風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

書肆侃侃房

 先の9月18日の記事、入手した4冊(4)で紹介した内、小坂井大輔・歌集「平和園に帰ろうよ」Kindle Unlimited版を読み了える。
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズとして、9月15日の記事、寺井奈緒美・歌集「アーのようなカー」同を読むに次ぐ。

4・小坂井大輔 平和園に帰ろうよ
 「平和園」とは、名古屋駅西口にある、中華料理屋であり、小坂井大輔の実家で職場である。ここに多くの歌人が訪れ、歌人の聖地と呼ばれる。記名帳には、多くの歌人の名前が記され、憧れの地となっているという。
 笹公人のツイート写真では、小坂井大輔は体格の良い、スポーツマン風である。歌集には、試合・部室の語の入る歌もあった。フィクションも混じるだろうが、ヘタレの歌を詠み、生き辛そうである。
 歌集を進むに連れて、レトリックが上手になって、空転しているような歌はつまらない。
 短歌と人気と収入で、歌集出版に至ったことはめでたい。


 以下に7首を引く。
値札見るまでは運命かもとさえ思ったセーターさっと手放す
株券が紙きれになる阿阿阿阿と居間で小さな父がのた打つ
無くなった。家も、出かけたまま母も、祭りで買ったお面なんかも
雨の音をアプリで買って聴いている晴れの日こんな午後に死にたい
母親が手押し車を欲しがる日なぜか生あくびが止まらない
苦しいと狂おしいってよく似てるあめあめふれふれもっともっとだ
おれもテフロン加工してくれ困難で焦げつく身体だから頼むよ


 これまで記事にアップしなかったけれど、寺井奈緒美・歌集「アーのようなカー」Kindle Unlimited版をタブレットにダウンロードしており、先日に読み了えた。
寺井奈緒美「アーのようなカー」
 書肆侃侃房・新鋭短歌シリーズ46。同シリーズとして、先の8月3日の記事、二三川練・歌集「惑星ジンタ」に次ぐ。

 単行本:2019年4月11日・刊。価格:1,836円。
 Kindle版:2019年8月2日・刊。価格:1,600円。
 掲載首数、不明。東直子・解説「「そこにいた時間」の新しい豊かさ」、著者・あとがきを付す。

 優しさを施したい、求めたい心情がある。言葉の斡旋がうまく、レトリックが上手になって、人生の真実味が深まらないようだ。
 あとがきに「色を失っていたのは街ではなく自分自身だったのだと、ようやく気がついた。」とある。人生の暗部も見つめつつ、歌に拠って、危うい時代を生きて行ってほしい。

 以下に7首を引く。

舌打ちの音でマッチの火が灯るようなやさしい手品がしたい
フジツボのように背中を張り付かせ駅の柱はやさしい岩場
コピーアンドペーストのため囲われた文字に地下への隠し通路を
追い炊きのボタンを君に埋め込んで一年経つが未だ押せずに
戦前を生きるぼくらは目の前にボタンがあれば押してしまうね
街をいく人たちみんな大根を持っているけど何かの予兆
再生をされてトイレットペーパーになったら隣り合わせましょうね


二三川練 惑星ジンタ
 先の7月23日の記事、歌集2冊をダウンロードで報せた内、二三川練「惑星ジンタ」を読み了える。
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズ(Kindle Unlimited版)として、7月25日の記事、惟任將彦・歌集「灰色の図書館」に次ぐ。
概要
 ダウンロードのリンクに、諸版の発行年次、価格を示したので、ご参照ください。
 294首、東直子・解説「日常と幻のゆらぎ」、著者・あとがきを収める。
 二三川練(ふみがわ・れん)は、当時、日本大学大学院博士後期課程・在籍。寺山修司の短歌と俳句を、研究対象とする。
感想

 歌人の性別が、最後までわからなかった。「あとがき」の中でも「僕」と自称するので、男性である。作品中で「僕」を自称する女性はいるだろう。
 初めは具体的で、読みやすいかな、と思った。
 しかし同棲の事情など、公にできない事柄が増えたのか、抽象的な、あるいはシュールな詠みぶりとなる。
 惑星の7つを詠んだ連作は、題詠が苦手なのか、無理をして俗である。
 批判を書いているようだが、現代の心理の捉え方など、美点は多いので、それはご了解願う。
引用
 以下に7首を引く。
めがさめてあなたがいない浴室にあなたが洗う音がしている
傘いらないくらいの雨で傘をさす怒りたいけど怒られたくない
積み上げた日々より薄い枚数の夏のレポートつき返される
細胞の生きたがること厭わしく隣家はすでに蔦となりたり
知っていた未来ばかりが訪れてたとえば黄身が二つの卵
いつまでも引きずりそうなミスをして真夏の屋外プール 冷たい
加工する前の写真を消してゆく指は銀河のようになめらか





 最近、紙の本を買う・読むことが多い。AmazonのKindle Unlimited会員としては、会費も払っているので、Unlimited本をタブレットにダウンロードした。
 書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」の2冊である。このシリーズは刊行を終了し、Unlimited本で未読の残りは少ないようである。
 このシリーズは、先の6月17日の記事、五十子尚夏・歌集「The Moon Also Rises」以来である。

惟任将彦「灰色図書館」
 惟任将彦(将は正字)・歌集「灰色の図書館」。
 単行本:2018年8月7日・刊。価格・1,836円
 Kindle版:2018年12月26日・刊。価格・1,600円。

二三川練 惑星ジンタ
 二三川練・歌集「惑星ジンタ」。
 単行本:2018年12月10日・刊。価格・1,836円。
 Kindle版:発行日・不明。価格・1,600円。

