短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、15番目の歌集「晩冬」の(前)をアップする。
 今月11日の記事、
同「石の上の霜」に次ぐ。
概要
 原著は、1980年、短歌新聞社・刊。1058首、著者・後記を収める。
 1058首と大冊なので、前・後の2回に分けて紹介する。
 前歌集より、約3年後の刊行である。
 「晩冬」の歌集編は、全歌集の473ページ~534ページの62ページを占める(1ページ20行)ので、(前)では半分の509ページまで、「北陸風土記(五)」のしまいまでを取り上げる。
感想
 1977年、第2の職場「安田製作所」(専売公社を1967年・定年)を退職し、後記で歌人は「従前よりは幾らか作歌に専念することができた」と述べている。
 読んでみて、この歌集には力感があり、自己の老い、北陸の風土を見詰めて、深みがある。
 果せるかな、この歌集で初の歌壇の賞「第8回日本歌人クラブ賞」を受賞した。後の「短歌研究賞」、「迢空賞」につながる。
引用

 以下に7首を引く。
かなしみの清まるまでに年経しと雪の夜にしてひとり思ひつ
有る物の限りに包(くる)む媼らの寒き朝朝鯵を振り来る
原発の温排水にこの海の海鼠の類も絶えたるらしき
鯖の骨口を刺すまでに老いたるか独りに言ひてひとりさびしむ
ひとときの今の眠りにありありと亡き母を見き機(はた)を織りゐき
道の上に見つつ羨む豌豆の吾が作るより花ゆたけきを
高高に負ひて商ふ笊売の媼よ冬の日は短きに

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 写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。