風の庫

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前川幸雄

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 前川幸雄・鄭建・訳の田恵剛・小説集「孤独なバラ」(朋友書店、2016年3月・刊)より、3回め、最後の紹介をする。
 同・2回めの
記事(←リンクしてあり。おもに後日の読者のため)は、12月1日付けでアップした。
 「生存の権利」は、1986年・発表。
 癌で様々治療を受けて治らない男性と、有力者の息子に妊娠させられて去られた娘が、万里の長城の一画らしい所で、自殺しようとして偶然に出会う。
 その出会いと会話によって、男性は生の最後まで闘う事を、娘は将来を生きる事を、決意して決着となる。非リアルな、観念小説の色合いがある。
 「ハイヒールの靴を履いた若者」は、1987年・発表。本書で2ページの掌編である。
 お揃いのダスト・コート、ラッパズボン、ハイヒールの青年男女が、電車に乗ろうとして、娘は乱暴者に囲まれ、男性は電車からはみ出してしまう1景である。中国の新しい世代の風俗として、前川さんが衝撃を受けた1編である。


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 1昨日の記事(←リンクしてあり。後日の読者のため)で書いた(1)に続き、田恵剛・小説集「孤独なバラ」の2回めの紹介をする。
 今回に僕が読んだのは、「螺旋」と「青い呼び掛け」の2編である。
 「螺旋」は1986年・発表、翻訳は鄭建さんが検討、「青い呼び掛け」は1985年・発表、前川幸雄さんが検討、双方が翻訳文を確認した。
 「螺旋」は、美しい女性建築士が交通事故に遭い、顔と足の怪我、片目失明の状態になり、恋人の男性が、将来と良心の間で苦しんだが(女性とその家族も別離を願う)、現実の障害を持つ娘さんと男性の恋人(もうすぐ結婚する)と出会い、一生を女性建築士と進もうと決心が着く所で終わる。やや長い、男性の心理変化を追う、小説である。
 「青い呼び掛け」は、女性一人、男性二人の、画家の物語である。パリへ留学して帰国しない男性画家と、その帰りを「十年でも待つ」という女性画家、彼女に惹かれるが事情を知って、パリ留学のうちにその男性を帰国させようと約束する、男性画家のストーリーである。「生活を把るか、芸術を把るか」の問題が、世俗的にも観念的にも描かれる。
 この本で残るのは、「生存の権利」と掌編「ハイヒールの靴をはいた若者」のみである。
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 先の11月21日の記事(←リンクしてあり)で紹介した、「2016ふくい詩祭」(11月20日開催)のおり、前川幸雄さんより、このブログで紹介してくれるなら、という事で、彼と鄭建さんの翻訳した田恵剛・小説集「孤独なバラ」を、送って頂く約束をした。
 前川さんは、おもに漢文学を研究し、上越教育大学教授、福井大学教授等を、歴任した。
 また現代詩を創作・発表する傍ら、中国現代詩の邦訳の先駆けとなり、5冊の訳詩集(田恵剛・詩集「大地への恋」を含む)を発行した。現代中国の小説の翻訳・出版は、これが初めてである。
 共訳の鄭建さんは、1953年、上海生まれ、日本語を学んで日本語講師の資格を得、1991年~1993年、前川さんの指導を受けた。
 著者の田恵剛さんは、1944年・生、詩より始め、小説をも書いた。
 前川幸雄さんを中心とする出版が、商業ベースに乗らないで、続けられた事は貴重である。
 この小説集は、短編6編を収めており、今回僕が読んだのは、初めから2編、「除名された新鋭」「鳩笛は青空に響き渡る」である。
 「除名された新鋭」は、有望な女子水泳選手(17歳)が、上層部の不正に反発してチームを辞めさせられるが、希望の持てる結末を迎える。
 「鳩笛は青空に響き渡る」は、軍隊の療養所に配属された娘さん二人が、幹部指導員と対立しながら、やがて理解が始まる。
 内部対立を描きつつ、読者に希望を持たせるのは、公式的な終わらせ方故ではない、と信じたい。

 
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