風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

 お報らせです。2020年9月6日で以って、Kindle本「少年詩集 鳶の歌」を自力発行致しました。原稿は自分で作成し、表紙はデザイナーさんにお願いしました。上梓は自力で行いました。
 Amazonの「Kindleストア」カテゴリで、「少年詩集 鳶の歌」と検索すれば、すぐに出て来ます。右サイドバーのバナーよりも至れます。僕のペンネームは柴田哲夫です。価格は500円ですが、Kindle Unlimited版を追加金無料で購入できます。多くの方のご購読を願っております。

受賞

 綿矢りさの小説「蹴りたい背中」を読み了える。
 デビュー作「インストール」の感想は、1昨日、3月20日の記事にアップした。



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 第2作「蹴りたい背中」は、19歳・大学生での芥川賞・受賞となった。
 河出書房新社・刊、2003年8月:初版、2004年2月:26刷。
 文章体と語り口体とが入り混じっている、親しみを感じさせる文体である。太宰治の愛読者とは、驚きだった。
 高校1年生の女子・ハツと男子・にな川は、共にクラスでのはぐれ者で、言葉を交わすようになる。しかし、にな川はファッションモデルで売り出し中のタレント、オリチャンの熱狂的なファンで、ハツを好意の対象としない。ハツは、にな川の部屋にゆき、唇まで奪うが、「好きとは落差のある」感情を持つのみである。
 ハツの旧友(高校ではそんなに親しくない)の絹代と3人で、オリチャンの初ライブにゆくのが山場だろう。にな川の背を、ハツは作品中で2度蹴っている。
 好きでもない関心の、もやもやを丹念に描いている。



 和田たんぽぽ読書会3月例会の課題図書、藤田宜永「愛の領分」を読み了える。
愛の領分
 藤田宜永(ふじた・よしなが)は1950年、福井県生まれ。先の1月30日に亡くなった。
 この「愛の領分」で、第125回直木賞・受賞。
 主人公の淳藏(50歳代、妻を亡くしている)と恋人の佳世(39歳、独身)、ほか様々な男女の情の絡み合いが描かれる。
 淳藏の昔の恋人・美保子が不治の病となって、また淳藏を恋うのも哀れである。
 ハッピイエンドの結末は流し読みした。幸せな恋人たちは放っておいて好い。
 作者は「愛の領分」としているが、欲情絡みの男の見方に思えてならない。



 11月16日の、第61回 覇王樹全国大会の席上で配られた、歌誌「覇王樹三重」No.125をほぼ読み了える。
 受贈は先の11月24日の記事、贈られた3冊にアップした。

 

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 「覇王樹三重」は、覇王樹の三重支社が発行する歌誌である。No.125は、2019年9月30日・刊。38ページ。
 故・N・志郎氏の巻頭言「牧水と山田など」、歌集未収の「橋田濤聲(東聲)の投稿歌十一首(「山鳩」所載)」に次ぎ、覇王樹賞受賞後作品として、K・恵美さんの「過ぎゆく日々」40首が置かれる。
 次いで橋本俊明氏の研究「坐忘居雑筆 「覇王樹」ゆかりの作家たち(32) 白瀧しほ―人と作品」が5ページに渉る。
 「作品」欄には、10名が数10首ずつ発表している。1ページ23首と、やや込み合っているのが惜しい。費用の面もあるだろうけれど、もう少し余裕がほしい。
 「サロン」と題するエッセイ欄には、9名が思い思いに綴っている。歌だけでなく、散文への欲求もあるのだろう。
 傍系誌のあるありがたさは、僕も季刊同人歌誌に父母の挽歌の連作を載せてもらって、よく知っている。
 「覇王樹三重」の編集発行人は、橋本俊明氏である。研究熱心な、爽やかな方との印象がある。


 以下に4首を引く。
 K・恵美さんの「過ぎゆく日々」より。
ときかけて一汁三菜の夕餉終う昨日もひとり明日もひとり
 O・孝一さんの「逆光」より。
逆光に車椅子押す介護士のシルエットを追ふわれは試歩行
 U・安世さんの「永らへて」より。
拳あげてオレンジ自由化反対を訴へたりしも遥かとなりぬ
 橋本俊明氏の「紅熟」より。
滝底を撃つ巌壁を水落ちて夏の那智滝男と思ふも


 現代詩作家・荒川洋治氏(高校文芸部の1年・先輩)の恩賜賞・日本芸術院賞受賞記念講演が、8月17日(第3土曜日)の午後2時より、福井県立図書館の1室で行われ、僕も予約聴講した。
 詩の催しとして、今年6月24日の記事、第2回「蝸牛忌」参加の記に次ぐ。

荒川洋治 講演会
 午後一時半、会場に着くとすでに開場しており、待ち合わせた詩人のA・雨子さんが廊下にいない。会場内に彼女の姿を見つけ、(3椅子1組の右端に座っていたので)1つ後ろの席に座り、約束していた「方言集」新版3部、室生犀星の「我が愛する詩人の伝記」(古本、ビニールカバーに包んで)を渡した。
 講演のあとサイン会があるということで、何も持って来なかった(先日に買った現代詩文庫「続々 荒川洋治詩集」を持って来れば良かった)僕は、そのサイン会で方言集を渡そうと、A・雨子さんより1部を戻してもらった。


