石川書房「葛原繁全歌集」(1994年・刊)より、第6歌集「鼓動」を読み了える。
 先の3月17日の記事、同「又々玄」を読む(後)に次ぐ。
概要
 原著は、1989年、短歌新聞社・刊。1980年~1983年の278首、著者・あとがきを収める。
 短歌新聞社の「現代短歌全集」の1冊となった。
 この間に、「玄」3部作による読売文学賞・受賞、仕事上での一線を引く、弟の死、肺病による8ヶ月の初入院、等があった。
感想
 写生、社会詠、生活詠に、純化しなかった。家長として家族(故郷の母、弟を含む)を助け、歌誌「コスモス」の活動に手腕を発揮したようだが、歌人として今一つ純粋でないように思えた。
 しかし戦争体験を経て、生活と社会に対する態度の一致、を求め続けたように思える。
 生前の最後の歌集であり、以後没年(1993年)までの歌は、この全歌集に「鼓動以後」として収められた。
引用

 以下に7首を引く。
足もとの砂をす走る波の先伸びきはまりて横ざまに退(ひ)
休みなく手と足を振りわが膝にゐて柔らかし孫といふもの
まのあたり変転を写し裁かるる江青の顔端正不屈(変転)
患者としこの夏逝くか病棟の側壁に来て鳴く油蟬
帰り来し我が家の真上汝(な)は亡きに虹かも立てる面影のごと(弟逝く)
行く風の息のまにまに吹雪く花あるものは高く吹かれつつ舞ふ
うから率て出湯にひと日遊びつつ病癒えたる喜び分つ
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写真ACより、「キッチン・グッズ」のイラスト1枚。