風の庫

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北陸

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、16番目の歌集「雪代」を読み了える。
 今月23日の記事、
同・「晩冬」(後)に次ぐ。
概要
 歌集「雪代(ゆきしろ)」の原著は、1982年、短歌新聞社・刊。先の「晩冬」の、約2年後の刊行である。
 710首、著者・後記を収める。
感想
 歌集「晩冬」は、日本歌人クラブ賞を受賞したが、この歌集に授賞はなかった。スイッチバック式で、一旦引いてから先へ進む道もあるだろう。
 世の歌人には、シンデレラ・ガールのように栄誉の階段を駆け上がる人も、彼のように営々と詠んで晩年に評価される人もいるのだ。
 彼は北陸の風土と人々を描くと決意していたが、やや暗い面に執したかに見える。これは北陸にほとんどの生涯を送っている、僕の見方、負け惜しみだろうか。
引用
 以下に7首を引く。
着る物に野焼の炎移りしと老の死はいつの時も痛まし
黄塵の日と雨の日とこもごもに北ぐにの春定まるらしも
この村を征(い)でて果てにし兵の墓型(かた)を一つにみな新しき
その後も言ひて憎みき親(ちか)き者屑藷すらに分たざりしを
事つひにあからさまなる現実の怖れとなりぬ言はないことか(敦賀原電事故)
塩鯖を笊に商ふ媼らよ老いて病むなきまた業(ごふ)ならむ
春鯖の網を繕ふ老の頸(くび)いづれ辛酸の皺美しき
0-02
 写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。




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 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」より、15番目の歌集「晩冬」の(後)を紹介する。
 今月19日の記事、
同・(前)に次ぐ。大冊なので、前・後の2回に分けて紹介する。
概要
 この歌集の概要は、大略を上記リンクに記したので、ご参照ください。
 今回は、後半509ページ(「涌井」)より537ページ(後記)に至る、29ページ(1ページ20行)を読み了える。
感想
 北陸の自然、貧に耐える人々、自分の職を辞した老い、また老妻等を描いた、感銘深い作品が多い。
 職業的に近い立場だから、共感が多いのではないかと恐れる。学生や現職の人には、感銘薄いのではないか、というような。
 主情と客観の対立を越え、歌境も深まったのだろう。しかし後記では、「これらの作品は私の念念からはまだまだ遠い」と書きつけ、努力の意を述べている。
引用
 以下に7首を引く。
柊の花しづかなる冬の日にゆきて少女(をとめ)の汝(なれ)を見にしか(婚後五十年)
煮てもなほ口を開かぬ蜆など朝より老の忿りを誘ふ
妻の眼のなほたしかにて日野川の水の寒鮒を作りくれたり
割る海胆(うに)の上にそれきりなりしとふ老を羨(とも)しむ今日の葬りに
雪の上に杉より落ちて刺さりたる短き垂氷(たるひ)数限りなし
この夜を荒れつつ雪の降りたきか海の上にして雷のはげしさ
残る者は水に虹鱒を養ひぬ清滝川の上流にして

0-17
写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。




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 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、15番目の歌集「晩冬」の(前)をアップする。
 今月11日の記事、
同「石の上の霜」に次ぐ。
概要
 原著は、1980年、短歌新聞社・刊。1058首、著者・後記を収める。
 1058首と大冊なので、前・後の2回に分けて紹介する。
 前歌集より、約3年後の刊行である。
 「晩冬」の歌集編は、全歌集の473ページ~534ページの62ページを占める(1ページ20行)ので、(前)では半分の509ページまで、「北陸風土記(五)」のしまいまでを取り上げる。
感想
 1977年、第2の職場「安田製作所」(専売公社を1967年・定年)を退職し、後記で歌人は「従前よりは幾らか作歌に専念することができた」と述べている。
 読んでみて、この歌集には力感があり、自己の老い、北陸の風土を見詰めて、深みがある。
 果せるかな、この歌集で初の歌壇の賞「第8回日本歌人クラブ賞」を受賞した。後の「短歌研究賞」、「迢空賞」につながる。
引用

 以下に7首を引く。
かなしみの清まるまでに年経しと雪の夜にしてひとり思ひつ
有る物の限りに包(くる)む媼らの寒き朝朝鯵を振り来る
原発の温排水にこの海の海鼠の類も絶えたるらしき
鯖の骨口を刺すまでに老いたるか独りに言ひてひとりさびしむ
ひとときの今の眠りにありありと亡き母を見き機(はた)を織りゐき
道の上に見つつ羨む豌豆の吾が作るより花ゆたけきを
高高に負ひて商ふ笊売の媼よ冬の日は短きに

0-27
 写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。


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