いて、死に至り、遺骨を八ヶ岳山荘の近くに埋めての、異変譚までを描く。
 作家の親族、家族への情愛は、飼い犬にまで及び、冷静ながら親しく書かれている。
感想
 詩人・鮎川信夫は「(戦死者の)遺言執行人」を名乗ったが、三浦哲郎もまた1族の成り行きを小説に遺したといえるだろう。もっともその他のフィクション、伝記的な作品もある。僕が読み進められなかったからかも知れないが、「夜の哀しみ」(新潮文庫、上・下巻)など、なぜ不倫のストーリーを描いたのか分からない。
 エピソードの1つに、フィラリア予防は気慰めくらいにしか効かない、というのがある。僕は2代の犬を飼ったが、2匹目はフィラリアで死んだ。知識がなく、外飼いの犬は9割くらいフィラリアに罹ると知らなくて、予防をしなかった。エピソードにわずか、慰められる。しかし医学の発展があるから、20年くらい前の事ながら、あるいは救えた命かも知れない。それ以来、ペットを飼わせてもらえない。
 山荘の犬の墓や写真の異変譚に、霊魂の存在を信じているような所がある。神仏は信じていなかったようだが、神なき信仰というものはあったかも知れない。
 家族に可愛がられて生き死にした、ペットの物語である。
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写真ACより、「キッチングッズ」のイラスト1枚。




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 先の11月20日の記事「届いた1冊、頂いた7冊」で報せた内、「2018 ふくい詩祭」の席で、とくし ともこさんに頂いた詩集「ひかり いのち」を読み了える。
 なおその記事の8冊の内、2冊をまだ取り上げていないが、今回で完了としたい。
概要
 2018年11月15日、文芸社・刊。87ページ。
 39編の詩を収める。プロフィールによると、2009年以来の第3詩集である。
感想
 彼女はある寺の住職の妻(坊守)である。県内の坊守の詩人を、他にも知っている。
 坊守が信仰、仏事、檀家等に就いて詩に書くと、無信仰の僕に響かない。他の困り果てた人が、宗教に縋るのを、否定はしないけれども。
 この詩集の場合、彼女が悪性リンパ腫の闘病をし、部屋に閉じ籠もって鍵を掛け、動物・子ども・花を避けねばならない時期があった(「抗癌剤治療」より)。「大きないのちにつつまれて」、「私がリンパ腫になったとき」、「恵まれて七年」、「生かされて」などの作品でも、寛解に至るまでとその後を描いている。
 この時こそ、信仰と創作の癒しの威徳を感じたであろう、と推察する。
 お会いした時は顔色もよく、大病をされたとは感じさせなかった。


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 今月20日の記事、「届いた1冊、頂いた7冊」で紹介した内、3番目の千葉晃弘・詩集「降誕」を読み了える。
概要
 2018年11月1日、鯖江詩の会・刊。134ページ。46編と「あとがきに代えて」、初出1覧、著作1覧を収める。
 詩集「ぼくらを運んだ電車」より、17年ぶりの詩集である。
 彼は同人詩誌「青魚」の発行者である。彼のおおらかな性格に惹かれ、様々な詩人が集まっている。「来る者は拒まず、去る者は追わず」の方針らしく(明文化された事はない)、散文のみの人を含め、現在の同人16名、No.89に至っている。
感想
 標題作の「降誕」は、クリスマス・イヴにケーキを買って帰るサラリーマンを描く。クリスチャンという訳ではなく、あとがきで「信仰に支えられた人間を示し合うべきと…」と述べている。
 若い母を描いた「おひつ」「アーちゃん」、中年の母を描いた「クレオン」「しゃがむ母」、晩年の母を描いた「夕焼け」「ジェスチャー」「母の遺言」。若い父や義父たちを描いた「十八番」、晩年の父を描いた「便所博士」。彼風の挽歌、魂鎮めだろう。
 少年時代からの友人、学生時代に下宿した幾つかの寺の住み込み人たち、と回想の詩が多い。なりゆきで結婚したという妻、なりゆきでケイタイを買いなりゆきで買い直したと、人生の真実をユーモラスに描いた「つれあい」、母の遺影の前に水を一杯置き、妻の前に罪ほろぼしのために1盃を置くという毎日の、しみじみとした作品「一杯」がある。
 「非凡なる凡人」と、「炭焼きの山と谷」~「生徒手帳」の5編は、散文詩でエッセイ風でもある。
 疎かな詩人たちを率いて、大人(たいじん)の歩みを続けてほしい。



 

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