 共に読み了えて、ここで紹介したい。


五十子尚夏 The Moon Also Rises
 五十子尚夏・歌集「The Moon Also Rises」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 同じ新鋭短歌シリーズの歌集として、今月6日の記事にアップした、虫武一俊・歌集「羽虫群」kindle unlimited版を読むに次ぐ。
概要
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズの1冊。
 単行本:2018年12月10日・刊。価格:1,836円。
 kindle版:2018年12月27日・刊。価格:800円。
 kindle unlimited版は、追加金:無料。
 五十子尚夏(いかご・なおか)は、男性、1989年・生まれ、2015年・歌を始めた。
 この歌集には、324首、掌編小説1編、加藤治郎・解説「世界は踊る」、著者・あとがきを収める
感想
 「滅びゆくものへの美意識」(あとがき・から)より詠んで、華美なレトリックから、フィクションへ至る。
 美術、音楽に関わる歌が多い。外国旅行の地名も多い。
 人名、地名の固有名詞がたくさん出て来て、僕にはほとんど判らないが、ネット検索で一々調べる気になれない。電子書籍の機能の多くを欠いているので、その場での辞書・Wikipediaでの検索ができない。
 それでも僕がしまいまで読んだのは、青年の孤立した美意識と、その危うさに惹かれたのだろう。
引用
 以下に7首を引く。
一抹の不安重ねてゆくだけのmake loveへと誘うフロイト
信じられるものひとつとひきかえに防犯カメラに映す口づけ
夏青く照りてあなたが打つサーブ・アンド・ボレーの美しき日よ
九回の裏に斜線を引くような舌っ足らずの初恋でした
タクシーの後部座席で泣いていたあなたの嘘を見破れないで
クレーターのようなえくぼの深淵に不時着地点を見定めている
女流棋士が十二手先に人知れず美(は)しき正座を崩す火曜日



 
 
 
 

虫武一俊・羽虫群
 虫武一俊・歌集「羽虫群」kindle unlimited版を読み了える。
 Amazonよりタブレットへのダウンロードは、先の5月13日の記事、入手した6冊(2)にアップした。
 同じ新鋭短歌シリーズの読書は、先の5月10日の記事、小野田光・歌集「蝶は地下鉄をぬけて」に次ぐ。
概要
 書肆侃侃房の「新鋭短歌シリーズ」の1冊。
 単行本:2016年6月12日・刊。価格:1,836円。
 kindle版:発行日・不明。価格:800円。
 kindle unlimited版は、追加金・無料。
 虫武一俊は、1981年・生。龍谷大学・卒業。
 歌集「羽虫群」には、308首、石川美南・解説「だんだん楽しくなるいきどまり」、著者・あとがきを収める。
感想

 レトリック(修辞)が上手すぎて、衝撃的な事を詠んでも、真実のインパクトが弱い。
 会話体の多用がある。呼び掛けたい思いが強いのだろう。
 「三十歳職歴なしと告げたとき面接官のはるかな吐息」と詠みながら、短歌の力の故だろう、短歌の会で批評し、職にも就け、恋も得たようだ。
 啄木に繋がる、生活的弱者の系譜の歌人だっただろうか。短歌の救いを宣してまわっている僕には、好ましい例である。
引用

 以下に7首を引く。
少しずつ月を喰らって逃げている獣のように生きるしかない
死にたいと思う理由がまたひとつ増えて四月のこの花ざかり
「負けたくはないやろ」と言うひとばかりいて負けたさをうまく言えない
謝ればどうしたのって顔ばかりされておれしか憶えていない
秋というあられもなさにわたくしを見下ろす女ともだちふたり
駅前の冬が貧しい できなさとしたくなさとを一緒にされて
逃げてきただけだったのににこにことされて旅って答えてしまう




小野田光 蝶は地下鉄を抜けて
 小野田光・歌集「蝶は地下鉄をぬけて」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 書肆侃侃房の新鋭短歌シリーズ(kindle unlimited版)の読書として、先の4月15日の記事にアップした、九螺ささら「ゆめのほとり鳥」以来である。
 この歌集を含む、4冊のダウンロードは、先の3月15日の記事で報せた。
概要
 紙本版:2018年12月10日・刊。1,836円。
 kindle版:2018年12月27日・刊。800円。
 小野田光(おのだ・ひかる)は、1974年・生まれ、「かばん」会員。
 この歌集には、325首、東直子・解説「誰のものでもない、わくわく感」、著者・あとがきを収める。
感想

 若い人の短歌に慣れているつもりだが、前衛的過ぎる作品はわかりにくい。例えば「繁栄の淵の旋律くずれてもオーケストラをひやす月光」など。
 恋の歌に素直で優れた作品がある。
 野球好き、アイス・ホッケー好きで、選手に成り代わって詠んだ歌がある。
 激務の果て、精神科に通い、休職してしまう。素直な短歌を詠んでいたなら、そこまで進まずに救われていただろうか。
引用
 以下に7首を引く。
あけがたの君のかすかな寝息うけ虹の萌芽に疼くてのひら
ひき際が綺麗でしたね花束はどこかで燃えて香りを放つ
彼は背が高くて眼鏡をかけていてイルカの置き物ばかり集めた
なかなかにたのしい記憶でしたのでふともも裏に貼っておきます
感情の作り置きってできないと言いあいながら持つレジ袋
将来を話しあわずに配球を読みあいながら野球観戦
喉奥は生ぬるい沼 この夏の解をもたない人と歩めば




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