風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

困窮

 谷崎精二・個人全訳「ポオ全集」(春秋社・版)第1巻より、4回めの紹介をする。
 同(3)は、先の5月27日の記事にアップした。



 今回は、「穽と振子」「細長い箱」「タア博士とフェザア教授の治療法」、3編を読んだ。
 「穽と振子」は、宗教裁判で残酷に殺されようとする「私」が、次第に降りて来る振子の刃の下で台に固定される刑から逃れ、次第に狭まる菱形の焼けた鉄板からも、敵軍の侵攻によって救われる、空想的な話である。
 「細長い箱」は、誠実なワイヤットが妻に急死され、郵船でニューヨークへ運ぶべく、木の箱に入れて乗せ、難破した郵船と共に(脱出の機会がありながら)沈む話である。大事にする木の箱の中身への関心で、読者を引っ張る。
 「タア博士とフェザア教授の治療法」は、精神病院の患者たちが看護師らを監房に押し込め、奇妙な盛宴を催す話である。

 ポオの生活困窮、アルコール依存による混乱か、悪い冗談のような内容になって行くのが惜しい。
 記憶の「穽と振子」では恐怖を感じたのに、今回は感じなかったのは、僕の感性・想像力の衰えか。翻訳が悪いのではないだろう。

棺
写真ACより、「棺」のイラスト1枚。


 先の4月15日の記事、入手した3冊を紹介する(8)で報せた内、Kindle版「室生犀星作品集」より、「抒情小曲集」を読み了える。


室生犀星作品集
 この作品集の作品の順番は、分類別でなく、題名のあいうえお順なので、独特である。室生犀星の詩集は、古い岩波文庫(1965年・12刷、自選)しか持っていないので、新しく多くの詩に出会える。

 「抒情小曲集」は、「愛の詩集」に次ぐ第2詩集(同年に刊行された)である。
 94編の短詩を集めている。白秋、朔太郎、自分、他の序文が長い。
 「特つた」(持った?)、「青さ波」(青き波?)、「葱はおとろゆ」(衰ふ?)等の、誤りと見られる箇所がある。
 「みやこへ」(7行)には、「けさから飯も食べずに/青い顔してわがうたふ」のフレーズがあり、生死を賭けた、飯よりも詩が好きな例の、詩である。
 3部の内の第2部に移ると、5音句・7音句が多くなり、「時無草」のような冷たい抒情が見られる。
 第3部の「街にて」では、「…服は泥をもて汚され/…/れいらくの汚なき姿をうつす/…/血みどろに惨としてわれ歩む」と困窮の様を描いた。
 小説家へ移行して成功するまで、当時の多くの若者詩人の一人だったのだろう。


 沖積舎「梅崎春生全集」第2巻(1984年・刊)より、9回目、了いの紹介をする。
 
同・(8)は、昨年8月8日の記事にアップした。
 今回、僕が読み了えたのは、「流年」、「偽卵」、「囚日」、「黄色い日日」の、4短編小説である。
 半年も前に読んだ短編小説を、よく覚えていない。この本も了いに近かったから、ブログの題材になるな、と思って残りを読んだだけである。
「流年」
 30歳を越した古書店主「椎野貫十郎」(従軍経験あり)が、ある飲み屋の娘「民子」に恋し、結婚する(すぐ子供も生まれる)話である。珍しいハッピーエンドで、嫌味がない。
「偽卵」
 知人の判決裁判の傍聴に来て、懲役8年の判決が降り、知人の恋人が「私」に擦り寄る気配を見せる所で終わる。
「囚日」
 「脳病院」を医師に案内される話と、知人の保釈申請の話が繋がる。この時期の梅崎春生は、神経症患者や犯罪者に関心があったようだ。
「黄色い日日」
 気弱い追い立てを食っている下宿人の「私」、大家の闘鶏家の「白木」、犯罪事件を起こした知人の「三元」、週刊誌記者の「中山」、等が絡んでいる。「中山」と主人公「彼」がM精神病院を案内される話が出て来る。
 いずれも1948年、1949年に初出の短編小説で、敗戦後の生きて行く事は出来るが、貧しく困窮した世相を描いている。
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写真ACより、「ファンタジー」のイラスト1枚。


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