風の庫

読んだ本、買った本、トピックスを紹介します。純文学系読書・中心です。


歌集

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 先の9月9日の記事
「届いた2冊」で、到着を報せた砂子屋書房・現代短歌文庫「藤原龍一郎歌集」(正)(続)より、(続)に入る。
 内容的には(正)編の
「エッセイ・解説」に次ぐ。
  「続 藤原龍一郎歌集」には、3冊の歌集(各・完本)と、1冊の未刊歌集「ノイズ」を収める。
 まず初めの「嘆きの花園」を読み了える。
概要
 原著は、1997年、ジャテック出版・刊。
 首数不明、「あとがき」を収める。
感想
 たいていの語彙はわかるけれども、中に「セバスチャン・ジャプリゾ」「紅夜叉」などの僕には不明な語が混じる。(後に2つ(2名)共、Wikipediaで概要が判明した)。
 AMラジオ・ディレクターとして、ヒット番組を育てたとされる。
 バブル景気の波も被り、生活に、短歌に、相対的安定は至ったようだ。その中で、作歌への情念を昂ぶらせようと、当時先端だったらしい「コンビニ」に「文学の素」を求めようとしたりする。
 都市詠の歌集としては、僕がほとんど田舎住まいなので、あまり反応しなかった。
引用

 以下に7首を引用する。
アナログの思考回路がデジタルに蝕まれつつ軋む月夜だ
夜を灯すコンビニエンス・ストアーに文学の素あらば買わんよ
マンションに帰り着きたる肉体はさぶしえ『大辞林』に躓く
散文のまさに散文的あわれイベント実施マニュアル読めば
もてあそぶ言葉、肉体異ならず何を断念せし来し方か
ジュリアナ東京今宵テクノに綺羅めきて「諧調は偽り」なればこそ
二十世紀後半を生きわれにさえ白熱と呼ぶ日月はあり



タルト・タタンと炭酸水
 竹内亮・歌集「タルト・タタンと炭酸水」kindle unlimited版を、タブレットで読み了える。
 入手は、10月16日の記事、
入手した3冊(3)の初めにアップした。
概要
 各版の発刊日と価格は、上のリンクに記載したので、ご覧ください。
 竹内亮(たけうち・りょう)は1973年・生。東大法科大学院・修了。弁護士。
 223首、東直子・解説「命の色彩」、著者「あとがき」を収める。
感想
 静謐で透明な歌境は、今に珍しく、優れた特色である。
 明らかにフィクションとわかる歌がある。嘘を書くなら、嘘を現実っぽく思わせるか、現実を嘘っぽく思わせるかだが、この歌集では中途半端である。
 特色は翻って、生活と創作への反発・嫌悪が足りない感じがする。どのグループ(結社、同人誌)にも属さないからだろうか。
 今も健全に生活し、健詠している事を願う。
引用

 以下に7首を引く。
カーディガンの少女の横で少年は片足立ちで靴はき直す
雲が白い夏の初めの風の朝きみ柔かな瞼を開く
キッチンで知らない歌を口ずさみ君は螺旋のパスタを茹でる
長考の将棋のような間があって「それ、私も聞いたことある」
ひまわりの種を千粒買いました近所の道にそっとまきます
玄関のインターホンを押した後はにかみながら視線を下げる
絵の裏の最初のページ箴言は雲の小さい空に溶けゆく




タルト・タタンと炭酸水
 最近に僕が入手した3冊の本を報せる。
 昨年2017年3月27日の記事、
「入手した3冊(2)」に次ぐ。

 まずAmazonのkindle unlimitedから、10月10日に、歌集2冊をタブレットにダウンロードした。
 1冊は新鋭短歌シリーズ、竹内亮「タルト・タタンと炭酸水」。
 紙本:2015年3月13日・刊。1,836円。
 kindle版:2016年6月4日・刊。800円。

いつも空をみて
 同じく新鋭短歌シリーズより、浅羽佐和子「いつも空をみて」。
 紙本:2014年12月15日・刊。1,836円。
 kindle版:2016年6月4日・刊。800円。
 上記2冊とも、kindle unlimited版は、追加金・無料。

