風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

全集

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 沖積舎「梅崎春生全集」第3巻(1984年・刊)より、初めの紹介をする。
 
第2巻の了いの記事は、今年2月14日にアップした。
 今回に僕が読んだのは、「輪唱」(「いなびかり」、「猫の話」、「午砲」の3作品より成る)、「赤帯の話」、「黒い花」の3編である。
「輪唱」
 「いなびかり」は、仏師だけれどもモク拾いをしている「おじいさん」、それを巻いて売っている「おばあさん」の話である。おばあさんが稀に鯨肉を買って来ると、野良猫に半分食われてしまい、火吹き竹で横面を殴りつける。
 「猫の話」では、若者の部屋に居着いた猫が、「いなびかり」の話で殴られてふらふらと自動車に轢かれ、その姿が消えるまでを、若者は窓より眺めている。
 「午砲」は、午砲を打つのが仕事の「叔父さん」と「少年」の物語である。前作の「若者」の少年時代の話らしい。
 3作とも、戦後の貧しい、生への執着が露わな作品である。
「赤帯の話」
 シベリア抑留中の「私」たちが、「赤帯」と呼ばれる人情味ある監督に接する話である。人間関係、食事などに、もっと苛酷であったように読んでいるが、そのような事態があったかも知れない。
「黒い花」
 
未決囚(女性)より裁判長への上申書の形を採っている。継母との確執、敗戦、ダンスホールへ通うようになり、不良たちと混じるようになり、殺人を犯してしまう経緯を、縷々と述べている。
 犯罪者の生い立ちとして、形式化があるようだけれど、戦後すぐの犯罪者として、ありえた話だろう




 沖積舎「梅崎春生全集」第2巻(1984年・刊)より、9回目、了いの紹介をする。
 
同・(8)は、昨年8月8日の記事にアップした。
 今回、僕が読み了えたのは、「流年」、「偽卵」、「囚日」、「黄色い日日」の、4短編小説である。
 半年も前に読んだ短編小説を、よく覚えていない。この本も了いに近かったから、ブログの題材になるな、と思って残りを読んだだけである。
「流年」
 30歳を越した古書店主「椎野貫十郎」(従軍経験あり)が、ある飲み屋の娘「民子」に恋し、結婚する(すぐ子供も生まれる)話である。珍しいハッピーエンドで、嫌味がない。
「偽卵」
 知人の判決裁判の傍聴に来て、懲役8年の判決が降り、知人の恋人が「私」に擦り寄る気配を見せる所で終わる。
「囚日」
 「脳病院」を医師に案内される話と、知人の保釈申請の話が繋がる。この時期の梅崎春生は、神経症患者や犯罪者に関心があったようだ。
「黄色い日日」
 気弱い追い立てを食っている下宿人の「私」、大家の闘鶏家の「白木」、犯罪事件を起こした知人の「三元」、週刊誌記者の「中山」、等が絡んでいる。「中山」と主人公「彼」がM精神病院を案内される話が出て来る。
 いずれも1948年、1949年に初出の短編小説で、敗戦後の生きて行く事は出来るが、貧しく困窮した世相を描いている。
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写真ACより、「ファンタジー」のイラスト1枚。


 角川書店「増補 現代俳句大系」第12巻(1982年・刊)より、14番目の句集、秋元不死男「万座」を読み了える。
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「定本 木下夕爾句集」は先の11月28日の記事で紹介した。
概要
 原著は、1967年、角川書店・刊。1950年~1966年の826句、「あとがき」を収める。第3句集。
 同「大系」第8巻より、
第2句集「瘤」については、前ブログ「サスケの本棚」の2014年1月15日の記事で紹介した。
 秋元不死男(あきもと・ふじお、1901年~1977年)は、戦後1947年、「現代俳句協会」設立発起人となる。1948年、山口誓子・主宰の「天狼」創刊に参加。1949年、同・系の「氷海」創刊のち主宰。
 1961年、「現代俳句協会」脱会、「俳人協会」設立に参画。
感想
 俳句を生業として生きる決意が、句で吟じられている。
 句集「瘤」の時代から、「降る雪に胸飾られて捕へらる」の句のように、暗喩を用いた作に長じていた。
 しかしそれらレトリックも過ぎると、論語「巧言令色鮮(すくな)し仁」の諺のように、滋味少ないように感じられる。
 苦労をかけた妻が、彼の句を褒め、彼の行動を支えたようで、羨ましい点ではある。
 俳句を生業としながら、収載句数は別として、生涯に4冊の句集しか持っていない。1980年、「秋元不死男全集」全2巻(角川書店)がある。
引用

 以下に5句を引用する。
冷されて牛の貫録しづかなり
電工のいちにち高し原爆忌
悔と言ふ語音短し寒(かん)長し
まだ死ねぬ泥濘凍てて星揃ふ
鷗らに円遊の浮標(ブイ)年暮るる
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写真ACの「童話キャラクター」より、「白雪姫」のイラスト1枚。




