風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。

Kindle本の第1歌集「雉子の来る庭」をKDPしました。右サイドバーのアソシエイト・バナーよりか、AmazonのKindleストアで「柴田哲夫 雉子の来る庭」で検索して、購入画面へ行けます。Kindle価格:250円か、Kindle Unlimitedで、お買い求めくださるよう、お願いします。

歌集

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」より、15番目の歌集「晩冬」の(後)を紹介する。
 今月19日の記事、
同・(前)に次ぐ。大冊なので、前・後の2回に分けて紹介する。
概要
 この歌集の概要は、大略を上記リンクに記したので、ご参照ください。
 今回は、後半509ページ(「涌井」)より537ページ(後記)に至る、29ページ(1ページ20行)を読み了える。
感想
 北陸の自然、貧に耐える人々、自分の職を辞した老い、また老妻等を描いた、感銘深い作品が多い。
 職業的に近い立場だから、共感が多いのではないかと恐れる。学生や現職の人には、感銘薄いのではないか、というような。
 主情と客観の対立を越え、歌境も深まったのだろう。しかし後記では、「これらの作品は私の念念からはまだまだ遠い」と書きつけ、努力の意を述べている。
引用
 以下に7首を引く。
柊の花しづかなる冬の日にゆきて少女(をとめ)の汝(なれ)を見にしか(婚後五十年)
煮てもなほ口を開かぬ蜆など朝より老の忿りを誘ふ
妻の眼のなほたしかにて日野川の水の寒鮒を作りくれたり
割る海胆(うに)の上にそれきりなりしとふ老を羨(とも)しむ今日の葬りに
雪の上に杉より落ちて刺さりたる短き垂氷(たるひ)数限りなし
この夜を荒れつつ雪の降りたきか海の上にして雷のはげしさ
残る者は水に虹鱒を養ひぬ清滝川の上流にして

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写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。




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僕の歌は君の歌
 7月15日にAmazonよりダウンロードした、寒川猫持・第4歌集「僕の歌は君の歌」を、タブレットで読み了える。
 kindle unlimited版の歌集として、今月7日の記事にアップした、早坂類「ヘヴンリー・ブルー」以来である。
 kindle版:2014年7月22日・刊、540円。
 オンデマンド版:972円。
概要
 寒川猫持(さむかわ・ねこもち、1953年~)は、第2歌集「雨にぬれても」を山本夏彦に見いだされ、1時は有名になったが、離婚(のちに再婚)時の神経症などでうらぶれ、今は眼科医のアルバイトなどの他、「ぶらぶらしている」(彼のブログより)らしい。
 歌集には約400首と、「猫持俳句集」、他を収める。
引用と感想

 ハイライトとメモの機能が利くので、10余首にメモを付したが、7首に絞り、以下に引用と感想をアップする。
にゃん吉はいつも淋しく待ちいたり吾の帰りを待ちていたりき
 「キチや」の章15首を残すが、死後に後悔しても遅いだろう。
「んまいんまい」声あげて食うめいちまに毎日魚買いに行きたり
 「めいちま」(めいちゃま、めい様の意か)を猫可愛がりし溺れている。
めいちまが入院をせし三日間われら夫婦は泣き暮らしたり
 夫婦して、猫にメロメロである。もう少し冷静な、可愛がり方ができないものか。
悪性の脂肪肉腫になりまして手術を受けてまだ生きてます
 癌になって居直る様が、哀れを誘う。
鶉野の農地が売れて五百万振り込まれたり一息つきぬ
 1時は借金があったと書く。アテにしていたお金だと思う。
糖尿も脂肪肉腫も鬱病もひとえに母のストレスならむ
 「結婚をする前まではわが母が鬼であるとは思い知らざりしかな」とも詠む。毒母である。
体には管が八本付いていておまけに痛い拷問である
 手術後の状態を、客観的に自虐的に詠んでいる。