「歌壇」11月号
 Amazonに予約注文してあった、綜合歌誌「歌壇」(本阿弥書店)2018年11月号が、10月13日に届いた。
 169ページ、800円(税・込み、送料・込み)。

 僕の好みの本として、長く電子書籍に傾いていたが、最近、揺り戻しがあって、紙の本に親しんでいる。電子書籍はまだ、種類が少ない。今後は、どうなるかわからない。


 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、歌集「氷見(ひみ)」を読み了える。
 
同・「雪天」を読む(後)は、先の8月26日の記事にアップした。
概要
 上のリンクの中で、初期未刊歌集として、紹介した歌集である。
 岡部文夫(1908年~1990年)が、1947年~1954年の約8年間、富山県氷見市に在任した頃、周囲より「氷見観光の作品をまとめてみないか」と奨められて、1954年、歌集「氷見」の稿がまとめられた。
 著者の「巻末小記」まで付されながら、刊行される事はなく、没後の1992年に、主宰した「海潮」会員らによって、短歌新聞社より刊行された。412首。
感想
 作品は、氷見市を歩き回って手帳に書きつけた短歌だが、決して観光案内的なものではない。
 字余りの歌もあるが、時期の傾向で、推敲が足りない訳ではないだろう。
 この歌集の生前に未刊だった事が、続々と歌集を刊行した歌人が23年間潜んでいた、その理由の1つであったなら痛ましい。
 このあと全歌集の歌集編として、6冊の合同歌集よりの、抄出を残すのみである。

引用
 以下に7首を引く。
こほろぎのこゑこそひびけ昼ながらこの山中のひとつ石のした
石に割りしたたる雲丹(うに)を分ち食ふ蔭ひろき亜熱帯植物の中
山茶花のしたを来(き)しかば落ち布(し)けるその花びらに風は明るし
芽ぶかむとする銀杏の樹のしたに或いは田螺の煮ゆる火を瞻(も)
能登ちかきこの峡に住む九十八戸なべて竹を編む昼を灯して
砂の上(へ)を吾がゆきしかば培(やしな)ひて冬美しき葉牡丹の列
樺いろのおのれさびしき蛾がひとつ羽を開きて扁(ひら)たくをりぬ

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写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。



大西久美子 イーハトーブの数式
 大西久美子・歌集「イーハトーブの数式」kindle unlimited版を読み了える。
 先の8月10日の記事、
「入手した4冊」で報せた内、4冊目の本である。
概要
 ダウンロード時期、出版社、各版の出版時期・価格については、上のリンクに述べたので、ご参照ください。
 295首、加藤治郎・解説「北からの風と言葉」、著者・あとがきを収める。
 著者は、岩手県・生、2014年「未来短歌会」入会、加藤治郎に師事。
感想
 3月11日の東北大震災の時、彼女は鎌倉市にいて、郷里で入院中の父と連絡が取れなかった。その父が亡くなり、すでに母は亡く、兄弟姉妹もいないようだ。
 数学科の理系女子(リケジョ)として、淡い恋もありながら大学を卒業し、就職した。
 新しい歌人として、旧かな遣い、古典文法が珍しい。掉尾の歌(引用のしまい)のように、歌による救いを信じて(やや強引か)、生きてほしい。
引用

 以下に7首を引く。
0番線プラットホームに雪を踏む「しばれるなはん」のこゑを聞きつつ
海沿ひの瓦礫の上を飛ぶかもめ さくら色した足を揃へて
夕闇の深まりてくる病室で時々午後のかなしみを言ふ
透明なケースに残る新品の父の名のなきタオルやパジャマ
午前二時しまふくろふの鳴き声を呼び出してゐる電子辞書から
卓上に資料五枚が置かるるにまづ釈明を聞かされてゐる
ねむたくてねむれぬ指で打つキーの音の先には詩が待つてゐる



