風の庫

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方言

 有明夏夫の小説「俺たちの行進曲」を読み了える
俺たちの行進曲

 有明夏夫(ありあけ・なつお、1936年~2002年)は、1945年に福井県に疎開し、県内の勝山精華高等学校を卒業した。同志社大学工学部を中退し、後に作家となった。
 「俺たちの行進曲」は、文春文庫、1984年2刷。
 僕がなぜ、カバーが破れ、本文ヤケした、マイナーな本を手放さなかったかと言えば、舞台がわが福井県であり、福井方言がふんだんに出て来るからである。
 高校3年生の3人組み音楽部員(父子家庭、母子家庭、孤児院暮らし)が、異性への妄想や小冒険を繰り返し、ユーモラスにシリアスに生き延びてゆく。
 福井方言はディープで、軽く「さっきんてな」(先ほどのような)が出て来る。福井出身者以外に、すべての方言がわかるか、推測できない。

 僕は福井市方言に関心があり、ある詩人の助言を得たりしながら、ほとんど独力でエクセルの方言集を作成し、改訂を重ね、昨年末には550語に至った。
 有明夏夫が多感な時代を福井県で過ごし、福井方言に溢れた1編を残したことに、喝采を送りたい。


 土曜美術社出版販売の新・日本現代詩文庫150「山田清吉詩集」より、4番めの「田んぼ」全篇を読み了える。
 先行する「藁小屋」(抄)は、先の7月22日の記事にアップした。



 詩集「田んぼ」は、2001年11月、町田ジャーナル社・刊。21編を収める。
 「無題」では、風水害に因るのか、冬になっても刈り取られない稲を描いて、農民の悔しさを表す。「足折れて 手ちぎれて 首折れて/初雪に覆われて/野垂れ死んだ稲」と比喩する。
 「貌」では、戦場の息子を想い、一人(稲の禾に悩まされながら)田の草取りをする母の姿が描かれる。
 「はんたいこら」では、「息子の嫁が己の先に死んで/ただでさえ心がてきんなっているのに/孫等もみんなで己を大事にしすぎる」と、老媼の心境を描くに、方言を使う。
 「仕事師
(しごとせ)」では、シベリア抑留から帰って農に励み、鍬の柄は擦り減ってくびれていた、という1つの生き方を示す。
 「春さきに」では、トラクター事故で亡くなる老翁を表す。
 「あんさん」では、「あのあんさんはよう働きなった」と、働き者の老人の死を、詩人・岡崎純へのリスペクトか、「ごえしたのう」と似る方言で結んでいる。
 この詩集「田んぼ」は、亡くなった農の先達と共に、孫にも伝わる農の血を描いた、農の曼荼羅といえる。
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写真ACより、「カーメンテナンス」のイラスト1枚。



 土曜美術社出版販売の新・日本現代詩文庫150「山田清吉詩集」より、「べと」全篇を読み了える。
 新・日本現代詩文庫の受贈は、先の6月23日の記事、入手した5冊を紹介する(5)にアップした。



山田清吉詩集
 アンソロジー詩集の、表紙写真を再掲する。ビニールカバー付き。

 第1詩集「べと」は、1976年、木立ちの会・刊。16編を収める。
 なお「べと」は、「泥」「土」「粘土」の意味の方言である。今ネット検索すると、新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県、静岡県、岐阜県、愛知県、奈良県、鳥取県、愛媛県の、それぞれ1部地域で使われるとある。
 「べとなぶり」の語もあり、「土いぢり」の意味で、「園芸」「陶芸」を指し、謙譲語めく。

 詩集「べと」には、働き詰めで田で倒れた父など、農民の苦しみと共に、「列島改造論」による農地転用によって、田畑が高額で売れて戸惑う姿も描かれる。
 また戦時下空襲後の様を描いて、後に明らかになる反戦のテーマが始まる。
 今、卒寿を越えられた山田清吉の、長い労働と思索・詩作の始まりである。


 三浦哲郎の短編小説集「冬の雁(がん)」を読み了える。
 三浦哲郎の作品では、昨年12月8日の記事にアップした、エッセイ集「おふくろの夜回り」以来である。



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 居間の文庫本棚より、読む本を探しているといると、三浦哲郎の「百日紅の咲かない夏」も目に留まったが、テーマが重く長編小説なので、後の機会に譲った。
 「冬の雁」を見てみると、短編小説集なので読むことにした。全17編。
 文春文庫、1989年1刷。古ぼけて、150円のブックオフの値札が貼ってある。本文までヤケていて、僕が喫煙時代(58歳まで)に買った本だろうか。

 初めの「花いちもんめ」は、養女と父親の、相愛的感情が描かれる。
 出身の青森県の方言が行き交う、逞しく生きる人々の物語がある。
 そして現在の、作家と家族の幸せな家庭も描かれる。
 故郷で、脳血栓で倒れ、病院に寝たきりの母親を、何度も見舞うストーリーもある。母親の死の物語は、どこかで読んだ記憶があるが、長い療養中の話は、この本が初めてではないだろうか。
 1族の暗い宿命のストーリーの1つとして「紺の角帯」は、40余年前、兄が失踪する前、恋人に残した一本の角帯を、その女性から贈られるストーリーである。

 エロス、ユーモア、シリアスと、読者をほろりと楽しませてくれる、名短編ばかりである。





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