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 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、14番目の歌集「石の上の霜」を読み了える。
 今月6日の記事、同「青柚集」に次ぐ。
概要
 「石の上の霜(いしのうへのしも)」は、1977年、短歌新聞社・刊。683首、著者・後記を収める。
 「青柚集」より、約2年後の刊行である。
感想
 後記にあるように、「(北陸の)人間や風土が前集よりも幾らか深切に歌はれている」と言える。
 貧しい村の、老いた知識人として、村人の相談相手になり、また農業の教えを受ける。
 魚介を背に行商の媼たち、海女に、冬の副業に勤しむ媼たちを、とくにあわれ深く詠んでいる。
 また新しく、原発に潤う村をも詠む。
引用
 以下に7首を引く。
報いなきことに手を貸す隣ならず境の雪は吾が除(のぞ)くべし
鯵を鯖を振りて商ふ媼たち生くるに怯むなき媼たち
原電に潤ふ海の村といへ心けはしく荒(すさ)びゆくらし
隠すなき貧を互みに貶めて一つ入江には一つ村あり
洗濯機廻したるままに来しと言ふ媼の今朝の訴へは何
こぞりたつ浅葱は君の呉れしもの並びて萌ゆる韮に記憶なし
隠元の支への篠は今少し高く結へよの媼に倣(なら)
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写真ACより、「アールデコパターン」の1枚。




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早坂類 ヘブンリーブルー
 先の6月28日の記事「入手した3冊を紹介」で報せた内、早坂類・歌集「ヘヴンリー・ブルー」を読み了える。
概要
 2002年7月29日、オンデマンド版・刊。
 2014年12月20日、kindle版・刊。1,177円。
 早坂類(はやさか・るい)は、1959年・生。
 この前に歌集「まぼろしの庭」があり、小説「ルピナス」「睡蓮」、詩集7冊がある。
 歌集「ヘヴンリー・ブルー」は入交佐妃(いりまじり・さき)の写真とのコラボレーションである。
引用と感想
 行分かち書きなどの試みは良いのだが、どうも破壊的なのと反りが合わず、苦情っぽくなった。16年も前の歌集に、説教ぽくなっても、仕方がないのだが。
 ハイライトとメモの機能が利いたので、その記録に拠る。

三月の三日月なにもなしえない道のはたてのそらの切り傷
 挫折後の痛み、閉塞感だろうか。
満ちてくる光の中で口ごもるなにかさびしいきみのひとこと
 良いシーンだが、「さびしい」と書いてしまっては惜しい。
均されてしまった土の中に尖った小石が混じっている すこし輝く
 尖っていたい年齢、世代なのだろう。
まっすぐにまっすぐにゆけ/この夏の終わりの道を/たったひとつの
 青春の一途さは、挫折した時が怖い。
そのままに/そのままに/ただそのままに/僕らの生をいまそのままに
 現状保持の感情だろうか。繰り返しは試みだろうが、成功していると言いがたい。
壊れてよ もっと壊れて どこまでも壊れ果ててよ 解体屋です
 破壊ではなく、形成する事が大事と、僕は思っている。
此の中に在るものはただ単に愛といいます それ以外無い
 愛を口実に、壊してはいけない。



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 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、13番目の歌集、「青柚集」を読み了える。
 先の6月25日の記事、
同「石上」に次ぐ。
概要
 「青柚集(せいゆしふ)」は、1975年、短歌新聞社・刊。537首、著者・後記を収める。
 「石上」が1952年・刊なので、その間に約23年が過ぎている。
 1954年、歌集「氷見」の歌稿をまとめたが、生前に刊行される事はなく、没後2年の1992年、主宰していた「海潮」会員らによって刊行された。
 戦後7年の間に、10歌集(合同歌集を除く)を刊行していたペースからは、異常である。
 1956年、福井県小浜市に転任し、1967年、日本専売公社を定年となるも、福井県を去る事はなかった。1969年には「青垣」を去っている。
 このあと、1977年、1980年、1985年、1986年と歌集を刊行し、勢いを取り戻している。
 作歌上の迷いがあったのだろうか。
感想
 初め1952年の歌はわずか5首と少なく、後に次第に歌数が増えて行く。
 1953年の章「雪天」では、「すがすがと」「しらしらと」「さはさはと」と副詞の多用が目立ち、1種の後退だろう。
 「雪国の人々のかなしみ」を歌い上げたいと念じた、生活詠が深く冴えてくる。