大西久美子さんが、ツイートをくださいました。

獅子座同盟 6
 今月16日、千原こはぎ・歌集「ちるとしふと」kindle unlimited版を紹介した所、連携ツイートに当人よりリツイートを頂いた。辿った所、フォロワーとツイートの数が抜群に多いので、僕のフォローは遠慮した。
 ただし彼女のブログ
「こはぎうた」は、僕のお気に入りに入れた。
短歌集の入手まで
 ちょうど短歌集「獅子座同盟 6」のネットプリントを配信していて、ブログにはコンビニでの手順が詳しく書かれてある。ただしそれは費用と手間も掛かるので、僕は「web閲覧版・PDFダウンロード(印刷用)はこちらから」の指すアドレスから、PDF版をダウンロードしプリントした。web閲覧では、少し読みにくい気がしたからである。
 A4判1ページに2面が印刷できるようだったが、僕は1ページ1面しかプリントできなかった。短歌や小文が読みやすくて良い。
 なお表紙写真は、ブログサイトよりお借りした。
概要
 7月23日~8月22日の獅子座生まれの、25名の歌人が7首ずつを寄せ、175首の短歌集である。
 表紙、内表紙、裏表紙を含めて、表裏印刷14枚。紙とインクは惜しくないが、印刷時間が少し惜しかった。
 カラーにすると、費用がぐんと上がるかも知れないが、好感度もぐんと上がるのだが。
感想
 商業ベースに乗らない、ネット時代のこのような作品の発表は、大歓迎である。認知度がやや低いだけで、それが上がれば、文学フリマのように爆発的に広まりそうな気がする。
 テーマを「星・宇宙・星座・獅子」に設定した事、若い歌人の多いことから、ロマンある恋歌が多いようだ。
 千原こはぎさんの「星曇り」7首が、デザイナーであり様々なプロデュースをしている人らしく、ネット時代の男女を描いて新しい。
 多賀盛剛さんの「星をみるひと」7首が、自称・丘ラッパーらしく、素直で機微を捉えて、声調も良い。


多賀盛剛さんがツイートをくださいました。

千原こはぎさんが、ツイートをくださいました。

 短歌新聞社「岡部文夫全歌集」(2008年・刊)より、歌集「雪天」(前)を紹介する。
 今月9日の記事、
同・「能登」に次ぐ。
概要
 原著は、1986年、短歌新聞社・刊。1070首、妻・岡部ミツのあとがきをおさめる。
 大冊なので(この全歌集で634ページ~700ページ、1ページ20行)、前後に分けて紹介し、今回は668ページの「鷺」の章までをアップする。
 1986年5月、岡部文夫は失語症に陥り入院、7月退院(自宅療養)、10月・歌集刊行した。78歳。
 翌年の「迢空賞」(歌壇最高の賞と思われる)を受賞。生前最後の歌集となった。
感想
 夫人のあとがきに拠ると、常と違って、推敲を重ねずに歌集刊行を依頼し、かえってそれが良かったのか、自ずと歌が満ちたのか、力感のある歌が多くを占める。
 前者の場合だとすると、推敲に推敲を重ねる歌人だったらしいが、修辞に自信があって、まとまり過ぎていたのかも知れない。
 「この幾日灼けつつ熱き炎天の沙のうへには蟻さへも見ず」のような、自然と自己の融合した秀歌が見られる。
 積雪の怖れ、通行人の少ない冬、老いの姿は、僕も実感を同じくする。また自然を美しく詠む。
引用

 以下に7首を引く。
夜昼となしに降りつむ屋根の雪ただに怖るる老いたる今を
冬の日の暮るるより通る人もなきこの雪ぐにの夜のひそけさ
降りやまぬ雪のゆふべの早きより鮟鱇を煮る妻とふたりに
北ぐにの春も近きか雪代の水を刷(は)きつつ風はかがよふ
一冬をすぎしばかりにかくまでに吾が老の足衰ふものか
半夏生に焼鯖を食ひて豊作を祈る慣ひも今に貧しき
海の上に降りつつ荒き夜の雨のときのまにして遠く移ろふ
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写真ACより、「アールデコ・パターン」の1枚。




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