ひとさらい
 先の11月27日の記事で到着を報せた、笹井宏之の歌集2冊の内、第1歌集「ひとさらい」を読み了える。
概要
 夭逝の歌人、笹井宏之(ささい・ひろゆき、本名・筒井宏之、1982年~2009年、享年26.)は、難病の「重度の身体表現性障害」(著者あとがき、より)を患い、初め楽曲制作等を行っていたが、よりエネルギーの少なくて済む短歌創作へ移っていったようだ。
 21歳の頃から歌を創り始め、「第4回歌葉新人賞」受賞、結社「未来」への参加、と2度の転機があったようだ。
 「ひとさらい」は、「未来」入会前、2005年3月~2006年4月までの作品を、歌人の加藤治郎・荻原裕幸が携わって纏めた。2011年1月、書肆侃侃房・刊、2015年9月・3刷。
感想
 1代限りの、前衛短歌の復活だろうか。岡井隆の重厚、塚本邦雄(少ししか読んでいない)の華麗に対し、命懸けの軽業(綱渡り、梯子乗り、等)だろうか。
 「八月のフルート奏者」の感想(初めの「笹井宏之の歌集2冊」より辿れる)で、ポップ感と書いたけれども、それは佐賀新聞文芸欄を読む祖父母を意識したもののようで、この歌集ではファンキーな感覚である。ファンキーとは、あるサイトに拠ると「いい意味で、型にはまっていなくて、一風変わっているさま」の意である。
 引用歌にあるが、暗喩の中庭で歌意を拾い上げ、生の真実を表わす。
 これも引用歌に、昭和戦後の庶民の像も、捉えている。
引用

 以下に7首を引用する。
風という名前をつけてあげました それから彼を見ないのですが
父さんが二百メートルほど先のいくさで子猫ひろって帰る
羊歯のふり巧みになって帰宅する農家の人とすこししたしい
野菜売るおばさんが「意味いらんかねぇ、いらんよねぇ」と畑へ帰る
「ねえ、気づいたら暗喩ばかりの中庭でなわとびをとびつづけているの」
安物の衣類をまとい夕暮れと夜のさかいに立ち尽くす主婦
食い荒らし食い荒らされて生きてゆく にんげんたちの一夜の宴