 河出書房「ドストエーフスキイ全集」(米川正夫・個人全訳)第2巻(1956年・刊)より、短編小説「九通の手紙に盛られた小説」を読み了える。
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短編小説「プロハルチン氏」は、今月4日の記事にアップした。
 7通の往復書簡と、それぞれの妻の手紙、2通より成る。
 書簡体小説らしく、いきなりトラブルめいた書簡で始まり、2人のいかさまカルタ師が1人の田舎領主の青年から、お金を巻き上げていたが、1人が金を独占して姿をくらましている事がわかる。
 しかし、2人に暴露された妻たちの手紙に拠って、2人の妻とも青年と密通していた事が明らかになる。このどんでん返しは、さほど面白くない。
 兄への手紙で、ドストエフスキーがお金が無くてネクラーソフの所へ寄った時、この小説のアイデアが浮かび、さっそく1晩で書き上げたと、伝えている。ドストエフスキーには自負があったようだが、当時の評論家・ベリンスキーも否定的だった。解説には他に、ゴーゴリ、ツルゲーネフの名前が出て来て、19世紀ロシア文学の隆盛を知る。
 短編小説は読みやすく、長大な小説で知られるドストエフスキーに、これら短編がある事は好ましい。
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。



 沖積舎「梅崎春生全集」第2巻(1984年・刊)より、8回目の紹介をする。
 
同・(7)は、今年5月23日の記事にアップした。
 今回に僕が読んだのは、「猫男」、「傾斜」、「一時期」の、3短篇小説である。
 いずれも1948年(昭和23年、敗戦後3年目)の初出である。戦後だが、僕の誕生の前だと思うと、不思議な気がする。
 「猫男」は、口からは出まかせの嘘も言い、偽りの行ないもして、社会の底辺を渡る中年男を描く。どの社会にも、一人はいるタイプの人物で、その卑怯さを作者は注視している。
 「傾斜」は、クリスチャンで闇屋の鬼頭鳥子、娘の花子、太郎の家に間借りする事になった「彼」が、気づくと部屋は馬小屋と隣り合っていた、という話だ。鳥子の矛盾(?)、花子の顔の火傷、子供ながら博打をする太郎、「彼」の戦時体験など、混乱の残る世界を描いている。
 「一時期」は、戦中の役所で、若手ばかりの仲間が、日中から隠れて博打をしたり、飲み屋に行列したりする話である。設定は梅崎春生と合うので、幾らかは事実だったかも知れない。彼らには徴兵、更には敗戦まで、予感されていたのかも知れない。
 第2巻で残るのは、あと4短編小説である。読み了えたなら、ここで紹介したい。
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。


 河出書房「ドストエーフスキイ全集」(米川正夫・個人全訳)第2巻(1956年11月・刊)より、初めの短編小説「プロハルチン氏」を読み了える。
 先の6月24日の記事で紹介した、同・第1巻の
「ネートチカ・ネズヴァーノヴァ」に継ぐ。
 貧しい下級官吏・プロハルチンが、「役所が閉鎖される」という、冗談を信じて悩み、床に就く。同じ下宿の下宿人やかみさんに騒ぎ立てられたあげく、亡くなってしまう。
 下宿人たちが、彼のへそくりを引きずり出すと、2,497ルーブリ50コペイカあった、という落ちが付く。下宿代は月5ルーブリとされているから、その多額さが知れる。
 小心な官吏が、真面目に節約し、酒も博打も関わらないで中年まで生きて来て、たちの悪い冗談に惑わされて、狂気の果てに亡くなってしまう、喜劇立てじみた悲劇である。
 ドストエフスキーが、「分身」を発表した後、幾多の中短編を書いた、その第1作である。ドストエフスキーはその手紙で、「プロハルチン氏は大変評判がいい」と報じている(巻末・解説より)。
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写真ACより、「お花屋さん」のイラスト1枚。


 河出書房新社「ドストエーフスキイ全集」第1巻(1958年・2刷、米川正夫・訳)より、第2作「分身」を読み了える。
 同・第1作
「貧しき人々」は、先の4月30日の記事にアップした。
 主人公・ゴリャードキン(下級官吏、後に旧ゴリャードキンとも呼ばれる)が、何か大金を得て、心因性の診察を受ける身でありながら、入手した以上の額の買い物の約束をする。主人公はまた、イヴァーノヴィッチ家の食事会で入室を拒まれ、失態を演じてしまう。
 職場では、同姓同名同郷を名乗る男(新ゴリャードキンとも呼ばれる)が雇われ、ずるい方法で主人公の功績を奪い、上役にも取り入ってお気に入りとなり、主人公を愚弄する。主人公は悩みの果て、精神科病院へ送られる。
 解説等では、新ゴリャードキンを、主人公の幻覚だとするが、僕はフィクションながら有り得る話だと思う。貧しい下級官吏の世界では、悪辣な人物が居ても、おかしくはない。
 主人公の大金の入手と、上流家庭への進出の意向は、あるいは「貧しき人々」で成功した、ドストエフスキー自身から得た着想かも知れない。
 中編小説かと思っていたが、かなりな長編小説だった。
 「貧しき人々」と「分身」は、昔に読んだ記憶があるが、次の「ネートチカ・ネズヴァーノヴァ」は初めてで、難渋するか、興味を持って読めるか、今はわからない。
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写真ACより、フラワーアレンジメントの1枚。




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