 講演者の荒川洋治氏の入場、登壇には会場(定員150名1杯)から、暖かい拍手が起こった。県・教育長(?)より、記念品・贈呈。
 講演は、詩・評論の活動を振り返って始まった。小学生時代は内気な子で、自分で打破するべく、中学校の生徒会の書記・会長を務めたこと。中学時代、国木田独歩の「山林に自由存す」に倣って海岸の松林を巡ったところ、20余編の詩が生まれ、自信が付いたことなど。
 ユーモアを交え、時に毅然と語り、僕は小声で笑ったり涙を拭ったりして聴いた。高校生時代の思い出として、僕の本名(フルネーム)やM・晴美さんの名前も挙げられた。
 後半、僕は腰が痛くなり、迷惑になる前にいったん退席し、喫茶室でアイスコーヒーを飲んで、休憩した。20分くらいで席に戻った。講演は自作「美代子、石を投げなさい」の朗読で、予定の3時40分丁度に結着した。講演終了・退場にも会場より、惜しみない拍手が送られた。

 サイン会の前、廊下で荒川洋治氏に方言集を、「プリントの粗末なものですけど」と手渡して、一礼した。
 帰ろうとすると、作家・評論家のH・二三枝さん(高校文芸部の後輩)に会ったので、「荒川さんに挨拶したら」と促した。彼女は「このあと、荒川さんたちと三国町(2人の出身地)で、慰労会(?祝賀会?)があるの」と言うので、僕は思わず「羨ましいなあ」と嘆声を上げた。




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 kindle unlimited版の歌集を続けて読んで来たが、初発行の古い本が多く、最近の話題・歌集を読んでみようと、佐藤モニカ・歌集「夏の領域」を読み了える。
 紙本の歌集を買ったのは、今年2月8日に感想をアップした、
藤野早苗「王の夢」以来である。
 「夏の領域」は今、Amazonでプレミアが付いているが、第2刷が出たので、発行所の「本阿弥書店」のホームページより注文して、定価2,600円+消費税+送料160円(郵便振込・無料)で送って貰った。
 又吉栄喜、吉川宏志、俵万智、3氏よりの栞が付いている。第1歌集。310首、著者・あとがきを収める。
概要
 彼女は、歌壇賞、この歌集で「現代歌人協会賞」、「日本歌人クラブ新人賞」を受賞した。
 詩、小説でも受賞歴のある、多才な人である。
 1974年・生、「心の花」所属。現在、沖縄県・在住。
感想
 比喩の多い歌である。「如き歌人」とは呼ばないが、目障りだな、と感じた。
 しかし日系3世の母親の血、東京住まい、沖縄県生活の、3つの生の共通項を感じて、また違和を感じて、作歌するのだろう。
 比喩とは「林檎のような頬」が「赤く丸い」という共通項と、しょせん違うという違和の上に、成り立つ修辞である。
 落語家となった弟はブラジル国籍なのか、「兵役辞退の手紙投函」や「いつか戦場へ行くかもしれず」と詠まれている。
引用

 以下に7首を引用する。
はちみつに漬けた甘さの恥づかしさ接客をするわたしの声は
舞台(いた)の上で人を笑はす弟はいつか戦場へ行くかもしれず
ベランダに父のシャツ揺れ君が父と向きあふ間風を見てをり
聞き耳を立ててはならず夫がまた猫に仕事の相談するを
みどりごを運ぶ舟なりしばらくは心臓ふたつ身ぬちに抱へ
人の世に足踏み入れてしまひたる子の足を撫づ やはきその足
呼びかくれば小さく応へゐる吾子のまだ不揃ひの睫毛光れり




 

 昨日に続き、邑書林「セレクション歌人3 江戸雪集」(2003年・刊)より、「「椿夜」抄」と「「椿夜」以後」を読み了える。
 邑(ゆう)書林の「セレクション歌人」は、歌論集1冊を含めて、全34冊のシリーズである。「別冊セレクション歌論」を除き、平均160ページ、定価1、300円(+税)となっている。
概要
 江戸雪(えど・ゆき)の第2歌集「椿夜」は、2001年、砂子屋書房・刊。
 ながらみ現代短歌賞、咲くやこの花賞(大阪市・主催)文芸部門、受賞。
 「セレクション歌人」になぜ、この「椿夜」を完本で入れなかったか、疑問が残る。
感想
 彼女は結婚しても、心の危機に見舞われたりする。そして、あとがきに「いつのまにか私は詠うことなしには夜もまともに眠れなくなった。」と書くほど、短歌に没頭する。
 妊娠・出産を経ても、わが子可愛い、だけでは済まず、社会との和解は成されない。
 ひらがなの使いどころ、会話体の使い方に、優れている。
 「「椿夜」以後」は、この本で4ページ、23首のみである。
引用

 以下に8首を引く。
くらがりに時がどっぷり充ちていて街のボタンをすべておしたし
たたかったくらいで過去にしないでね坂道くだる長い胴体
川ねかす町にみしみし妊りて目がくらむまで光吐き出す
のぞまれてだいじにされていたりけり夏には夏の柊が立つ
ふゆくさのような髪して子よわれを愛しつづけよ憎みつづけよ
わが身体えぐり生まれしおさなごは月光のごとしずかに坐る
こわいのよ われに似る子が突然に空の奥処を指さすことも
忙しくしている友の声清しわが耳黒いつぼみとおもう
(「「椿夜」以後」より)
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写真ACより、「おもてなし」のイラスト1枚。




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