引用
 以下に7首を引く。
夜の火に冬鯖の塩したたりてこのときのまの鋭き炎
誤ちて熟柿の種を呑みこみしわが妻の顔を真面(まとも)に見たる
踏み倒す者なき村の交はりに醤油を貸し蒲団の綿を借る
着る物の裾をからげて道を来る皆媼にて海の草を負ふ
蓄へ方塩にか糠にか吾が知らず余る水蕗を惜しみて残す
この海の養殖真鯛赤くすと人はさまざまに試むるらし
鯵か鯖か聞きてゆふべを待つたのし用なき老の花茣蓙の上

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写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。


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堀米好美 いのち
 今年4月23日の記事「入手した6冊」で報せた内、堀米好美・歌集「いのち」を読み了える。
 Googleアナリティクスの本は別として(第4章までの基本を学べば良いらしい)、最後まで残った本である。
概要
 2016年9月30日・刊の歌集「祈り」(現代短歌社)に次ぐ。
 kindle版:2017年9月21日、22世紀アート・刊。定価:1,000円。
 kindle unlimited版:追加金無料。大手出版社ではない、独立系・出版である。
 著者は1936年・生。「短歌21世紀」「ヒムロ」会員。
 千一首の大冊で、読み通すのに難儀した。
引用と感想
 ハイライトとメモの利く歌集だったので、タブレットで線引きと感想メモを残し、それを7首のみに削って、以下にまとめる。

筆書きの子より受けたる御年玉仏壇にあり今朝も目にする
 前の歌も含めて、戸惑い、寂しがっている。気になって仕様がないのだろう。
原発も津波も遠き吾が丘もダム近くして崩壊危し
 災害の多い世になった。異常気象、地殻変動、人災など。
追ひつきて更に追ひつき凱旋の「なでしこジャパン」誇らしきかな
 簡単に諦めてはいけない。女性の地位向上も示していた。
暮れきたる庭に明るき黄のひかりニッコウキスゲの何時しか生ひて
 写生的で自然な、優れた1首だと思う。
彼の日より七十年か戦なき世を守りたる人ら老い来ぬ
 実感の籠もる反戦歌である。
離り住む父送りゆく九歳は背を見つめゐて吾に応へず
 息子の単身赴任だろうか、家族皆に苛酷な事である。
吾何を為すべき今か為し得るかいのち燃やさむ背筋なほ立つ
 老いの一徹である。敗戦の日を知る者として、「安保法」反対など、権力批判を繰り返し詠っている。


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 最近に入手した3冊を紹介する。

 まず6月25日、所属する結社の歌誌、「覇王樹」2018年7月号が届いた。
 7月1日付け、覇王樹社・刊。40ページ。

 僕の掲載6首(8首より選)他は、もう1つのブログ「新サスケと短歌と詩」の
6月26日の記事より、順次掲載しているので、横書きながら是非ご覧ください。
早坂類 ヘブンリーブルー
 6月26日、AmazonのKindleストアより、早坂類・歌集「ヘヴンリー・ブルー」kindle unlimited版を、タブレットにダウンロードした。写真とのコラボらしい。

 紙本版:2002年・刊。
 kindle版:2014年12月20日・刊。1,177円。

生きるぼくら
 原田マハの小説「生きるぼくら」が、6月27日に届いた。
 徳間文庫、2016年5月10日・6刷。定価:690円+税。

 あるブログにこの本が紹介されて、すぐAmazonのマーケットプレイスへ注文した。
 後に注文がキャンセルされたが、別の店に再度注文して、入手した。
 予想より分厚く、423ページである。

 原田マハの作品は、印象の悪い1冊を読んでから、敬遠していた。この本は、感動的な小説のようだ。

 以上3冊、共に読み了えたなら、ここで紹介したい。


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